企業法・授業まとめ-第5回-

【次に、競業取引について】

会社法3561号(競業及び利益相反取引の制限
「取締役は、次に掲げる場合には、株主総会において、当該取引につき重要な事実を開示し、その承認を受けなければならない。
取締役が自己又は第三者のために株式会社の事業の部類に属する取引をしようとするとき。」

一つの会社の役員をやっている人は、他の会社の役員の依頼を受けたり、社外取締役へ就任することも。
取締役は会社の機密情報等の重要な情報を知っている。
そうすると、会社のノウハウや顧客情報を奪う形で事業をおこなう可能性がある。
また、メインで関わる会社の役員業務で手抜きをするかもしれない。
(従業員の副業禁止のようなもの。ただし、副業が禁止なのではなく、あくまで競業が禁止。)
それを防ぐために、競業取引についてはあらかじめ承認を受けるというルールになっている。
委任契約であって雇用契約ではない。役員をそこまで拘束はできない。
ただし、就任時・出資時(創業社長が外部から出資を受ける場合の出資契約)に
誓約書を取られることもある。

 

【どの範囲が競業として規制の対象になるのか】
目的物と市場(地域・流通段階等)が競合する取引。

※会社法上の規制。この他、契約(誓約書など)で制限をする場合はある。
→競業取引と隣接した利益衝突事例

・会社の機会の奪取(=取引先を奪う)
・従業員の引き抜き(忠実義務違反とする判例もある。)

※実際に問題になるのはこの事例も多い。従業員と取引先を連れて独立。
会社としては大きな損害。誓約書でカバーできるのか?

★競業取引は利益相反と違い、無効にはならない。
→無効としても会社にとっては救済にならないから。

参考:利益衝突の開示※株主等に開示
※会社法施行規則74条2項2号3号、3項、同121、128条、 会社計算規則103条7号8号、同112条

※会社は様々な事業をおこなうため、その会社で今まで競業していないと思っていたことでも、ある日突然競業してしまうこともある。その都度において、競業している会社の場合には、承認をとらなければならない。範囲というのはケースバイケースで判断される。

<参考:東京地方裁判所昭和56年3月26日>
〔判決文〕
「原告会社と被告との関係は、あたかも原告会社の取締役会がある会社の株式を買収し、又は完全子会社を設立することを決定し、これを実行するため、被告に対し、必要な資金を交付して、その事務を委任したところ、被告が株式を買収し、又は会社を設立しながら、その株式を原告会社のものとはせず、自己やその家族等のものとしたような場合には、原告会社は被告に対し、委任の本旨に従い、その株式の移転を求めることができるのと同様に、本件の場合においても、原告会社は、その株式が被告において原告会社に移転することがなお不可能とはみられない限り、委任又はその類推により、被告に対し、その移転を求め、既にこれらの株式につき取得した配当金はこれを返還し、またその移転義務の履行が将来不可能になる場合には、その填補賠償を求めることができると解するのが相当であり、この方法こそが競業避止義務、善管注意義務及び忠実義務違反を理由とする損害賠償請求よりもはるかに直接的でかつ根本的な救済を得る結果となるものというべきである。」

※地方裁判所の判決

———

 

【報酬等の決定】
いわゆる「お手盛り」の弊害。
※自分の報酬は自分で決められない。

定款か株主総会決議による必要性。
※取締役会決議はできない。

会社法361条(取締役の報酬等)
「取締役の報酬、賞与その他の職務執行の対価として株式会社から受ける財産上の利益(以下この章において「報酬等」という。)についての次に掲げる事項は、定款に当該事項を定めていないときは、株主総会の決議によって定める。
① 報酬等のうち額が確定しているものについては、その額
② 報酬等のうち額が確定していないものについては、その具体的な算定方法
③ 報酬等のうち金銭でないものについては、その具体的な内容」

※株主総会が定めた最高限度額内での各取締役の報酬額は取締役会に委ねられる。
→ちょっとややこしいが、株主総会で上限を決め、「内訳とか細かいことは任せた!」と取締役会に委任することはOK、ってこと。

最高裁判所昭和60年3月26日※使用人部分の給与
〔判決文〕
「商法269条の規定の趣旨は取締役の報酬額について取締役ないし取締役会によるいわゆるお手盛りの弊害を防止する点にあるから、株主総会の決議で取締役全員の報酬の総額を定め、その具体的な配分は取締役会の決定に委ねることができ、株主総会の決議で各取締役の報酬額を個別に定めることまでは必要でなく、この理は、使用人兼務取締役が取締役として受ける報酬額の決定についても、少なくとも被上告会社のように使用人として受ける給与の体系が明確に確立されており、かつ、使用人として受ける給与がそれによつて支給されている限り、同様であるということができる、(2)右のように使用人として受ける給与の体系が明確に確立されている場合においては、使用人兼務取締役について、別に使用人として給与を受けることを予定しつつ、取締役として受ける報酬額のみを株主総会で決議することとしても、取締役としての実質的な意味における報酬が過多でないかどうかについて株主総会がその一視機能を十分に果たせなくなるとは考えられないから、右のような内容の本件株主総会決議が商法269条の脱法行為にあたるとはいえない」
最高裁判所昭和39年12月11日※退職慰労金
〔判決文〕
「株式会社の役員に対する退職慰労金は、その在職中における職務執行の対価として支給されるものである限り、商法280条、同269条にいう報酬に含まれるものと解すべく、これにつき定款にその額の定めがない限り株主総会の決議をもつてこれを定むべきものであり、無条件に取締役会の決定に一任することは許されないこと所論のとおりであるが、被上告会社の前記退職慰労金支給決議は、その金額、支給期日、支給方法を無条件に取締役会の決定に一任した趣旨でなく、前記の如き一定の基準に従うべき趣旨であること前示のとおりである以上、株主総会においてその金額等に関する一定の枠が決定されたものというべきであるから、これをもつて同条の趣旨に反し無効の決議であるということはできない。」

 

【報酬としてのストック・オプション(新株予約権)】
インセンティブとしてのもの。会社の価値向上という意味で、同じ方向。
株なら、「株」として渡すだけ。お金自体は出て行かない。お給料はお金。
※ストックオプションの場合は、株を買う権利(発行価額、権利行使価額)。

会社の懐が痛まない。双方にメリットがある。ただし、他の株主の保有割合が低下するので、有利に発行する場合は特別決議が必要。
報酬に関しては、その他、業績連動型報酬、定期同額給与として税法上の問題。

※報酬が確定するのはいつか?

<最高裁判所平成15年2月21日>
〔判決文〕
「株式会社の取締役については、定款又は株主総会の決議によって報酬の金額が定められなければ、具体的な報酬請求権は発生せず、取締役が会社に対して報酬を請求することはできないというべきである。けだし、商法269条は、取締役の報酬額について、取締役ないし取締役会によるいわゆるお手盛りの弊害を防止するために、これを定款又は株主総会の決議で定めることとし、株主の自主的な判断にゆだねているからである。」

※働いていても決議がないと請求不可。
→当たり前のことしか言っていないのだが、何が言いたいかというと、
役員というのは“必ずしも報酬を受け取らなければいけない”ということはなく、無報酬で働くこともある。0という報酬額もあり得る以上、具体的な金額を決議しなければ、取締役が会社に報酬を請求することはできない、と判断したのがこの判決。

最高裁判所平成17年2月15日
〔判決文〕
株主総会の決議を経ずに役員報酬が支払われた場合であっても、これについて後に株主総会の決議を経ることにより、事後的にせよ上記の規定の趣旨目的は達せられるものということができるから、当該決議の内容等に照らして上記規定の趣旨目的を没却するような特段の事情があると認められない限り、当該役員報酬の支払は株主総会の決議に基づく適法有効なものになるというべきである」
「本件決議に本件訴訟を上告人らの勝訴に導く意図が認められるとしても、それだけでは上告人らにおいて本件決議の存在を主張することが訴訟上の信義に反すると解することはできず、他に上告人らが本件決議の存在を主張することが訴訟上の信義に反すると認められるような事情はうかがわれない」

参考:「特段の事情があると認められない限り」という言葉。「特段の事情」を設定する意義。「ない」ではなく「あると認められない」。

最高裁判所平成4年12月18日
〔判決文〕
「株式会社において、定款又は株主総会の決議(株主総会において取締役報酬の総額を定め、取締役会において各取締役に対する配分を決議した場合を含む。)によって取締役の報酬額が具体的に定められた場合には、その報酬額は、会社と取締役間の契約内容となり、契約当事者である会社と取締役の双方を拘束するから、その後株主総会が当該取締役の報酬につきこれを無報酬とする旨の決議をしたとしても、当該取締役は、これに同意しない限り、右報酬の請求権を失うものではないと解するのが相当である。」

※一度適法に成立すると取り消せない⇒解任した場合の損害賠償にもつながる。
→役員報酬について、一度決議しないと請求できないが、決議したあとは取り消せない、という判決。

 

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