企業法・授業まとめ-第5回-

【内部統制システム構築義務】

一番、難解な会社法の規定・システムの一つ。
他の条文と比較して規定が単純だがその中身は複雑。

※これまでに見た規定はある意味ガバナンスをすべて包括的にフォローしないと構築できない。その分、どこまでやれば良いのか、何をしないとNGなのかの判断が付かない。

・責任を肯定した事例、否定した事例

内部統制の構築が求められる理由:
取締役の会社業務の適法性を確保するための方策。上場会社、すべての従業員の業務を役員が監督するのは不可能。不正が出来ない組織・システムづくりが必要。システムで担保する。

<大阪地方裁判所平成12年9月20日>※責任肯定
〔判決文〕
「以上によれば、大和銀行が当時置かれていた厳しい状況を考慮しても、企業経営者として著しく不合理かつ不適切な経営判断を行ったものであるから、取締役の善管注意義務及び忠実義務に違反したものと言うべきである。」

※なお、文字数約10万字の長大な判決文。地裁判決。

<最高裁判所昭和48年5月22日>※責任否定
〔判決文〕
「…、さらに、前記事実関係によれば、売掛金債権の回収遅延につきBらが挙げていた理由は合理的なもので、販売会社との間で過去に紛争が生じたことがなく、監査法人も上告人の財務諸表につき適正であるとの意見を表明していたというのであるから、財務部が、Bらによる巧妙な偽装工作の結果、販売会社から適正な売掛金残高確認書を受領しているものと認識し、直接販売会社に売掛金債権の存在等を確認しなかったとしても、財務部におけるリスク管理体制が機能していなかったということはできない
以上によれば、上告人の代表取締役であるAに、Bらによる本件不正行為を防止するためのリスク管理体制を構築すべき義務に違反した過失があるということはできない。」

⇒とにかくケースバイケース。

 

【その他の問題】
会社の行為について役員に連帯責任を負わせる。

利益供与、120条1項で責任を負う(規則21条)。
連帯して供与された利益の額に相当する額を支払う義務。
利益を供与して取締役自身は責任を免れることができない。
(その他、現物出資、剰余金の配当、自己株式の処分)

連帯責任:取締役会決議を要求する場合、決議に賛成したものはNG(423条3項3号)。議事録に異議をとどめなければ、決議に賛成したものと推定される(369条5項)。
複数の役員がいる場合、連帯責任(430条)
※連帯責任とは?

 

【役員の責任免除・軽減】
責任の免除:
総株主(議決権のないものも含む)の同意が無ければ免除不可(424条)。
∵株主は1名でも株主代表訴訟を提起できることからバランスのため。
→逆に、総株主が許せば免除される。

責任の軽減:
上場会社は事実上役員の責任免除はできない。であれば、軽減?
なお、自己のための直接取引は軽減の対象にできない。

軽減の方法は3種類。

・株主総会決議による軽減(425条)※事後、限度あり。
・取締役会決議による軽減(426条)※定款に定めれば、事前決議で可能。
・責任限定契約による軽減(427条)※定款に定めれば、事前に可能。

参考:会社役員等賠償保険。消滅時効は10年(最判H20.1.28)。

 

【役員等の責任追及】
・株主代表訴訟
あくまで会社→役員への責任追及を株主が代行するだけ。
※役員等の同僚意識などから会社が役員等の責任追及を怠ることもありうる。
そのため、会社法は個々の株主に会社のために役員等の責任追及等の訴えを提起することを認める。
※取締役に対する訴えの提起は、取締役が決める。しかし、取締役会の決議は全員で行っており、多かれ少なかれ、訴える側の自分にも責任があることから、「1人に対する責任追及」というのもなかなか難しい。ゆえに、株主に代わりにやってもらう。

株主が株主自身の損害を直接追及するのは429条。
(会社に対する責任であるが、外にいる人に対しても責任を負うことがある。それが⇩の条文。)

会社法429条(役員等の第三者に対する損害賠償責任)
「役員等がその職務を行うについて悪意又は重大な過失があったときは、当該役員等は、これによって第三者に生じた損害を賠償する責任を負う。」
最高裁判所平成21年3月10日
〔判決文〕
「昭和25年法律第167号により導入された商法267条所定の株主代表訴訟の制度は、取締役が会社に対して責任を負う場合、役員相互間の特殊な関係から会社による取締役の責任追及が行われないおそれがあるので、会社や株主の利益を保護するため、会社が取締役の責任追及の訴えを提起しないときは、株主が同訴えを提起することができることとしたものと解される。そして、会社が取締役の責任追及をけ怠するおそれがあるのは、取締役の地位に基づく責任が追及される場合に限られないこと、同法266条1項3号は、取締役が会社を代表して他の取締役に金銭を貸し付け、その弁済がされないときは、会社を代表した取締役が会社に対し連帯して責任を負う旨定めているところ、株主代表訴訟の対象が取締役の地位に基づく責任に限られるとすると、会社を代表した取締役の責任は株主代表訴訟の対象となるが、同取締役の責任よりも重いというべき貸付けを受けた取締役の取引上の債務についての責任は株主代表訴訟の対象とならないことになり、均衡を欠くこと、取締役は、このような会社との取引によって負担することになった債務(以下「取締役の会社に対する取引債務」という。)についても、会社に対して忠実に履行すべき義務を負うと解されることなどにかんがみると、同法267条1項にいう「取締役ノ責任」には、取締役の地位に基づく責任のほか、取締役の会社に対する取引債務についての責任も含まれると解するのが相当である。」

 

【株主代表訴訟に勝った場合、負けた場合】
株主代表訴訟を提起して勝っても、損害賠償額は会社に。
株主は間接的にしか利益は無い(全体価値の向上にしか寄与しない)。
しかも参加しなかった株主はフリーライド。
→正義感から、許せないからおこなう、ということか。

会社法847条1項(責任追及等の訴え)
「6箇月(これを下回る期間を定款で定めた場合にあっては、その期間)前から引き続き株式を有する株主(第189条2項の定款の定めによりその権利を行使することができない単元未満株主を除く。)は、株式会社に対し、書面その他の法務省令で定める方法により、発起人、設立時取締役、設立時監査役、役員等(第423条第1項に規定する役員等をいう。以下この条において同じ。)若しくは清算人の責任を追及する訴え、第120条第3項の利益の返還を求める訴え又は第212条第1項若しくは第285条第1項の規定による支払を求める訴え(以下この節において「責任追及等の訴え」という。)の提起を請求することができる。ただし、責任追及等の訴えが当該株主若しくは第三者の不正な利益を図り又は当該株式会社に損害を加えることを目的とする場合は、この限りでない。」

※とはいえ、誰が不当な目的だと判断するの?和解の問題?基本的には、承認が必要。

 

【役員等の第三者に対する責任(429条)】

会社法429条
「不法行為責任ではなく、第三者を保護するために定められた特別の法定責任」

因果関係とは?現実の機能。

株主の責任は何?429条2項?
金商法?株価?上場企業では中身まで見られない。

最高裁判所昭和44年11月26日
〔判決文〕
「しかし、法は、株式会社が経済社会において重要な地位を占めていること、しかも株式会社の活動はその機関である取締役の職務執行に依存するものであることを考慮して、第三者保護の立場から、取締役において悪意または重大な過失により右義務に違反し、これによつて第三者に損害を被らせたときは、取締役の任務懈怠の行為と第三者の損害との間に相当の因果関係があるかぎり、会社がこれによつて損害を被つた結果、ひいて第三者に損害を生じた場合であると、直接第三者が損害を被つた場合であるとを問うことなく、当該取締役が直接に第三者に対し損害賠償の責に任ずべきことを規定したのである。」
「しかし、もともと、代表取締役は、対外的に会社を代表し、対内的に業務全般の執行を担当する職務権限を有する機関であるから、善良な管理者の注意をもつて会社のため忠実にその職務を執行し、ひろく会社業務の全般にわたつて意を用いるべき義務を負うものであることはいうまでもない。したがつて、少なくとも、代表取締役が、他の代表取締役その他の者に会社業務の一切を任せきりとし、その業務執行に何等意を用いることなく、ついにはそれらの者の不正行為ないし任務懈怠を看過するに至るような場合には、自らもまた悪意または重大な過失により任務を怠つたものと解するのが相当である。」

 

【責任を負う役員の範囲】

名目的取締役
(前掲。招集権があるのだから、招集して報告を受けなければいけないので責任を負う。)

非常勤取締役:S55.3.18
かつては株式会社の取締役に3人必要だった。
登記簿上の取締役の責任:S47.6.15
不実の登記の残存:S62.4.16

最高裁判所昭和55年3月18日>※名目的取締役
〔判決文〕
「被上告人岸武は、村田満津次(第一審被告)が代表取締役を勤めていた訴外淀川ラセン株式会社(以下「訴外会社」という。)の取引先である宇野工業株式会社の代表取締役であつたが、村田の要請によつて、訴外会社が新株1万株(1株500円)を発行した際(これによりその資本の額は1000万円となる。)、そのうち4000株(200万円)を引き受けるとともに訴外会社の取締役に就任したものの、右就任は、同被上告人において訴外会社に常勤せずその経営内容にも深く関与しないことを前提とするいわゆる社外重役として名目的にしたものであり、実際にも同被上告人は訴外会社に一度も出社したことがなく、その業務の執行は村田の独断専行に任せこれにつき何ら監視することもなく、村田に対し取締役会を招集することを求めたり、自らそれを招集したりしたこともなかつたところ、その間、村田は、代金支払の見込みもないのに訴外会社を代表して上告会社から液体アルゴン等を買い受け、その代金を支払うことができなかつたため、上告会社に損害を与えた、というのである。
ところで、株式会社の取締役は、会社に対し、取締役会に上程された事項についてのみならず、代表取締役の業務執行の全般についてこれを監視し、必要があれば代表取締役に対し取締役会を招集することを求め、又は自らそれを招集し、取諦役会を通じて業務の執行が適正に行われるようにするべき職責を有するものである(最高裁昭和46年(オ)第673号同48年5月22日第三小法廷判決・民集27巻5号655頁)が、このことは、前記被上告人岸武につき原審が認定したような会社の内部的事情ないし経緯によつていわゆる社外重役として名目的に就任した取締役についても同様であると解するのが相当である。」
最高裁判所昭和47年6月15日>※名目的取締役
〔判決文〕
「ところで、原審の確定した事実によれば、上告人の取締役への就任は、右会社の創立総会または株主総会の決議に基づくものではなく、まつたく名目上のものにすぎなかつたというのである。このような場合においては、上告人が同会社の取締役として登記されていても、本来は、商法266条の3第1項にいう取締役には当たらないというべきである。けだし、同条項にいう取締役とは、創立総会または株主総会において選任された取締役をいうのであつて、そのような取締役でなければ、取締役としての権利を有し、義務を負うことがないからである。
商法14条は、「故意又ハ過失ニ因り不実ノ事項ヲ登記シタル者ハ其ノ事項ノ不実ナルコトヲ以テ善意ノ第三者ニ対抗スルコトヲ得ズ」と規定するところ、同条にいう「不実ノ事頃ヲ登記シタル者」とは、当該登記を申請した商人(登記申請権者)をさすものと解すべきことは諭旨のいうとおりであるが、その不実の登記事項が株式会社の取締役への就任であり、かつ、その就任の登記につき取締役とされた本人が承諾を与えたのであれば、同人もまた不実の登記の出現に加功したものというべく、したがつて、同人に対する関係においても、当該事項の登記を申請した商人に対する関係におけると同様、善意の第三者を保護する必要があるから、同条の規定を類推適用して、取締役として就任の登記をされた当該本人も、同人に故意または過失があるかぎり、当該登記事項の不実なことをもつて善意の第三者に対抗することができないものと解するのを相当とする。
上告人が前記訴外会社の取締役に就任した旨の登記につき、同人が承諾を与えたことは、前示のとおりであり、同人が右登記事項の不実であることを少なくとも過失によつて知らなかつたことは原審の適法に確定するところであるから、同人は、右登記事項の不実であること、換言すれば同人が同訴外会社の取締役でないことをもつて善意の第三者である被上告人に対抗することができず、その結果として、原審の確定した事実関係のもとにおいては、上告人は被上告人に対し
同法266条の3にいう取締役としての責任を免れ得ないものというべきである。」

→役員として登記などに名前が載っている以上「名前を貸しただけです」では通用しないということ。

<最高裁判所昭和62年4月16日>※登記の残存(不実の登記)
〔判決文〕
「株式会社の取締役を辞任した者は、辞任したにもかかわらずなお積極的に取締役として対外的又は内部的な行為をあえてした場合を除いては、辞任登記が未了であることによりその者が取締役であると信じて当該株式会社と取引した第三者に対しても、商法(昭和56年法律第74号による改正前のもの、以下同じ。)266条の3第1項前段に基づく損害賠償責任を負わないものというべきである(最高裁昭和33(オ)第370号同37年8月28日第三小法廷判決・裁判集民事62号273頁参照)が、右の取締役を辞任した者が、登記申請権者である当該株式会社の代表者に対し、辞任登記を申請しないで不実の登記を残存させることにつき明示的に承諾を与えていたなどの特段の事情が存在する場合には、右の取締役を辞任した者は、同法14条の類推適用により、善意の第三者に対して当該株式会社の取締役でないことをもつて対抗することができない結果、同法266条の3第1項前段にいう取締役として所定の責任を免れることはできないものと解するのが相当である。」

 

【役員に就任(登記の重さ、会社法908条】

会社法908条(登記の効力)
「1 この法律の規定により登記すべき事項は、登記の後でなければ、これをもって善意の第三者に対抗することができない。登記の後であっても、第三者が正当な事由によってその登記があることを知らなかったときは、同様とする。
2 故意又は過失によって不実の事項を登記した者は、その事項が不実であることをもって善意の第三者に対抗することができない。」
会社法909条(変更の登記及び消滅の登記)
「この法律の規定により登記した事項に変更が生じ、又はその事項が消滅したときは、当事者は、遅滞なく、変更の登記又は消滅の登記をしなければならない。」

※辞めたら自分で削除の登記ができるの?定員を満たさない場合は?

⇒役員というのは、色々な人に対して責任をとらされることが非常に多い。特に上場会社の役員ともなれば、株主にもいろんな人がいるので、その分訴えられるリスクがある。ただ、きちんとやっていれば善管注意義務など違反しないはず…。
これは経営に対する判断であるが、裁判所は経営に対する判断をしたことがある人たちで構成されているわけではないので、裁判をするときはそんな人たちにもわかりやすいように立証活動しなくてはならないので、大変…かも。


今回はここまで。

役員が会社に対して責任を負いつつ、また外の人に対しても責任が発生するなかで、会社はどういったコーポレートガバナンスを構築しなければいけないのか…というのは次回のお話です。

ということで、次回のテーマは「コーポレート・ガバナンス」です。
お楽しみに。

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