企業法・授業まとめ-第8回-

敵対的買収
ターゲット会社の経営者の協力がない場合の企業買収のこと。

買収者の考え;
支配権を握ることにより、より利益を上げることがで出来ると考えているから。
(例:ターゲット会社の全株式の時価合計額が当該会社のあるべき企業価値を下回っている場合。)

会社を切り売りしてしまうのではないか(掠奪的企業買収)。
会社全体の長期的利益の増大には役立たないのではないか。
最大株主の利益に役立てばOK?
敵対的買収には、当該会社の株主全体の長期的利益の増大を図る場合とそうでないものとがある。

そこで敵対的買収に関する法ルールのあり方が検討される。

・経営者と株主の権限分配問題

買収防衛策を経営者(取締役会)が決めていいのか?
※株主総会の特別決議を経ればOK?株主総会で決めれば何でも決められるのか?
会社は基本的には株主のものではないのか?

→株主と経営者の間で経営に関する権限分配。分配される経営権・業務執行権の
範囲の中に防衛策の発動の是非の決定も含まれる。

会社に関する十分な情報も必要。それを最も豊富に有するのはまさに会社の経営者。
それに比して株主の情報量は格段に劣る。経営者に意思決定させるのが適切ではないか。
会社の根本的な問題に関する事項だから総会決議事項?

←そもそも、根本的な問題である、多額の借財、支配権変動募集株式発行については
会社法は取締役会決議で良いとしている。

 

 

取締役の利益相反の問題
経営者の判断:
敵対的買収に応じた方が良い場合でも防衛策を発動。
株主の利益よりも自己の保身を図る可能性。利益相反?

株主総会決議を経ればOK?
株主総会も株式持ち合い等により経営者の意思が反映されてしまうのではないか?
株主総会決議の絶対視は良くないのか?
(突きつめると、株主総会に正義?を求めることになってしまいかねない。
会社はどうあるべきか、会社の存在意義、信条的な話?)

あくまで取締役会で賛成するのならばOKでは?そもそも会社法上、利益相反取引の承認機関は取締役会。

経営者は株主から経営を委任されている立場。
会社を所有する、所有しようとする株主という存在を超えて、「会社」のために何かを
すること、を観念することは妥当なのか?他のステークホルダーの存在。

これまでの上場企業:独立役員の選任が困難。しかし、規制として、独立役員を義務化。
会社法上も規制がされる=法的な規制。コーポレートガバナンスでクリア?取締役会が健全化。

 

 

防衛策
買収者である株主の株式保有割合を低下させる方法が効果的。

株式あるいは新株予約権の発行は基本的に資金調達のために用意。
資金調達目的のために発行すべき、それ以外の支配権維持のために用いるのは妥当ではなく、
著しい不公正な発行として差止めの対象となる。

最高裁が防衛策の発動を認めたブルドックソース事件(H19.8.7)。
→資金調達目的皆無。敵対的買収者の持ち分割合を大幅に減少させることのみを目的として発行。

主要目的ルールを本件に当てはめれば、この防衛策の発動は
到底認められるものではない。しかし、株主総会の特別決議があるということで許容した。

株式:
既存株主の経済的利益のみならず、支配権にも影響する行為。もともと、企業価値の毀損を防止し、その価値を維持するための発行も当然理論的にありうることであった。

資金調達の目的にのみなされるべきという発想自体が妥当ではない。
調達によっての投資が企業価値=株主全体の利益を増加させないのであれば、
そもそも経営決定として意許容されるべきではない。
資金調達は手段であって、目的ではない。
株式を発行して何をしたいのかが目的として存在すべき。
そこに会社価値の向上があるのであれば、目的として正当。

しかし、そのような判断を裁判所ができるのか。

最高裁判所平成19年8月7日決定>(ブルドックソース事件)
〔判示事項〕
「1 株主平等の原則の趣旨は株主に対して新株予約権の無償割当てをする場合に及ぶか
2 株主に対する差別的取扱いが株主平等の原則の趣旨に反しない場合
3 特定の株主による経営支配権の取得に伴い、株式会社の企業価値がき損され、株主の共同の利益が害されることになるか否かについての審理判断の方法
4 株式会社が特定の株主による株式の公開買付けに対抗して当該株主の持株比率を低下させるためにする新株予約権の無償割当てが、株主平等の原則の趣旨に反せず、   会社法247条1号所定の「法令又は定款に違反する場合」に該当しないとされた事例
5 株式会社が特定の株主による株式の公開買付けに対抗して当該株主の持株比率を低下させるためにする新株予約権の無償割当てが、会社法247条2号所定の「著しく不公正な方法により行われる場合」に該当しないとされた事例」
※買収防衛策として。
株主総会の8割以上の賛成で可決、既存株主は1株につき3株の新株予約権、スティールパートナーズも新株予約権を受け取るが行使不可能で自己の提案したTOB価格で買い取ってもらえるのみ。経済的損失は無いが議決権は取れず。」
〔判決要旨〕
「1 会社法109条1項に定める株主平等の原則の趣旨は、株主に対して新株予約権の割当てをする場合にも及ぶ。
2 特定の株主による経営支配権の取得に伴い、株式会社の企業価値がき損され、株主の共同の利益が害されることになるような場合に、その防止のために上記特定の株主を差別的に取り扱うことは、衡平の理念に反し、相当性を欠くものでない限り、会社法109条1項に定める株主平等の原則の趣旨に反しない。
3 特定の株主による経営支配権の取得に伴い、株式会社の企業価値がき損され、株主の共同の利益が害されることになるか否かについては、株主総会における株主自身の判断の正当性を失わせるような重大な瑕疵が存在しない限り、当該判断が尊重されるべきである。
4 株式会社Yが株主であるXによる経営支配権取得のための株式の公開買付けに対抗して新株予約権の無償割当てを行うに当たり、新株予約権の内容につき、X及びその関係者以外の株主は割り当てられた新株予約権を行使することなどによって株式の交付を受けることができるが、X及びその関係者は割り当てられた新株予約権を行使することができず、Yは金員を交付することによって上記新株予約権を取得することができる旨の差別的な条件及び条項が定められていた場合において、次の(1)~(3)などの判示の事情の下では、上記新株予約権の無償割当ては、会社法109条1項に定める株主平等の原則の趣旨に反せず、同法247条1号所定の「法令又は定款に違反する場合」に該当しない。
5 株式会社Yが株主であるXによる経営支配権取得のための株式の公開買付けに対抗して新株予約権の無償割当てを行うに当たり、新株予約権の内容につき、X及びその関係者以外の株主は割り当てられた新株予約権を行使することなどによって株式の交付を受けることができるが、X及びその関係者は割り当てられた新株予約権を行使することができず、Yは金員を交付することによって上記新株予約権を取得することができる旨の差別的な条件及び条項が定められていた場合において、次の(1)~(3)などの判示の事情の下では、上記新株予約権の無償割当ては、経営支配権を取得しようとする行為に対する対応策として事前に定められ、示されていなかったことなどを考慮しても、会社法247条2号所定の「著しく不公正な方法により行われる場合」に該当しない。
〔判決文〕
>判決要旨3に関して
「株主平等の原則は、個々の株主の利益を保護するため、会社に対し、株主をその有する株式の内容及び数に応じて平等に取り扱うことを義務付けるものであるが、個々の株主の利益は、一般的には、会社の存立、発展なしには考えられないものであるから、特定の株主による経営支配権の取得に伴い、会社の存立、発展が阻害されるおそれが生ずるなど、会社の企業価値がき損され、会社の利益ひいては株主の共同の利益が害されることになるような場合には、その防止のために当該株主を差別的に取り扱ったとしても、当該取扱いが衡平の理念に反し、 相当性を欠くものでない限り、これを直ちに同原則の趣旨に反するものということはできない。そして、特定の株主による経営支配権の取得に伴い、会社の企業価値がき損され、会社の利益ひいては株主の共同の利益が害されることになるか否かについては、最終的には、会社の利益の帰属主体である株主自身により判断されるべきものであるところ、株主総会の手続が適正を欠くものであったとか、判断の前提とされた事実が実際には存在しなかったり、虚偽であったなど、判断の正当性を失わせるような重大な瑕疵が存在しない限り、当該判断が尊重されるべきである。」
>判決要旨5に関して
「本件新株予約権無償割当ては、本件公開買付けに対応するために、相手方の定款を変更して急きょ行われたもので、経営支配権を取得しようとする行為に対する対応策の内容等が事前に定められ、それが示されていたわけではない。確かに、会社の経営支配権の取得を目的とする買収が行われる場合に備えて、対応策を講ずるか否か、講ずるとしてどのような対応策を採用するかについては、そのような事態が生ずるより前の段階で、あらかじめ定めておくことが、株主、投資家、買収をしようとする者等の関係者の予見可能性を高めることになり、現にそのような定めをする事例が増加していることがうかがわれる。しかし、事前の定めがされていないからといって、そのことだけで、経営支配権の取得を目的とする買収が開始された時点において対応策を講ずることが許容されないものではない。本件新株予約権無償割当ては、突然本件公開買付けが実行され、抗告人による相手方の経営支配権の取得の可能性が現に生じたため、株主総会において相手方の企業価値のき損を防ぎ、相手方の利益ひいては株主の共同の利益の侵害を防ぐためには多額の支出をしてもこれを採用する必要があると判断されて行われたものであり、緊急の事態に対処するための措置であること、前記のとおり、抗告人関係者に割り当てられた本件新株予約権に対してはその価値に見合う対価が支払われることも考慮すれば、対応策が事前に定められ、それが示されていなかったからといって、本件新株予約権無償割当てを著しく不公正な方法によるものということはできない。
また、株主に割り当てられる新株予約権の内容に差別のある新株予約権無償割当てが、会社の企業価値ひいては株主の共同の利益を維持するためではなく、専ら経営を担当している取締役等又はこれを支持する特定の株主の経営支配権を維持するためのものである場合には、その新株予約権無償割当ては原則として著しく不公正な方法によるものと解すべきであるが、本件新株予約権無償割当てが、そのような場合に該当しないことも、これまで説示したところにより明らかである。
したがって、本件新株予約権無償割当てを、株主平等の原則の趣旨に反して法令等に違反するものということはできず、また、著しく不公正な方法によるものということもできない。」

ブルドックソースを買収しようとしたファンド(以下「SP」)があり、ブルドックの経営者は「SPなんかに買われたら大変なことになる…」と、新株予約権のかたちで他の人に株式を発行しようとしたが、「それが本当にOKなのか」の判断を裁判所に仰いだ。
⇒ブルドックとSPの両社とも、「会社を良くしたい」という価値観は基本的に変わらないはずだが、経営者にしてみれば「口出しされたくない」とかあるのかも…

結果的として、多数派の決議によってSPは失敗

SPはブルドックに対し
「そんな買収防衛策をとって、自分たちに支配権を握られないようにする手続きをやっていいのか!」とクレーム

しかし、本件は取締役会の決議のみならず、最終的に株主総会で決議をとっていたため、最終的にはOKとの判断がされた

以上ののち、SPは株式取得によって様々な会社を買おうとしたが失敗が続き、
最終的に撤退することになった…というのが以下のニュース。

参考記事:
『もの言う株主』退潮鮮明 スティール、サッポロ撤退
(2010/12/16 日本経済新聞 電子版)

会社の経営者が「敵対的買収」をどこまで防ぐべきなのか。
会社は株主のものであるから、株主が全部買ってしまえばそこまでであるが、権利者が会社を守るためにどこまで方針を決めていいのか、は非常に難しいところ。
価値観の話になってくるので、どちらがいいとも言い難い。

<東京地方裁判所平成元年7月25日決定>(主要目的ルール)
〔判示事項〕
「新株の発行が時価より著しく有利な価額によるものであり、かつ著しく不公正な方法によるものであるとして、その発行が差し止められた事例。」
〔判決文〕
「商法は、株主の新株引受権を排除し、割当自由の原則を認めているから、新株発行の目的に照らし第三者割当を必要とする場合には、授権資本制度のもとで取締役に認められた経営権限の行使として、取締役の判断のもとに第三者割当をすることが許され、その結果、従来の株主の持株比率が低下しても、それをもってただちに不公正発行ということはできない。しかし、株式会社においてその支配権につき争いがある場合に、従来の株主の持株比率に重大な影響を及ぼすような数の新株が発行され、それが第三者に割り当てられる場合、その新株発行が特定の株主の持株比率を低下させ現経営者の支配権を維持することを主要な目的としてされたものであるときは、その新株発行は不公正発行にあたるというべきである。また、新株発行の主要な目的が右のところにあるとはいえない場合であっても、その新株発行により特定の持株比率が著しく低下されることを認識しつつ新株発行がされた場合は、その新株発行を正当化させるだけの合理的な理由がない限り、その新株発行もまた不公正発行にあたるというべきである。」
※買収防衛策として

参考記事:
企業の海外投資、増勢続く 直接投資150兆円超え 15年末時点
(2016/5/24 日本経済新聞 電子版)

海外M&A、隆盛期に 3兆円に倍増
(2011/9/30 日本経済新聞 朝刊)
⇒海外M&Aも2011年の時期にはやっていた。
円高になると海外の会社を安く買えるので「海外を買う」ブームになる。

MBO、過去最高ペース 今年15社が上場廃止
(2011/10/5 日本経済新聞 朝刊)
⇒MBOは「マネジメント・バイアウト」*の略。
一度上場したにも関わらず、「やっぱ上場やめた!」と上場株を持っている現株主から全株を買い集め、上場をやめるという作業・手続きをする会社がある。
カルチュア・コンビニエンス・クラブもひとつの例。

*MBO:M&Aのひとつ。経営陣が金融支援を受けることで会社を設立し、自社の株式や事業を買収して独立する手法。

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