企業法・授業まとめ-第6回-

【株式会社の機関設計(コーポレートガバナンス)】

→監査・監督という権利を図にするとこうなる。
(選解任権は別として)
監査役が独立性であることの利点は、“合議で決める”必要がないので、誰か1人が「この人のやってることはダメだ…!」と思ったら、「あなたの行為ダメですよ!」ということができる。
しかし取締役の場合は、(言えなくもないのだが)あくまで“取締役会”から意見することになっている。取締役の1人が「この人の行為はダメだ!」と思った時に何をするかというと、取締役会を招集し、「この人の行為ってダメですよね?」ということを議案として提出しなければならない。
ざっくりではあるが、上図のように、実際に職務をおこなう代表取締役のことを、色々な方向から色々な人が監査・監視している。

会社法上このように定められており、非常にうまくできている気がする。…しかし、これでもまだ足りないと言われており、新しい制度が導入されている。

では、どのような制度が導入されているのか。または、どのような制度があれば良いか。
→『取締役会に、外部からの取締役を入れる。外部取締役の数が多いと公平性が出るのでは。』?

会社法上、外部からきた取締役のことを「社外取締役」という。
多くの場合、取締役や監査役の候補者としてまず“お友達”を連れてくる。
取締役も監査役も株主が決めるといいつつ、オーナーの推薦だったり、選任に関する議案を提出するのが取締役であったりするので、そうなると結局その“お友達”が選ばれる可能性が高い。
そんな“お友達”が“お友達”を監視することは難しい。ゆえに、外部から役員を連れてくることで、外部の視点から、自分たちの行為が正しいかチェックを受けなければならない、と会社法上決められている。特に上場会社の場合は、そういう規制が多い。

…ということを踏まえた上で、以下の記事を参照されたい。

参考記事:
「日本企業、社外取締役を増やせ」海外株主が要請  計7兆円分保有
(2014/6/5 日本経済新聞 電子版)
⇒海外は進んでいる。しかし、制度が進んでいる分、不正も進んでいる。
不正が進んだ結果、制度もその不正に追いつこうとしている!

数字で知る日本経済2(10)社外取締役、最低2人に 透明性高め投資呼ぶ(2015/5/11 日本経済新聞)

 

【上場会社の社外取締役の設置について】
2015年に会社法が改正され、以下のような条文ができた。

会社法327条の2(社外取締役を置いていない場合の理由の開示)
「事業年度の末日において監査役会設置会社(公開会社であり、かつ、大会社であるものに限る。)であって金融商品取引法第24条第1項の規定によりその発行する株式について有価証券報告書を内閣総理大臣に提出しなければならないものが社外取締役を置いていない場合には、取締役は、当該事業年度に関する定時株主総会において、社外取締役を置くことが相当でない理由を説明しなければならない。」
ちょこっと豆知識:
法律は改正されると⇧のように「の2」といった枝番になる。
途中で条文を入れ込んでくる。
なぜかというと、全部番号を振り直して番号をずらしていくと、せっかくセットで覚えた番号と条文がずれてしまい、すべて覚え直すことに。ゆえに、条文は継ぎ接ぎで増えていく。
そうすることで、「●条だから、だいたいこんな感じの内容かな…」ということも予測できたりする。

※理由の説明を求められる会社とは:
「大会社」であり「公開会社」であるところに限る。
⇒株主などがいることで社会的な責任も大きくなる。そうすると「ちゃんと経営しなければ!」ということで、強制するために社外取締役といのを置かなければならない。

ただすべての会社が社外取締役を置かなければいけない、というようには定められていない。
夫婦で経営しているような小さな会社から、トヨタのような大手企業まですべてが「株式会社」。そのすべての株式会社に及ぶ法律というのが、「会社法」。
その会社法に「株式会社は社外取締役を置かなければいけない」と書いてしまうと、すべての会社がそうしなければならなくなる。だからそういう書き方はしていませんよ、というのがこの条文。

※単に社外監査役がいるから、等の理由では認められない。
→設置について事実上強制されることになった。
⇒社外取締役を置かない場合の理由の開示が定められたとは、そういうこと
「うちの会社はしっかりやっているし、そんなの置かなくても大丈夫!」という言い訳をきちんとできる会社であれば置かずともOKですよ、という抜け道は一応用意されている。ただ、事実上置かなければいけないことが、この条文によって強制された。

現実には、「社外」の役員確保は困難。能力、経験、信用。
⇒そこらへんの人を連れてくれば良いかといと、勿論そんなこともなく…
友達ではない、優秀な人材を連れてくるのはなかなか難しい。

 

上場会社で社外取締役設置について事実上強制
※今までは、監査役の半数以上が「社外」であれば良かった。

会社法335条3項(監査役の資格等)
「監査役会設置会社においては、監査役は、3人以上で、そのうち半数以上は、社外監査役でなければならない。」

参考記事:
改正会社法1日施行 社外取締役が経営監査、上場100社超移行
(2015/4/30 日本経済新聞 電子版)

会社法上、取締役会と監査役会はそれぞれ3人ずつ必要であり、そのうち
取締役会:1人
監査役会:半数以上(つまり最低2人)
これ以上の社外取締役が必要になる。
つまり、6人いる役員のうち、3人を外部から連れてければならなくなる。

「社外」とは、ざっくりいうと「それまでその会社で働いたことがない人」。
一度でも働いたことがあれば、「社外」ではなくなってしまう。
取締役会が出世のゴールだ!といった話があるが、取締役になる人というのは、業務の執行をしてはならない。
つまり、社外取締役になるには
・今までその会社で働いたことがない
・その会社に加入してからも、その会社の業務を執行してはならない
という2つの要件がある。では彼らは何をやっているのか?

 

 

【監査等委員会について(2015年5月1日から)】
「監査等委員会設置会社」の新設

会社法331条6項(取締役の資格等)
「監査等委員会設置会社においては、監査等委員である取締役は、3人以上で、その過半数は、社外取締役でなければならない。」

※メリットとして…
・社外役員が1名少なくて済む。
・「社外取締役を置くことが相当でない理由」の説明や開示が不要となる。
・監査役の任期は4年であるのに対し、監査等委員である取締役の任期は2年であるため、改選について柔軟に対応できる。

⇒今までの委員会設置会社とは違う制度で、取締役会のみ置き、その中に「監査等委員会」というものを設ければ、監査役会を置かずともよい、ということになった。

※導入が急激に増えている。
⇒この制度は、327条の2と同時期くらいにできたもの。そこで、今まで社外取締役を置いていなかった会社が「これは良い制度ができた」として、監査役会の社外監査役をそのまま取締役にすることで、監査等委員会設置会社へ移行した。
その結果、監査等委員会設置会社へ移行した上場会社は600社前後にものぼった(委員会会社は70社ほどだった。)。

参考記事:
「監査等委設置会社」移行、600社に 上場企業の2割
(2016/4/25 日本経済新聞 電子版)

「指名委」設置 4倍475社 14年比、企業統治意識高まり
(2016/5/18 日本経済新聞 朝刊)

3メガ銀 持ち株会社主導に 銀行中心主義を脱却
(2016/5/12 日本経済新聞 電子版)

三井住友トラストHD、指名委等設置会社に移行検討
(2016/7/19 日本経済新聞 夕刊)

みずほ、社外の目で規律強化 傘下3社の統治見直し
(2017/5/10 日本経済新聞 電子版)

平山よりワンポイント✍:会社法を学ぶにあたって
10年後同じ制度が残っているかというと、正直そんなことはない、というのが個人的意見。この監査等委員会設置会社というのも、2015年にできた話。
会社法ができたのが10年前、そして10年たたないうちに新しい制度ができている。そう考えれば、10年後に全く同じ機関構成で会社法が動いているかというと、そうではないということになる。
ゆえに、細かい制度や「今こうなっている」ということを覚えるよりは、なんとなく、
「当時は“外部の人間を入れろ”という議論がされていて、監査等委員会だったり、社外取締役を選任する条文ができていたんだな…」ということを、大まかに知っておくことが大切なのではないだろうか。また、参考記事を紹介して何が言いたいかというと、「機関を適切に構築することで不正を防ぐとこができたのか・できなかったのか」という議論。「できる」ということを追いかけて、「こういう機関を構築すれば不正は防げる」ということを考えなければいけない。「どうせやっても無理だよ、諦めよう」とはならない。不正を防ぐため皆頑張っており、その結果として様々な委員会や機関が作られている。

 

コメントを残す

メールアドレスが公開されることはありません。 * が付いている欄は必須項目です

CAPTCHA