企業法・授業まとめ-第8回-

今回のテーマ:M&A(Mergers and Acquisitions)

Q:M&Aと聞いて思い浮かぶことはありますか?
A:具体的な企業名は分からないが、アメリカで結構盛んに行われているイメージ

合併(Mergers)と買収(Acquisitions)

つまり、企業の合併・買収であるが、企業(の事業や資産)を取得したり、
企業の支配権を取得したりすることの総称として用いられる。
1980年代後半からM&Aブームが生まれた。2000年前後に一度ピークがくる。

  • 世界的には、技術革新の進展した成長企業
    (IT関連産業における戦略的なM&A)
  • 日本では、成熟産業における統合型・再建型のM&Aブームの並行が特徴
    ⇒日本では、会社の経済的なシチュエーションでM&Aをすることがよくある。
    成長している過程だけではなく、倒産しそうになってどこかの傘下に入る、といった場合もM&A。前回紹介したものだと、シャープと鴻海の話がそれにあたる。

※企業を買収するプロセスは?(上場・非上場)企業の価値は?
(企業自体は大量生産品ではない、個別に価格が付き、取引が行われる)

「会社を買う」ということは難しい。
自分の勤める会社でさえ分からないことがあるのに、「買おうとする会社が何をやっているか」の深いところまでは全く分からない。
また、「会社を買う」「一緒に経営していく」というときに、買われる側が嘘をついたり、ちょっとうまく見せたりすることもある(「お化粧をする」という)。
会社は「法人」であるという話をしたが、人と人が付き合っていく上で、最初と見えていたものが違ったり、付き合っていくなかで分かることなど色々ある。

M&Aは、
付き合いが始まり→友達を経て→分かりあって→「合併しましょう!」
というケースももちろんあるが、そうではないことも多い。
表面的なことだけで「この会社を買おう」と、何百億、何千億、何兆という買い物をする。中身が分からない中でそうした値踏みをして会社を買わなければいけない。

買うときは必ず値段を決定する。上場企業は「株式時価総額」がある為、なんとなく企業価値を知ることができるが、上場していない会社の場合は本当にわからないのである。

⇩例えば

・その瞬間に『現金100億円しか持っていない』という場合
→企業価値を「100億円」としてもいいと思う。
・『土地を買うのに10億円、ある資産を買うのに10億円使った』という場合
→バランスシートでいう「資産の部」に書いてある資産が、本当にその価値のあるのか全く分からなくなる…

⇩そうすると

売りたい側の自分の企業価値:
バランスシートを見たときに100億円しか載っていないが、
「この100億円の資産を使って、将来5000億円くらい稼ぎます」と言えば企業価値も5000億になるのかという話になってくる。

買う側の値踏み:
「将来5000億円稼ぐとしても、今買うのなら2000億円程で…」と値段を決める。
でも2000億円と値段がついている会社は、バランスシート上の資産は100億円でしかない。100億円の会社を(将来5000億円になるかもしれないから)2000億円で買う、ということ。

この値段の決め方というのは、

売る側「2000億円の企業価値があるんですよ」ということを言う

買う側「そんなに言うのなら実際調査をしてみましょう」と会社の中へ入っていき、いろいろな調査をおこなう

買う側「2000億円って言ってたけどそんなに価値ないですよね、だから1500億円で!」

…など、値段の付け方がある。
とはいえ、それまでの間10~20年、少なくとも1年程は会社が経営されてきた内容を、短期間で調査するというのはかなり難しい
(M&Aの企業調査は短いと数日、長くても1-2ヶ月で調査する。交渉を含めるともっと長いが、ケースバイケース。)

なぜ「かなり難しい」かというと
例えば「あなたが生きてきた何十年を、1時間に要約して話してください。」
と言われても、抜け落ちることは沢山ある。
企業がおこなっている活動や会計などを要約して説明するよう言われても、
なかなか要約して説明し尽くせない。
そうなると、買う側も不安になってくる。
「ウソを言ってないか」「大事なことを隠していないか」など。

⇩そういう場合、何をするかというと

売る側に表明保証をしてもらう。
「あなたの言っている帳簿とか、全部正しいということを保証してください」
「全部は見きれないので、そちらが正しいという情報は信じます。ただし、保証した情報や正しいといった事項に違反した場合は、損害を補償してくださいね。」
といった合意をするのである。
(しかし、この合意に関して“軽く調べれば調べ切れて分かったことなのに…”ということについては、“それでも買ったほうが悪い”みたいなことを言われたりも。)

参考記事:
買収価格はつくられる 危うい第4次M&Aブーム
(2011/12/11 日本経済新聞 電子版)

買収価格は「企業買収の価格算定を請け負う金融業者」が決める。
会社の売り買いは頻繁にあることではないので、値決めは専門家に頼む。しかし、専門家であっても、企業価値というのはなかなか正確に算定できるわけではない。
というように、「会社を買う」ことは非常に難しいが、様々な流れやブーム、また円高・円安などがある中で、M&Aは時々ブームが起きる。

※ちなみに、今までのM&Aブームは
第一次:バブル期
第二次:「ITバブル」といわれる、2000年代初め
第三次:小泉内閣の頃

東京地方裁判所平成18年1月17日決定
〔判示事項〕
「消費者金融会社Aの企業買収(M&A)を目的とするAの全株式の譲渡契約において、その譲渡価格は、Aの簿価純資産額により算出されており、株式の売主であるYらが、買主であるXとの間で、Aの財務諸表が完全かつ正確であり、一般に承認された会計原則に従って作成されたものであること等を表明、保証し、この表明、保証した事項に違反があった場合にはこれにより被ったXの損害を補償することを合意していたが、Aは、実際には、元本の弁済に充当していた和解債権についての弁済金を利息に充当し、同額の元本についての貸倒引当金の計上をせず、貸借対照表上不当に資産計上しており、Xは、このことにつき悪意または重大な過失があるとは認められないなど判示の事実関係のもとにおいては、Yらは、Xに対し、不当に資産計上された利息充当額等の損害を補償する義務を負う。」
〔判決文〕
「本件において、原告が、本件株式譲渡契約締結時において、わずかの注意を払いさえすれば、本件和解債権処理を発見し、被告らが本件表明保証を行った事項に関して違反していることを知り得たにもかかわらず、漫然これに気付かないままに本件株式譲渡契約を締結した場合、すなわち、原告が被告らが本件表明保証を行った事項に関して違反していることについて善意であることが原告の重大な過失に基づくと認められる場合には、公平の見地に照らし、悪意の場合と同視し、被告らは本件表明保証責任を免れると解する余地があるというべきである。しかし、企業買収におけるデューディリジェンスは、買主の権利であって義務ではなく、主としてその 買収交渉における価格決定のために、限られた期間で売主の提供する資料に基づき、資産の実在性とその評価、負債の網羅性(簿外負債の発見)という限られた範囲で行われるものである。  前記のとおり、アーンストアンドヤングは、本件のデューディリジェンスにおける営業貸付金の評価については、修正純資産法を採用し、一般的な手法である一部DCF法及び営業権(のれん)の考え方を採用して、将来金利収入及び将来元本返済の合理的な見積額(将来キャッシュフロー)を算定し、その現在価値を求めることとしており、和解債権については、和解内容のとおりに返済がなされているか否かの確認も行わず、上記生データについても、和解債権については、一般的なフォームを知るために数通の合意書を提出させるにとどめ、サンプリングで抽出された35件全部について照合を行うことはしなかったのであるが、このことについては特段の問題はない。また、Aが監査法人による監査を受けていたことからすると、アーンストアンドヤングがAの作成した財務諸表等が会計原則に従って処理がされていることを前提としてデューディリジェンスを行ったことは通常の処理であって、このこと自体は特段非難されるべきでない。アーンストアンドヤングは、Aの監査法人の変更の理由についても、ビーエー東京及びBに対して確認しており、トーマツに確認しなくてもそれが重大な落ち度であるということはできない。本件においては、取り分け、前記のとおり、A及び被告らが原告に対して本件和解債権処理を故意に秘匿したことが重視されなければならない。以上の点に照らすと、原告が、わずかの注意を払いさえすれば、本件和解債権処理を発見し、被告らが本件表明保証を 行った事項に関して違反していることを知り得たということはできないことは明らかであり、原告が被告らが本件表明保証を行った事項に関して違反していることについて善意であることが原告の重大な過失に基づくと認めることはできない。なお、被告らは、通常企業の買収のためのデューディリジェンスにおいては買主の選択する会計処理及び評価の方法により財務諸表を作成するとか、和解債権の会計処理について元本及び利息のいずれの弁済に充当されているかは重要であるので十分に調査するなどと記載された公認会計士の意見書(乙14)や和解債権の取扱いについて生データ等をチェックするのが通常であり、それをすれば和解債権処理の実態については分かるはずであると記載された弁護士の意見書(乙15)を提出するが、いずれも一般論を述べるにすぎず、本件M&Aにおけるデューディリジェンスの手法、実態と必ずしも整合しない上、被告ら及びAにおいて本件和解債権処理を秘匿していた事実を考慮していないものであるから、これらの意見書は上記結論を左右しない。」

→「企業買収におけるデューディリジェンス」
デューディリジェンス(デューデリジェンス、DDとも)とは、
企業価値を算定する作業のこと。会社を調査すること。
※日本語の「企業調査」には当てはまらないので注意!

上記の判例は、

売主:財務内容は資料の内容で間違いない、と表明保証。
買主:保証された内容と事実が異なることを知っていた…?
判決:調査し尽くしても発見できなかった、また、そもそも売主が「問題ないです」と言っていたことをあわせると、賠償しなきゃいけないですよね。

という流れ。

この判決文を読んで、
「最終的に賠償しなければいけなくなったかどうか」ではなく
「企業を買収する際はどのような作業をしているか」ということ、
加えて「何だか難しい作業をしている…」ということを、
なんとなく感じ取っていただきたいのである。

参考記事:
M&A今昔物語 件数も中身も様変わり
(2016/1/12 日本経済新聞 電子版)
⇒今までにどのようなM&Aの事例があったのか、という記事。
身近なものでも、企業買収によって他企業に買われたものがたくさんある。

・ソニーピクチャーズ
ソニーがコロンビア・ピクチャーズ・エンタテインメントを買収、映画を配給。
・ソフトバンク
ボーダフォンを買収、今や「ソフトバンク=携帯の会社」。

…などなど、いろいろな会社がいろいろな会社を買っている。

ただ、会社は買うときよりもその後が難しい。
企業ごとに文化は異なり、その異なる文化のなかで仕事をしてきた人たちが一緒にやっていくというのは難しいことなのである。

昨今だとソフトバンクや日本電産(あまり馴染みがないかもしれないが…)が、
日本ではよくM&Aをおこなっている企業。
日本のヤフーもソフトバンクが経営しており、元はといえば、ヤフーが日本でやるにあたって一緒にやりはじめたという経緯。

成長戦略、企業に託す 投資テーマにM&A再浮上
(2016/6/3 日本経済新聞 電子版)

アリババ株売却含め1兆円超確保 ソフトバンク何を狙う?
日本ヤフー株の行方焦点

(2016/6/2 日本経済新聞 朝刊)

ソフトバンク、ガンホー株の9割売却へ 730億円で
(2016/6/4 日本経済新聞 電子版)
⇒M&Aの一種ではないが、ソフトバンクが大きな数の株式を持ってたガンホーの株を売却しちゃいました、という話。

⇒以上のように、
・身近なところでも、M&Aというのは日常のようにおこなわれている
・でもその手続きは簡単であるように見えて実は難しい
といったところを、何となく理解していただきたい。

 

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