企業法・授業まとめ-第10回-

経営者責任として 判例再掲

大阪地方裁判所平成12年9月20日> ※責任肯定
〔判決要旨〕
株主代表訴訟において、大和銀行ニューヨーク支店の行員が無断取引、簿外取引を行って損失を出したことにつきニューヨーク支店担当取締役に任務懈怠の損害賠償義務を認め、行員の不正行為を直ちに米国連邦司法省に通知しなかったことなどで司法取引により罰金を支払ったことにつき取締役(代表取締役)に任務懈怠の損害賠償義務を認め、法律上および寄与度に応じた因果関係の認められる損害金を大和銀行に支払うよう命じた事例
〔判決文〕
「以上によれば、大和銀行が当時置かれていた厳しい状況を考慮しても、企業経営者として著しく不合理かつ不適切な経営判断を行ったものであるから、取締役の善管注意義務及び忠実義務に違反したものと言うべきである。」
最高裁判所昭和48年5月22日> ※責任否定
〔判決要旨〕
株式会社の従業員らが営業成績を上げる目的で架空の売上げを計上したため有価証券報告書に不実の記載がされ、その後同事実が公表されて当該会社の株価が下落し、公表前に株式を取得した株主が損害を被ったことにつき、次の(1)~(3)などの判示の事情のもとでは、当該会社の代表者に、従業員らによる架空売上げの計上を防止するためのリスク管理体制を構築すべき義務に違反した過失があるとはいえない。(1)当該会社は、営業部の所属する事業部門と財務部門を分離し、売上げについては、事業部内の営業部とは別の部署における注文書、検収書の確認等を経て財務部に報告される体制を整えるとともに、監査法人および当該会社の財務部がそれぞれ定期的に取引先から売掛金残高確認書の返送を受ける方法で売掛金残高を確認することとするなど、通常想定される架空売上げの計上等の不正行為を防止し得る程度の管理体制は整えていた。(2)上記架空売上げの計上に係る不正行為は、事業部の部長が部下である営業担当者数名と共謀して、取引先の偽造印を用いて注文書等を偽造し、これらを確認する担当者を欺いて財務部に架空の売上報告をさせた上、上記営業担当者らが言葉巧みに取引先の担当者を欺いて、監査法人等が取引先あてに郵送した売掛金残高確認書の用紙を未開封のまま回収し、これを偽造して監査法人等に送付するという、通常容易に想定し難い方法によるものであった。 (3)財務部が売掛金債権の回収遅延につき上記事業部の部長らから受けていた説明は合理的なもので、監査法人も当該会社の財務諸表につき適正意見を表明していた。
〔判決文〕
「…、さらに、前記事実関係によれば、売掛金債権の回収遅延につきBらが挙げていた理由は合理的なもので、販売会社との間で過去に紛争が生じたことがなく、監査法人も上告人の財務諸表につき適正であるとの意見を表明していたというのであるから、財務部が、Bらによる巧妙な偽装工作の結果、販売会社から適正な売掛金残高確認書を受領しているものと認識し、直接販売会社に売掛金債権の存在等を確認しなかったとしても、財務部におけるリスク管理体制が機能していなかったということはできない。
以上によれば、上告人の代表取締役であるAに、Bらによる本件不正行為を防止するためのリスク管理体制を構築すべき義務に違反した過失があるということはできない」

参考記事:
大王製紙前会長の実刑確定 特別背任事件
(2013/7/9 日本経済新聞)

大王製紙株式会社元会長への貸付金問題に関する特別調査委員会
(「調査報告書」より)

提言
「本件は、上場会社トップが連結子会社から長期間にわたって個人的用途のため多額の資金の貸付を受けたという異常な事件である。このような公私を混同した貸付が何故簡単に行われ、またそれが早期に発見、防止されなかったのか、当委員会はその原因について検討した。結論として、当委員会は、大王製紙グループにおいて顧問、元会長親子が非常に強い支配権を有しており、特別の存在と扱われていること、大王製紙グループ内ではトップの指示には当然従うという体質が出来上がっており、まさかトップが会社に不利益な行動をする筈がないという気持も働き、安易に貸付に応じ、防止するための行動ができなかったことによるものと判断した。従って、このような不祥事の再発を防止するためには、井川父子が持つ絶対的支配権を薄め、ガバナンス、コンプライアンスが機能するように改革することが重要であると認識し、そのために必要と思われる点も含めて以下の提言をする。
1 会社は、本件貸付金の使途解明の努力を続けるとともに、元会長を告訴、告発することも検討すべきである。
2 会社は、公正な方法による貸付金の回収の努力をし、被害の回復をはかるべきである。
3 会社は、本件貸付に関与した者、早期発見、防止をなすべき地位にあったのに、その責任を果たさなかった者に対して適切な処分を行うべきである。
4 大王製紙グループに対する井川父子の支配権を薄め、大王製紙のガバナンスを強化するための具体的方策を検討し、実現をはかるべきである。
5 内部通報制度、コンプライアンス体制について改善すべきである。
6 監査法人に対しても監査方法を改善することを求めるべきである 。
7 監査役、監査役会が十分に活動できるように体制を整備すべきである。
8 取締役会については、社外取締役を選任するなどグループ内の体質改善をはかり透明性のある活動ができるように必要な改善策を行うべきである。
9 最後に、基本に戻り、社員全体の遵法精神を高めるために、社員教育を充実させるべきである。」

⇒この件のように、トップに実刑判決がおりることももちろんある。

会社法365条1項(競業及び取締役会設置会社との取引等の制限)
「取締役会設置会社における第356条の規定の適用については、同条第1項中「株主総会」とあるのは、「取締役会」とする。」
会社法35612号(競業及び利益相反取引の制限)
「取締役は、次に掲げる場合には、株主総会において、当該取引につき重要な事実を開示し、その承認を受けなければならない。
② 取締役が自己又は第三者のために株式会社と取引をしようとするとき。」
会社法960条(特別背任罪)
「次に掲げる者が、自己若しくは第三者の利益を図り又は株式会社に損害を加える目的で、その任務に背く行為をし、当該株式会社に財産上の損害を加えたときは、10年以下の懲役若しくは1000万円以下の罰金に処し、又はこれを併科する。
① 発起人
② 設立時取締役又は設立時監査役
③ 取締役、会計参与、監査役又は執行役
④ 民事保全法第56条に規定する仮処分命令により選任された取締役、監査役又は執行役の職務を代行する者
⑤ 第346条第2項、第351条第2項又は第401条第3項(第403条第3項及び第420条第3項において準用する場合を含む。)の規定により選任された一時取締役、会計参与、監査役、代表取締役、委員、執行役又は代表執行役の職務を行うべき者
⑥ 支配人
⑦ 事業に関するある種類又は特定の事項の委任を受けた使用人
⑧ 検査役
2 次に掲げる者が、自己若しくは第三者の利益を図り又は清算株式会社に損害を加える目的で、その任務に背く行為をし、当該清算株式会社に財産上の損害を加えたときも、前項と同様とする。
① 清算株式会社の清算人
② 民事保全法第56条に規定する仮処分命令により選任された清算株式会社の清算人の職務を代行する者
③ 第479条第4項において準用する第346条第2項又は第483条第6項において準用する第351条第2項の規定により選任された一時清算人又は代表清算人の職務を行うべき者
④ 清算人代理
⑤ 監督委員
⑥ 調査委員」

参考記事:
てるみくらぶ破綻の教訓
(2017/5/15 日本経済新聞 朝刊)
⇒これも代表者が適当な経営をした結果の事件。

配転無効確定のオリンパス社員が会社を提訴「処遇改善せず」
(2012/9/3 日本経済新聞)

オリンパス訴訟で和解 内部告発で配置転換の社員
(2016/2/18 日本経済新聞)
⇒以上2件は、内部通報窓口を利用して上司の不正を伝えたところ、不正に配置転換をされたということがあり、訴えられた事件。
企業の不祥事から下から上へきちんと上がっていくよう、法令で定められている。

公益通報者保護法
1条(目的)
「この法律は、公益通報をしたことを理由とする公益通報者の解雇の無効等並びに公益通報に関し事業者及び行政機関がとるべき措置を定めることにより、公益通報者の保護を図るとともに、国民の生命、身体、財産その他の利益の保護にかかわる法令の規定の遵守を図り、もって国民生活の安定及び社会経済の健全な発展に資することを目的とする。」
2条1項、2項(定義)
「1 この法律において「公益通報」とは、労働者(労働基準法 (昭和22年法律第49号)第9条に規定する労働者をいう。以下同じ。)が、不正の利益を得る目的、他人に損害を加える目的その他の不正の目的でなく、その労務提供先(次のいずれかに掲げる事業者(法人その他の団体及び事業を行う個人をいう。 以下同じ。)をいう。以下同じ。)又は当該労務提供先の事業に従事する場合におけるその役員、従業員、代理人その他の者について通報対象事実が生じ、又はまさに生じようとしている旨を、当該労務提供先若しくは当該労務提供先があらかじめ定めた者(以下「労務提供先等」という。)、当該通報対象事実について処分(命令、取消しその他公権力の行使に当たる行為をいう。以下同じ。)若しくは勧告等(勧告その他処分に当たらない行為をいう。以下同じ。)をする権限を有する行政機関又はその者に対し当該通報対象事実を通報することがその発生若しくはこれによる被害の拡大を防止するために必要であると認められる者(当該通報対象事実により被害を受け又は受けるおそれがある者を含み、当該労務提供先の競争上の地位その他正当な利益を害するおそれがある者を除く。次条第3号において同じ。)に通報することをいう。
2 この法律において「公益通報者」とは、公益通報をした労働者をいう。」

企業不祥事や世の中で起きるトラブルは、ゆらぎの中で起きている。
何か起きてしまったとき、

・これはあの時知ったあの事件につながるかもしれない
・これは放置しておくと、あの時に起きたああいう国民の反応があるかもしれない

というように、予測して対応することが極めて大切。

参考記事:
自動回転ドアが「再起動」、省エネ計算ソフト開発へ
(2010/7/14 日本経済新聞)

※六本木ヒルズ自動回転ドア死亡事故とは・・・
2004年3月26日、東京都港区の六本木ヒルズ森タワー2階の正面出入り口で、6歳の男児が自動回転ドアに頭を挟まれて亡くなった。男児は挟まれ防止センサーの死角に入ったため、緊急停止機能が働かなかった。回転ドアは円筒状の壁体の内部を仕切りで2つに区切るタイプ。スチール製で重量は2.7tもあった。直径が4.8m、回転速度は毎秒80cmだった。三和シヤッター工業の子会社、田島順三製作所(当時)が製造、三和タジマが販売した。05年3月に東京地検が森ビルと三和タジマの両社の役員ら3人を業務上過失致死罪で在宅起訴。森ビルの2人に禁固10月・執行猶予3年、三和タジマの1人に禁固1年2月・執行猶予3年の判決が下った。

⇒この事件は1件のみだったが、いきなり実刑判決が。

関連法令:↓に加えて製造物責任法(PL法)

民法717条(土地の工作物等の占有者及び所有者の責任)
「1 土地の工作物の設置又は保存に瑕疵があることによって他人に損害を生じたときは、その工作物の占有者は、被害者に対してその損害を賠償する責任を負う。ただし、占有者が損害の発生を防止するのに必要な注意をしたときは、所有者がその損害を賠償しなければならない。
2 前項の規定は、竹木の栽植又は支持に瑕疵がある場合について準用する。
3 前二項の場合において、損害の原因について他にその責任を負う者があるときは、占有者又は所有者は、その者に対して求償権を行使することができる。」
※製造物を設置している施設内で事故が起こると施設管理者が責任を問われる。

今回紹介してきたのは、食品や製造物の責任など、人の命・健康に関わること。
最終的に損害賠償請求などでお金に換価されるが、亡くなった人は帰ってこない。
そこに対する企業不祥事は取り返しがつかないのである。

だからこそ、対応は慎重におこなわなければいけない。
しっかりとした把握と改善が重要。

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