企業法・授業まとめ-第11回-

休職・復職

労務提供を免除する制度。
規定がなければ、労務提供ができなくなった時点で、原則は雇用契約の終了。

制度があるとしても会社側からは賃金を支払う必要は原則ない。
※ノーワーク・ノーペイの原則
⇒時間を決めてその人の時間を買っている以上、
時間を提供してくれないのであれば債務不履行。∴契約解除できる。
(物を買いたくてお金を払っているのに、
物を受け取ることができなければ、お金を払わないのは当然。)
原因が何であろうが、基本支払わなくてよい。

ただし、健康保険から傷病手当金等の支給がおこなわれることがある。
(労働上の災害であれば労働保険から、そうでなくても、健康保険から支給される。)

Q.従業員側が「働けるはず」と申し出てきた場合は?
※医師の診断書等をもとに判断することになる。

参考記事:
残業「大半の社員が過少申告」電通を書類送検へ
(2016/11/7 日本経済新聞 電子版)

最高裁判所平成12年3月24日判決
〔判決要旨〕
「1 大手広告代理店に勤務する労働者Aが長時間にわたり残業を行う状態を1年余り継続した後にうつ病にり患し自殺した場合において、Aは、業務を所定の期限までに完了させるべきものとする一般的、包括的な指揮又は命令の下にその遂行に当たっていたため、継続的に長時間にわたる残業を行わざるを得ない状態になっていたものであって、Aの上司は、Aが業務遂行のために徹夜までする状態にあることを認識し、その健康状態が悪化していることに気付いていながら、Aに対して業務を所定の期限内に遂行すべきことを前提に時間の配分につき指導を行ったのみで、その業務の量等を適切に調整するための措置を採らず、その結果、Aは、心身共に疲労困ぱいした状態となり、それが誘引となってうつ病にり患し、うつ状態が深まって衝動的、突発的に自殺するに至ったなど判示の事情の下においては、使用者は、民法715条に基づき、Aの死亡による損害を賠償する責任を負う。
2 業務の負担が過重であることを原因として労働者の心身に生じた損害の発生又は拡大に右労働者の性格及びこれに基づく業務遂行の態様等が寄与した場合において、右性格が同種の業務に従事する労働者の個性の多様さとして通常想定される範囲を外れるものでないときは、右損害につき使用者が賠償すべき額を決定するに当たり、右性格等を、民法722条2項の類推適用により右労働者の心因的要因として斟酌することはできない。」
〔判決文〕
「11 Bの所属するラジオ推進部には、平成3年7月に至るまで、新入社員の補充はなかった。同月以降、Bは、班から独立して業務を遂行することとなり、築地第七営業局関係の業務と入船第三営業局関係の業務の一部を担当し、入船第八営業局関係の業務の一部を補助するようになった。」…
「このころ、Bは、出勤したまま帰宅しない日が多くなり、帰宅しても、翌日の午前6時30分ないし7時ころで、午前8時ころまでに再び自宅を出るという状況となった。一審原告洋子は、栄養価の高い朝食を用意するなどしてBの健康に配慮したほか、自宅から最寄りの駅まで自家用車でBを送ってその負担の軽減を図るなどしていた。これに対し、一審原告Aは、Bと会う時間がほとんどない状態となった。一審原告らは、このころから、Bの健康を心配して体調を崩し、不眠がちになるなどしていた。一方、 Bは、前述のような業務遂行とそれによる睡眠不足の結果、心身共に疲労困ぱいした状態になって、業務遂行中、元気がなく、暗い感じで、うつうつとし、顔色が悪く、目の焦点も定まっていないことがあるようになった。このころ、Eは、Bの健康状態が悪いのではないかと気付いていた。
12 Bは、平成3年8月1日から同月23日までの間、同月3日から同月5日までの間に旅行に出かけたほかは、休日を含めてほぼ毎日出社した。Bは、右旅行のため同月5日に有給休暇を取得したが、これは、平成3年度において初めてのものであった。Bは、同月に入って、Eに対し、自分に自信がない、自分で何を話しているのか分からない、眠れないなどと言ったこともあった。
13 平成3年8月23日、Bは、午後6時ころにいったん帰宅し、午後10時ころに自宅を自家用車で出発して、翌日から取引先企業が長野県内で行うこととしていた行事の実施に当たるため、同県内にあるEの別荘に行った。この際、Eは、Bの言動に異常があることに気付いた。Bは、翌24日から同月26日までの間、右行事の実施に当たり、その終了後の26日午後5時ころ、行事の会場を自家用車で出発した。」…
「14 Bは、平成3年8月27日午前6時ころに帰宅し、弟に病院に行くなどと話し、午前9時ころには職場に電話で体調が悪いので会社を休むと告げたが、午前10時ころ、自宅の風呂場において自殺(い死)していることが発見された。
15 うつ病は、抑うつ、制止等の症状から成る情動性精神障害であり、うつ状態は、主観面では気分の抑うつ、意欲低下等を、客観面ではうち沈んだ表情、自律神経症状等を特徴とする状態像である。うつ病にり患した者は、健康な者と比較して自殺を図ることが多く、うつ病が悪化し、又は軽快する際や、目標達成により急激に負担が軽減された状態の下で、自殺に及びやすいとされる。長期の慢性的疲労、睡眠不足、いわゆるストレス等によって、抑うつ状態が生じ、反応性うつ病にり患することがあるのは、神経医学界において広く知られている。もっとも、うつ病の発症には患者の有する内因と患者を取り巻く状況が相互に作用するということも、広く知られつつある。
仕事熱心、凝り性、強い義務感等の傾向を有し、いわゆる執着気質とされる者は、うつ病親和性があるとされる。また、過度の心身の疲労状況の後に発症するうつ病の類型について、男性患者にあっては、病前性格として、まじめで、責任感が強すぎ、負けず嫌いであるが、感情を表さないで対人関係において敏感であることが多く、仕事の面においては内的にも外的にも能力を超えた目標を設定する傾向があるとされる。
 前記のとおり、Bは、平成3年7月ころには心身共に疲労困ぱいした状態になっていたが、それが誘因となって、遅くとも同年8月上旬ころに、うつ病にり患した。そして、同月27日、前記行事が終了し業務上の目標が一応達成されたことに伴って肩の荷が下りた心理状態になるとともに、再び従前と同様の長時間労働の日々が続くことをむなしく感じ、うつ病によるうつ状態が更に深まって、衝動的、突発的に自殺したと認められる。」
「二 以上の事実に基づいて、一審被告の民法715条に基づく損害賠償責任を肯定した原審の判断について検討する。
1 労働者が労働日に長時間にわたり業務に従事する状況が継続するなどして、疲労や心理的負荷等が過度に蓄積すると、労働者の心身の健康を損なう危険のあることは、周知のところである。労働基準法は、労働時間に関する制限を定め、労働安全衛生法65条の3は、作業の内容等を特に限定することなく、同法所定の事業者は労働者の健康に配慮して労働者の従事する作業を適切に管理するように努めるべき旨を定めているが、それは、右のような危険が発生するのを防止することをも目的とするものと解される。これらのことからすれば、使用者は、その雇用する労働者に従事させる業務を定めてこれを管理するに際し、業務の遂行に伴う疲労や心理的負荷等が過度に蓄積して労働者の心身の健康を損なうことがないよう注意する義務を負うと解するのが相当であり、使用者に代わって労働者に対し業務上の指揮監督を行う権限を有する者は、使用者の右注意義務の内容に従って、その権限を行使すべきである。
2 一審被告のラジオ局ラジオ推進部に配属された後にBが従事した業務の内容は、主に、関係者との連絡、打合せ等と、企画書や資料等の起案、作成とから成っていたが、所定労働時間内は連絡、打合せ等の業務で占められ、所定労働時間の経過後にしか起案等を開始することができず、そのために長時間にわたる残業を行うことが常況となっていた。起案等の業務の遂行に関しては、時間の配分につきBにある程度の裁量の余地がなかったわけではないとみられるが、上司であるDらがBに対して業務遂行につき期限を遵守すべきことを強調していたとうかがわれることなどに照らすと、Bは、業務を所定の期限までに完了させるべきものとする一般的、包括的な業務上の指揮又は命令の下に当該業務の遂行に当たっていたため、右のように継続的に長時間にわたる残業を行わざるを得ない状態になっていたものと解される。ところで、一審被告においては、かねて従業員が長時間にわたり残業を行う状況があることが問題とされており、また、従業員の申告に係る残業時間が必ずしも実情に沿うものではないことが認識されていたところ、Dらは、遅くとも平成3年3月ころには、Bのした残業時間の申告が実情より相当に少ないものであり、Bが業務遂行のために徹夜まですることもある状態にあることを認識しており、Eは、同年7月ころには、Bの健康状態が悪化していることに気付いていたのである。それにもかかわらず、D及びEは、同年3月ころに、Dの指摘を受けたEが、Bに対し、業務は所定の期限までに遂行すべきことを前提として、帰宅してきちんと睡眠を取り、それで業務が終わらないのであれば翌朝早く出勤して行うようになどと指導したのみで、Bの業務の量等を適切に調整するための措置を採ることはなく、かえって、同年7月以降は、Bの業務の負担は従前よりも増加することとなった。その結果、Bは、心身共に疲労困ぱいした状態になり、それが誘因となって、遅くとも同年8月上旬ころにはうつ病にり患し、同月27日、うつ病によるうつ状態が深まって、衝動的、突発的に自殺するに至ったというのである。」

⇒1991年に起きた電通の事件。
前例があったにも関わらず、2015年にもまた同じような事件が起きてしまった。

 

参考記事:
脱時間給より影響大 裁量労働制、企業が注目
(2015/4/2 日本経済新聞 電子版)

裁量労働制の対象拡大 専門知識持つ法人営業職にも
(2015/4/2 日本経済新聞 電子版)

労働時間は、原則は8時間しか買えないというところ、「労働」の概念は難しい。
売る側(従業員)にすれば、まじめにやってもさぼっても同じ賃金なら、
後者になってしまう。

そのような点から、時間給ではなく業務内容で評価しよう、と
裁量的労働が広がっている。
しかし、脱時間給も国会で見送られたり、判断・調整が難しいところ。

 


以上、今回は労働法の分野についてでした。

身近に感じられる事例も出てきましたね。
条件は働く場所等で様々変わってきますが、大原則は同じです。

最終的には自分の判断となりますが、働くことで心身を壊してしまわぬよう
そうなる前にどこかへ相談したり、助けを求めたりすることが大切です。

次回は企業と独占禁止法についてです。お楽しみに!

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