企業法・授業まとめ-第6回-

【コーポレートガバナンスの目的(講学上)】
会社法は実務の市場・経済の動きに影響を受け、講学上の概念・意味づけが整理されて規定される。

・コーポレートガバナンスの目的として、「効率性の確保」と「公正性の確保
→会社の経営者は、株主から委任を受け、効率性と公正性の確保の要請に誠実に応える経営をおこなわなければならない。取締役のおこなう経営の監督は、この2つの要請が確実に実現されているかを効果的にモニタリングするシステムの構築・維持すること。
※「コーポレートガバナンス」という言葉自体に明確な定義はない。
取締役や職務執行、ひいてはその下にいる従業員による細かな業務を含めて、「不正をしないようにしよう」「業務の効率性を高めよう」という議論をひっくるめて「コーポレートガバナンス」といったりする。
この言葉自体が重要というより、ワードとして知り、現在コーポレートガバナンスを追い求めていく社会になっているんだ、ということを認識しておく。
不正をせずに・されずに、業務を効率的にまわしていくための会社の組織・組織形態・機関設計は何が大事なのか…という話。

※とはいえ、完璧なシステムはない。あらゆる組織の統治システムの変遷を見ても明らか。また、制度として、法として規定されていても、実効性が無いことがある。
→規定されていても、中にいる人が不正をしようと思えばできてしまう…

例:監査役←制度上権限が強化されてきたが(法定任期の延長など)、それでも会社の内部出身者が常勤監査役となることもあり、元上司であることもある取締役に対して苦言を呈しにくい。

→順にそれぞれの機関のおこなう監督・監視について説明
※会社の機関設計はどんどん強化されていっている。

 

 

取締役会(取締役を監督する立場として)

・取締役会が設けられた理由として事前事後の職務執行の規制

事前:重要な業務については取締役会の決定が必要
事後:取締役会として取締役の職務の執行を監督

さらに、代表取締役の選解任権。
(権限がいきすぎると、オリンパス事件のように代表取締役が解任されてしまう…)

※取締役会によるモニタリングは、適法性だけではなく、妥当性にも及ぶ
→法律的なことば。
妥当性に及ぶとはつまり経営判断のところなので、「てるみくらぶ」が倒産した話などは、まさに妥当性のところ。会社の業績があがる・うまくいかないに関しては、取締役がきちんと見ていかなければいけない。つまり、適法性だけでなく、「違法な残業はだめですよ」とか、そういうところに関しても、しっかり監視・監督していかなければいけないよってこと。

もっとも、取締役会による監督は十分機能していないとの批判。
・取締役の人数が多すぎて十分な議論ができない。
・取締役は従業員の出世のゴールという意味合いが強い。
・業務執行取締役が多く、社外取締役が少ない。自己監督が難しい。同僚批判が困難。
→人数の多さについて、昔だと20-30人いたこともあり、十分な議論をおこないことが難しかった。また、取締役は「代表取締役の部下」のイメージが強く、代表取締役に対してなかなか物申しづらい。

再掲:<最高裁判所昭和48522(取締役の監督義務)
〔判決文〕
「株式会社の取締役会は会社の業務執行につき監査する地位にあるから、取締役会を構成する取締役は、会社に対し、取締役会に上程された事柄についてだけ監視するにとどまらず、代表取締役の業務執行一般につき、これを監視し、必要があれば、取締役会を自ら招集し、あるいは招集することを求め、取締役会を通じて業務執行が適正に行なわれるようにする職務を有するものと解すべきである。」

→取締役が実際どのように業務監督をするのか:取締役会を通して業務監督します、というのがこの判例のケース。

大阪高等裁判所平成1869(最高裁で維持)
〔判決事項〕
食品販売会社において、食品衛生法上使用が認められていない添加物を使用した商品が販売されていたことを後から認識した取締役らに、その事実を公表すべき義務があると認められた事例(ダスキン)。
〔判決文〕
「以上のとおり、一審被告らは、本件混入や本件販売継続の事実がZ側からマスコミに流される危険十分認識しながら、それには目をつぶって、あえて、「自ら積極的には公表しない」というあいまいな対応を決めたのである。そして、これを経営判断の問題であると主張する。しかしながら、それは、本件混入や販売継続及び隠ぺいのような重大な問題を起こしてしまった食品販売会社の消費者及びマスコミへの危機対応として、到底合理的なものとはいえない。すなわち、現代の風潮として、消費者は食品の安全性については極めて敏感であり、企業に対して厳しい安全性確保の措置を求めている。未認可添加物が混入した違法な食品を、それと知りながら継続して販売したなどということになると、その食品添加物が実際に健康被害をもたらすおそれがあるのかどうかにかかわらず、違法性を知りながら販売を継続したという事実だけで、当該食品販売会社の信頼性は大きく損なわれることになる。
ましてや、その事実を隠ぺいしたなどということになると、その点について更に厳しい非難を受けることになるのは目に見えている。それに対応するには、過去になされた隠ぺいとはまさに正反対に、自ら進んで事実を公表して、既に安全対策が取られ問題が解消していることを明らかにすると共に、隠ぺいが既に過去の問題であり克服されていることを印象づけることによって、積極的に消費者の信頼を取り戻すために行動し、新たな信頼関係を構築していく途をとるしかないと考えられる。また、マスコミの姿勢や世論が、企業の不祥事や隠ぺい体質について敏感であり、少しでも不祥事を隠ぺいするとみられるようなことがあると、しばしばそのこと自体が大々的に取り上げられ、追及がエスカレートし、それにより企業の信頼が大きく傷つく結果になることが過去の事例に照らしても明らかである。ましてや、本件のように6300万円もの不明朗な資金の提供があり、それが積極的な隠ぺい工作であると疑われているのに、さらに消極的な隠ぺいとみられる方策を重ねることは、ことが食品の安全性にかかわるだけに、企業にとっては存亡の危機をもたらす結果につながる危険性があることが、十分に予測可能であったといわなければならない。
したがって、そのような事態を回避するために、そして、現に行われてしまった重大な違法行為によってダスキンが受ける企業としての信頼喪失の損害を最小限度に止める方策を積極的に検討することこそが、このとき経営者に求められていたことは明らかである。ところが、前記のように、一審被告らはそのための方策を取締役会で明示的に議論することもなく、「自ら積極的には公表しない」などというあいまいで、成り行き任せの方針を、手続き的にもあいまいなままに黙示的に事実上承認したのである。それは、到底、「経営判断」というに値しないものというしかない。」
「このようにみると、一審被告Y2及び一審被告Y1の善管注意義務違反、さらには、その後の「自ら積極的には公表しない」というあいまいで消極的な方針が、保健所の立ち入り検査後にマスコミ各社の取材を受ける形で急遽公表を迫られ、それにより上記のような大々的な疑惑報道がなされるという最悪の事態を招く結果につながったことは否定できない。したがって、一審被告Y1及び一審被告Y2と、その他の一審被告らは、事実を知った時期及び地位などに照らしその割合を異にするとはいえ、いずれもその善管注意義務違反により損害が拡大したことに責任を負うべきである。」

→取締役が「隠した」ことについて、良かったのか・悪かったのか、という話。
そこにダイレクトに触れている判決なのでおさえておきたい。
⇒結果として損害賠償が認められた。
※細かい部分に関し、判例・判決によってさまざまな判断がされている。よって、取締役というのはその都度、経営判断として、しっかりとした判断をしなければいけないということ。これが取締役の職務。

 

 

【監査役(取締役の職務執行を監査する)】

取締役会の監督機能が不十分であるため、
監査役に業務監査をおこなってもらうことに(昭和25-49年にかけて)。

しかし、それでも不十分であったので
徐々に権限・独立性を強化(昭和49年-現在までの改正)。

・取締役や使用人などとの兼任禁止
・任期の延長(4年で短縮不可)
・監査役は株主総会での選任・解任の意見陳述権、選任同意権

そのほか、監査役会設置の場合は、社外監査役の設置義務。
監査役はそれぞれ独立して業務ができる。
では、監査役会設置の理由?1人だと言いにくいこともあるから?

 

 

【監査役(違法性監査、独任制)】

・権限としては業務の適法性監査のみ
→取締役会で経営・業務の妥当性について発言をおこなうことも(しかし権限・義務ではない)。
そもそも、どこまでが妥当性でどこまでが適法性か。

・監査役会の場合でも独任制を維持する理由(適法性については、個々人で判断すべき?しかし、合議体であっても適法性の判断は可能であり、必然ではない。方針の決定をおこなって、効率的に監査をおこなうことが理由か)。

・取締役の違法行為を見つけた場合には、取締役会を招集、報告、違法行為の差し止めをすることができ、それが義務でもある。
→これがなかなか難しい…

※監査役は「妥当性」という、“経営がうまくいくかどうか”というところには、深く踏み込んで監督はしない。あくまで「適法性」についてしか監督しないといわれている。
ダスキンの事件でいうと、食品添加物の混入に関し、それを「入れるべきか・入れないべきか」といのはまさに「適法性」の部分なので、監査役はそれを見て「やめなさい」ということができる。
「食品添加物を入れてしまった」ことを「公表するか・しないか」について、公表しないことは違法でないのであれば、公表の有無は経営判断でもある。そこまで監査役が踏み込んで監視・監督する必要があるかというと、微妙なところ。ないという説もある。そこがまさに、「監査役には適法性監査をする権限はあるけれど、妥当性については権限がない。」というように言われるところ。どこまでが適法性・妥当性なのかというのは難しい。

 

 

取締役報酬(インセンティブとして)

・株主と同じ利益を目標にすれば、取締役にも株主利益最大化の動機づけができる。これもコーポレートガバナンスの一つ。企業の業績として重要な要素
→役員報酬の増額を仕組みとして担保する。

※ストックオプション
(会社の業績上がる⇒株価上がる⇒キャピタルゲイン)
→もっとも、経営者の努力、会社の業績に完全に連動するわけではない。
また、利益操作のインセンティブも生まれてしまう。

※ストックオプションの付与によって業績向上との間に関連性が無いとの調査結果も……。

 

 

【株主による経営監督】
→というのも最終的におこなわれる。

・所有と経営は分離しているので基本的には経営の監督はおこなわない。

・存続に関わる重要なこと(合併・解散・事業譲渡)、また株主の権利に影響すること(新株発行)についてのみ議決をおこなう。

・少数株主の意見は、決議には影響が無い(フリーライドが増える。)。

※一票の価値
※ただし、少数株主権、株主代表訴訟によって権利を確保

→会社の業績等がうまくいかなかったとき、一応取締役にも選解任権があるので、そこを通して会社をうまく経営するように会社に頑張ってもらおう、と。

 

 

【株主代表訴訟】

・取締役は会社に対して責任を負っている。
会社→(委任)→取締役(会社法423条)

しかし、同じ経営者同士の仲間意識等から本来損害賠償請求しなければならないのに、請求しないこともある。
会社が損害賠償請求をしないのならば、代わりに株主が役員に対して請求(訴訟)をおこなう。
※濫訴の防止のために、不当訴訟は制限されている。

再掲:<最高裁判所平成21年3月10日
〔判決文〕
「昭和25年法律第167号により導入された商法267条所定の株主代表訴訟の制度は、取締役が会社に対して責任を負う場合、役員相互間の特殊な関係から会社による取締役の責任追及が行われないおそれがあるので、会社や株主の利益を保護するため、会社が取締役の責任追及の訴えを提起しないときは、株主が同訴えを提起することができることとしたものと解される。そして、会社が取締役の責任追及をけ怠するおそれがあるのは、取締役の地位に基づく責任が追及される場合に限られないこと、同法266条1項3号は、取締役が会社を代表して他の取締役に金銭を貸し付け、その弁済がされないときは、会社を代表した取締役が会社に対し連帯して責任を負う旨定めているところ、株主代表訴訟の対象が取締役の地位に基づく責任に限られるとすると、会社を代表した取締役の責任は株主代表訴訟の対象となるが、同取締役の責任よりも重いというべき貸付けを受けた取締役の取引上の債務についての責任は株主代表訴訟の対象とならないことになり、均衡を欠くこと、取締役は、このような会社との取引によって負担することになった債務(以下「取締役の会社に対する取引債務」という。)についても、会社に対して忠実に履行すべき義務を負うと解されることなどにかんがみると、同法267条1項にいう「取締役ノ責任」には、取締役の地位に基づく責任のほか、取締役の会社に対する取引債務についての責任も含まれると解するのが相当である。」

 

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