企業法・授業まとめ-第11回-

職場外の管理(解雇に関連して)

労働条件の論点を超え、次にあるのは「解雇」である。
きちんと役務提供をしない場合、もちろん解雇の可能性はあるが、

「しっかり8時間にわたり役務・労務を提供してくれているが
私生活上の犯罪行為により、その人を辞めさせたい…」

という場合はどうなるのか。
会社は従業員の職場外での行動(私生活上の行為)について
どこまで懲戒権を持つか。

<最高裁判所昭和45年7月28日判決>
〔判示事項〕
「夜半他人の居住に故なく入り込み住居侵入罪として処罰されたことが懲戒解雇事由にあたらないとされた事例」
〔判決要旨〕
「会社が、企業運営の刷新を図るため従業員に対し職場諸規則の厳守、信賞必罰の趣旨を強調していた時期に、従業員が、午後11時20分頃他人の居宅に故なく入り込み、住居侵入罪として処罰されたとしても、右行為が会社の組織、業務等に関係のない私生活の範囲内で行われたものであり、その受けた刑罰は金2500円の程度にとどまり、会社における職務上の地位も指導的なものでなかつた等の事情のもとにおいては、右従業員は、「不正不義の行為を犯し、会社の対面を著しく汚した者」という就業規則所定の懲戒解雇の事由にあたらない。

⇒当該従業員は会社での地位も平社員だったため、解雇はダメでは?
という判断になった。

最高裁判所平成19年7月13日判決
〔判示事項〕
「1 学校法人がその設置、運営する大学に勤務する教授に対し同教授の地元新聞紙上における発言等を理由としてした戒告処分が無効とされた事例
2 学校法人がその設置、運営する大学に勤務する教授に対し教授会への出席その他の教育諸活動をやめるよう求めた要請が業務命令に当たるとして、その無効確認を求める訴えが適法とされた事例
3 学校法人がその設置、運営する大学に勤務する教授に対し教授会への出席その他の教育諸活動をやめるよう求めた要請が業務命令として無効とされた事例」
〔判決要旨〕
「1 学校法人が、その設置、運営する大学に勤務する教授に対し、同教授の地元新聞紙上における発言等を理由として戒告処分をした場合において、上記発言が新聞紙上に掲載されても上記学校法人の社会的評価の低下毀損を生じさせるとは認め難いなど判示の事情の下では、上記戒告処分は懲戒権を濫用するものとして無効である。
2 学校法人が、その設置、運営する大学に勤務する教授に対し、教授会の決議を受けて、教授会への出席その他の教育諸活動をやめるよう求める要請をした場合において、上記学校法人の規程上、業務命令権の行使が教授会等の機関に専権的に委任されているとは認められないなど判示の事情の下では、上記要請は上記学校法人が使用者としての立場から上記教授に発した業務命令に当たり、その無効確認を求める訴えは適法である。
3 学校法人が、その設置、運営する大学に勤務する教授に対し、業務命令として、教授会への出席その他の教育諸活動をやめるよう求める要請をした場合において、それが制裁的意図に基づく差別的取扱いとみられてもやむを得ない行為であるなど判示の事情の下では、上記要請は、業務上の必要性を欠き、社会通念上著しく合理性を欠くものであって、業務命令権を濫用するものとして無効である。」

⇒こちらも「解雇事由にならない」との判断。

私生活で犯罪を犯してしまっても(ないのが一番だが…)、
余程のことがないと、なかなか解雇事由にはならない。
(業務で不正等をしてしまうと、それは解雇事由となる。)

 

競業避止義務・引抜き行為

在職中の競業避止義務(副業禁止)
在職中に競業行為をおこなわない義務は、就業規則または信義則上の義務から一般に認められる。

退職後の競業避止義務
- 労働者の退職の自由・憲法上の職業選択の自由などが絡んでくる。
- 諸事情(退職前の地位、競業が禁止される業務、期間、地域の範囲、代償措置の有無等)

引抜き行為
在職中・退職後、行為態様によって異なる。

 

使用者の労働者に対する損害賠償

ミスをして会社に損害を与えた場合。
会社から「賠償しろ」といわれた場合に、賠償しなければいけないのか。

※過失がなければ(=そもそもミスではない)、当然賠償する必要はないが、
過失があった場合は・・・?

最高裁判所昭和51年7月8日判決
〔判示事項〕
「使用者がその事業の執行につき被用者の惹起した自動車事故により損害を被つた場合において信義則上被用者に対し右損害の一部についてのみ賠償及び求償の請求が許されるにすぎないとされた事例」
〔判決文〕
「使用者が、その事業の執行につきなされた被用者の加害行為により、直接損害を被り又は使用者としての損害賠償責任を負担したことに基づき損害を被つた場合には、使用者は、その事業の性格、規模、施設の状況、被用者の業務の内容、労働条件、勤務態度、加害行為の態様、加害行為の予防若しくは損失の分散についての使用者の配慮の程度その他諸般の事情に照らし、損害の公平な分担という見地から信義則上相当と認められる限度において、被用者に対し右損害の賠償又は求償の請求をすることができるものと解すべきである。
 原審の適法に確定したところによると、(一)上告人は、石炭、石油、プロパンガス等の輸送及び販売を業とする資本金800万円の株式会社であつて、従業員約50名を擁し、タンクローリー、小型貨物自動車等の業務用車両を20台近く保有していたが、経費節減のため、右車両につき対人賠償責任保険にのみ加入し、対物賠償責任保険及び車両保険には加入していなかつた、 (二)被上告人美留町Aは、主として小型貨物自動車の運転業務に従事し、タンクローリーには特命により臨時的に乗務するにすぎず、本件事故当時、同被上告人は、重油をほぼ満載したタンクローリーを運転して交通の渋滞しはじめた国道上を進行中、車間距離不保持及び前方注視不十分等の過失により、急停車した先行車に追突したものである、(三)本件事故当時、被上告人Aは月額約4万5000円の給与を支給され、その勤務成績は普通以上であつた、というのであり、右事実関係のもとにおいては、上告人がその直接被つた損害及び被害者に対する損害賠償義務の履行により被つた損害のうち被上告人Aに対して賠償及び求償を請求しうる範囲は、信義則上右損害額の4分の1を限度とすべきであり、したがつてその他の被上告人らについてもこれと同額である旨の原審の判断は、正当として是認することができ、その過程に所論の違法はない。論旨は、右と異なる見解を主張して原判決を論難するものにすぎず、採用することができない。」

⇒会社は、事故を起こした従業員に対し、会社が被害者へ支払った損害額の3分の1を負担するよう求めたが、裁判所は従業員の負担を「4分の1」と認めた。

※保証人がいた場合は?

身元保証(身元保証ニ関スル法律)
1条 「引受、保証其ノ他名称ノ如何ヲ問ハズ期間ヲ定メズシテ被用者ノ行為ニ因リ使用者ノ受ケタル損害ヲ賠償スルコトヲ約スル身元保証契約ハ其ノ成立ノ日ヨリ3年間其ノ効力ヲ有ス但シ商工業見習者ノ身元保証契約ニ付テハ之ヲ5年トス」
2条 「1 身元保証契約ノ期間ハ5年ヲ超ユルコトヲ得ズ若シ之ヨリ長キ期間ヲ定メタルトキハ其ノ期間ハ之ヲ5年ニ短縮ス
2 身元保証契約ハ之ヲ更新スルコトヲ得但シ其ノ期間ハ更新ノ時ヨリ5年ヲ超ユルコトヲ得ズ」
3条 「使用者ハ左ノ場合ニ於テハ遅滞ナク身元保証人ニ通知スベシ
① 被用者ニ業務上不適任又ハ不誠実ナル事跡アリテ之ガ為身元保証人ノ責任ヲ惹起スル虞アルコトヲ知リタルトキ
② 被用者ノ任務又ハ任地ヲ変更シ之ガ為身元保証人ノ責任ヲ加重シ又ハ其ノ監督ヲ困難ナラシムルトキ」
4条 「身元保証人前条ノ通知ヲ受ケタルトキハ将来ニ向テ契約ノ解除ヲ為スコトヲ得身元保証人自ラ前条第1号及第2号ノ事実アリタルコトヲ知リタルトキ亦同ジ」
5条 「裁判所ハ身元保証人ノ損害賠償ノ責任及其ノ金額ヲ定ムルニ付用者ノ監督ニ関スル使用者ノ過失ノ有無、身元保証人ガ身元保証ヲ為スニ至リタル事由及之ヲ為スニ当リ用ヰタル注意ノ程度、被用者ノ任務又ハ身上ノ変化其ノ他一切ノ事情ヲ斟酌ス」
6条 「本法ノ規定ニ反スル特約ニシテ身元保証人ニ不利益ナルモノハ総テ之ヲ無効トス」

 

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