企業法・授業まとめ-第10回-

被害状況(要旨)

本件の被害をまとめると以下のとおりであり、計15名亡くなっている。
この他、自然死等とされた方の中にも、もしかしたら被害者がいるかもしれない。

本件事故から学ぶべきこと(消費者安全調査委員会所感)

本件事故は、社会的にも関心が高く、また、消費者庁及び調査委員会の発足やその後の製品安全の考え方にも大きな影響をもたらした重大かつ深刻な事故である。
同種の事故が、20年にわたり発生し続け、その最後の事故である本件事故に至る過程からは、あらかじめ何を想定しておかなければならないか、事態の発生に対していかに対応すべきかといった点について、多くの学ぶべきことがある。これらは、事故に遭われた方や御家族の悲しみ、苦しみが繰り返されることのないよう、社会において忘れ去られることなく知識として共有されるべきものであり、様々な分野における消費者事故の防止に活かされることを期待して、次の4つの視点から整理した。

1.全体像を把握し、問題点を総合的、横断的に捉える
(「危機感」を共有する社会)
本件改造に起因する一連の事故の全体像が明らかとなり、総合的な対策が採られたのは、最初の事故発生から20年以上が経過した後のことである。それまで、個々の事故への対応はなされていたが、20年続いた事故の全体像の把握や共有がなされなかった。
このような対応となったのは、事故情報を収集分析し、事故の再発防止策につなげるシステムが整えられていなかったことが要因の一つである。本件改造に起因する事故を契機に、多くの対策が採られ、関係機関の連携も強化されたが、一つの部署や個人の判断に委ねられることなく、事故発生等の危険情報や事態の全体像が早期に認知、共有されることが、事故発生や被害拡大の防止には重要である。
さらに、この間、消費者への注意喚起はなされず、情報が伝わらなかった。消費者の安全を守るために、例えば、長期使用製品の保有情報の登録など消費者自身ができることもある。また、行政や事業者が発表する危険情報に関心を持つことが、自らや周りの人を守ることにつながると考えられる。
まずは、事故や被害を防ぐために、危険が顕在化しないよう対策が採られるべきであるが、それでもなお、事故は起こり得ると考え備えることも重要である。
そのためには、消費者にも、情報が的確に伝えられ、身の回りに潜む危険についての認識が共有されることが重要である。そして、消費者も含め、事故の未然防止、再発防止に社会全体で取り組むことが期待される。

2.被害の拡大防止のために、生じている自体に正対する(経営者の意識)
本件改造による複数の事故が確認された後も、パロマ社の対応は積極的なものではなかった。「自社の機器の構造上、及び製造上の欠陥ではなく、安全装置の機能を無効にするという市場での不当な改造が行われた結果」であるという判断が、本件改造による事故が長期にわたり発生し、平成17(2005)年の本件事故を防げなかったことにつながっている。特に、製造事業者、保守業者といった複数の者が関係する場合には、情報共有が十分になされなかったり、問題点の認識が曖昧になるといったことが起こりやすい。
作業の現場においては、本件改造のように行ってはならない行為が誘発される可能性もあり、こうした要因を、組織的に取り除く仕組みも重要である。
例えば、お湯が使えず気の毒だと思い、依頼者の切実な要請に応えなければといった気持ちから、本来行うべきでない改造を想起することもあり得る。このようなことは、監視者がいない場合や、サービス員と消費者のように知識に違いがある場合に生じやすい。しかし、どんなことがあっても、他者の生命を危険にさらさないことこそが社会の基本である。危険性の周知徹底や、場合によっては依頼者の要請に応えられなくても、まず安全性を担保することが事業を担う者の重大な役割であることを、経営理念として確立し、それを現場のサービス員に至るまで、組織全体として徹底することが重要である。また、サービス現場の依頼者のニーズが、最終的にその課題を解決すべき責任者に伝達され、組織全体として解決する仕組み作りが重要である。
パロマ社では、本件事故後、消費者とのコミュニケーションの強化、社外取締役等の採用、事故情報の収集体制の整備等の取組がなされたが、本件事故は、企業が社会の信頼を維持していくためには、見たくないことであってもその現実を見つめ、被害の拡大防止のために迅速な対応をとることが重要であることを示している。企業のなすべきこととして、消費者の安全への積極的な対応が求められる。

3.多くの可能性を想定し、対策を打っておく(多種の安全対策)
「あり得ることは起こる。あり得ないと思うことも起こる。」と考え、多くの可能性を想定し、多種の安全対策を考えておくことが重要である。
(1)消費者の使用実態を考慮する必要性
<略>
(2)サービス員による誤った作業を想定する必要性
<略>
(3)リコールの実用性を高める
<略>

4.安全管理サイクルの重要性
事故を起こさない安全な社会づくりのためには、図12の安全管理のプロセスが継続的に循環していることが重要である。
このようなサイクルが、企業、工場、行政機関など、社会の様々な組織単位において不断に行われることによって社会に安全がもたらされる。
また、こうした分析を行うにあたっては、個々の事例から、事故発生に共通するシナリオを見つけ出すことが有用である。例えば、製品の不具合、作業現場での問題、事故発生時の判断、消費者への周知の遅れといったシナリオは、多くの分野で共通して起こり得る。こうしたシナリオを意識することで、幅広い分野での事故の予防策、拡大防止策の検討に応用することができると考えられる。
このような継続的な安全管理の取組の重要性が広く社会で共有され、実践されることが期待される。消費者庁及び調査委員会にもそのような社会の実現のために取り組む責任があることは言うまでもない。

(以上、「消費者安全法第24条第1項に基づく評価
-平成17(2005)年11月28日に東京都内で発生したガス湯沸器事故-

消費者安全調査委員会より)

経営者がどのような判断をすべきだったかの議論は底をつかないが、
人が亡くなっている事件であり、ダスキンの件などとは比較にならない。
人の死に対し適切に判断・対応しなかったということ。

こうした事件においてどこまで責任が認められる・認められないかは
ケースによって異なってくる。
ゆえに「誰が何をやったのか」を深く知る・理解することが大切。

事例も単体で覚えるのではなく、
・これらを結びつける共通的な要素は何か
・経営者はどのような報告を受け、どのような判断をしなければならないか
・その際、どのような判断をしなかったから責任が認められたのか
といった点に着目して読むと、判例の理解度も上がる。

参考記事:
化血研、未承認製造を否定 厚労省に弁明書
(2016/10/18 日本経済新聞 電子版)

化血研、厚労省に報告書 全製品「法令違反なし」
(2016/12/2 日本経済新聞 電子版)

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