企業法・授業まとめ-第11回-

企業と労働法

企業には様々なステークホルダーがいる。

・株主(会社法)
・労働者(労働基準法等の労働法)
・債権者(会社法や民法等)
・一般消費者(消費者契約法、PL法、特商法等…)

労働法の分野について、非常に細かいルールが沢山ある。
※「労働法」という法律名があるわけではない

憲法及び労働三法

ところで、憲法に定められる「国民の三大義務」とは何か?
→勤労、納税、教育(を受けさせる義務)
※憲法というのはそもそも、国を縛るルール
それにも関わらず、数少ない規定として国民に義務を負わせているのが上3つ。

このうちのひとつ、勤労は憲法27条に定められている。

憲法27条
「1 すべて国民は、勤労の権利を有し、義務を負ふ。
2 賃金、就業時間、休息その他の勤労条件に関する基準は、法律でこれを定める。
3 児童は、これを酷使してはならない。」
憲法28条
「勤労者の団結する権利及び団体交渉その他の団体行動をする権利は、これを保障する。」

27条2項に「法律でこれを定める」とあるが、どの法律で定められているのか?

労働基準法1条(目的)
「1 労働条件は、労働者が人たるに値する生活を営むための必要を充たすべきものでなければならない。
2 この法律で定める労働条件の基準は最低のものであるから、労働関係の当事者は、この基準を理由として労働条件を低下させてはならないことはもとより、その向上を図るように努めなければならない。」

最近になって制定された法律には、最初に「目的」が定められている。
「目的」を読めば、その法律がどのような目的で、何を守らせなければいけないか、何を規制しているのかが分かる。

労働基準法には、働くにあたっての最低限のルールが定められている。
(細かな変動、最低時給などは各市町村令で定められており、同法には記載なし)
「人たるに値する生活を営むための」最低限の基準。

元をたどれば、憲法28条で定められているから、労働基準法のような法律ができている。

労働組合法1条(目的)
「1 この法律は、労働者が使用者との交渉において対等の立場に立つことを促進することにより労働者の地位を向上させること、労働者がその労働条件について交渉するために自ら代表者を選出することその他の団体行動を行うために自主的に労働組合を組織し、団結することを擁護すること並びに使用者と労働者との関係を規制する労働協約を締結するための団体交渉をすること及びその手続を助成することを目的とする。
2 刑法(明治40年法律第45号)第35条の規定は、労働組合の団体交渉その他の行為であつて前項に掲げる目的を達成するためにした正当なものについて適用があるものとする。但し、いかなる場合においても、暴力の行使は、労働組合の正当な行為と解釈されてはならない。」
労働関係調整法1条(目的)
「この法律は、労働組合法と相俟つて、労働関係の公正な調整を図り、労働争議を予防し、又は解決して、産業の平和を維持し、もつて経済の興隆に寄与することを目的とする。」

※このほか、労働契約法が平成20年から施行されている。

⇒労働基準法、労働組合法、労働関係調整法あわせて「労働三法」という。

労働三権

団結権
労働組合を作る権利、加入する権利

団体交渉権
団体として使用者(会社)と交渉する権利

団体行動権(争議権)
団体としてストライキを起こす権利

なぜこうした権利が認められているのか。
それは、一労働者は権利・立場が非常に弱いから。

会社にしてみればいくらでも替えがきくので、
労働者は、「個人」の立場で会社と交渉することが非常に難しくなる。
団体を作り、その力をもって会社と交渉することで、要望を通すことも可能に。

※本来、労働者は役務提供をしない限り、債務不履行責任や刑事責任を問われることになる。
(∵労働契約であるから、働かないのにお金よこせ!ということはできない。)

しかし、正当な交渉・争議であれば、憲法上認められているため、ある程度は免責され、処罰・懲戒されないようにできている。

あらゆる国民や労働者に対して労働三権が認められているかというと、そうではなく、公務員に関してはある程度制限されている。

○労働基本権
・憲法28条で労働者の基本的権利を規定(「勤労者の団結する権利及び団体交渉その他の団体行動をする権利は、これを保障する。」)
・労働基本権は、団結権、団体交渉権、争議権の3つの権利から構成
○公務員の労働基本権
・公務員の労働基本権は、その地位の特殊性と職務の公共性にかんがみ、以下のような制約がなされ、これに代わる法定勤務条件の享有、人事院・人事委員会による給与勧告等の代償措置が取られている。

(総務省HP「公務員の基本権」より)

⇒これが良いか・悪いかは価値観の話になってくる。

かつて“公務員たちが団結や団体交渉をしても良いか”について
裁判を起こした事件がある。

最高裁判所判決昭和40年7月14日大法廷判決
〔判決要旨〕
「地方公務員法52条1項は、非職員が職員団体に加入しまたはその役員となることを認めない趣旨の出たものと解すべきであり、かく解したからといつて憲法28条に違反するものではない。」
〔判決文〕
「専従休暇の承認に関する処分は、元来、特別権力関係に立つ職員の勤務に関するいわば特別権力関係内部の行為であつて、その承認の拒否も、職員をして従前どおり職務に専念させるにとどまり、職員の地方公務員たる身分を剥奪するものではなく、また、職員が休暇を得て職員団体の業務に専従し得ることは、憲法28条の保障する勤労者の団結権等に内在しないしはそれから当然に派生する固有の権利と解し得ない」
「地方公務員法(昭和40年法律第71号による改正前のもの。以下同じ。)は、職員は、その職務の遂行にあたり全力を挙げてこれに専念すべきである(30条参照)が、「法律又は条例に特別の定めがある場合」に限り、地方公務員たる身分を保有しながら、職員団体の事務、活動に専念することができる(35条、52条5項参照)ものとし、また、同法の規定(35条、5条1項)に基づく本件専従条例は、任命権者は、職員に対し、その申出により、公務に支障のない限り、その代表者又は役員として、人事委員会に登録された職員団体の業務にもつぱら従事するための休暇を与えることができる(但し、御坊市の場合は、与えるものとする)。」と規定している(各2条)。これは、後段叙説のごとく、地方公務員法が職員でなければ職員団体の構成員または役員となることができないということを前提としており、そのことのために、全勤務時間を通じて職務に専念すべき義務を負う職員としては、当該地方公共団体と効果的な団体交渉を行なうことができず、ひいては職員団体結成の実を失うこととなるので、職員の団結権等を保護するため、特に、右のような法的措置を講じたものというべきである。従つて、かかる法制の下においては、右の各規定は、職員に対し専従休暇の承認申請権を与え、その運用を単に地方公共団体の内部的自律権に委ねることなく、法令による統制に服せしめる趣旨に出たものであり、この限りでは、専従休暇の承認に関する処分に対しては、法的統制の実効性を保障する制度としての裁判所の審査権限が及び得るもの、と解するのが相当である。そしてまた、本件専従休暇の不承認処分は、行政庁の消極的行為ではあるが、法によつて与えられた職員の前記申請権に法的効果を及ぼすものであるから、取消訴訟の対象たる行政処分であり、しかも、前記説示の理由により、行政庁の裁量に法的制約が課せられている処分に該当する、というを妨げない」
「地方公務員法52条1項(および本件専従条例各2条)を以上のごとく解することと憲法28条との関係について附言すれば、憲法28条の保障する勤労者の団結権等は、立法その他の国政の上で最大の尊重を必要とし、みだりに制限することを許さないものであるが、絶対無制限のものではなく、公共の福祉のために制限を受けるのはやむを得ないこと、当裁判所の屡次の判決の示すところである(昭和28年4月8日大法廷判決、別集7巻4号775項、昭和25年11月15日大法廷判決、刑集4巻11号2257頁等参照)。そして、右の制限の程度は、勤労者の団結権等を尊重すべき必要と公共の福祉を確保する必要とを比較考量し、両者が適正な均衡を保つことを目的として決定されるべきであるが、このような目的の下に立法がなされる場合において、具体的に制限の程度を決定することは立法府の裁量権に属するものというべく、その制限の程度がいちじるしく右の適正な均衡を破り、明らかに不合理であつて、立法府がその裁量権の範囲を逸脱したと認められるものでないかぎり、その判断は、合憲、適法なものと解するのが相当である。
ところで、地方公務員法が職員の給与、勤務時間その他の勤務条件について、その根本 基準を定め(24条参照)、地方公共団体の人事委員会による給与等の勧告に関する制度を設け(25条3頂、26条、47条参照)、さらに、前叙のごとく、職員は団体協約の締結はできないとはいえ、職員団体を通じて勤務条件等につき当局と交渉をすることができるものとし(55条1項参照)、職員団体の事務の処理のため一定の職員に対して専従休暇を許すようにしていること等によつて、職員の労働基本権を一応保護していることにかんがみ、また、地方公務員は全体の奉仕者として公共の利益のために勤務し(憲法15条2項参照)、且つ、職務の遂行にあたつては全力を挙げてこれに専念し、当該地方公共団体の職務にのみ従事しなければならない義務を負つており(地方公務員法35条参照)、このような責務を有する職員の秩序は、公共の利益のためとくに確保されなければならないということにかんがみれば、立法府が従前の官公庁労働組合の実状等諸般の事情からみて職員団体の自主性または民主性の実体のそこなわれることを懸念し、前叙のごとく、非職員の職員団体への参加を認めないとして、職員の団結権をこの限度において制限したのは、前記の適正な均衡をいちじるしく破り、明らかに不合理であつて、その与えられた裁量権の範囲を逸脱したものとは認められない。それ故、地方公務員法52条1項(および本件専従条例各2条)を前段説示のごとく解することは、憲法28条に違反するものということはできない。」
最高裁判所昭和48年4月25日大法廷判決
〔判決要旨〕
「1、国家公務員法98条5項、110条1項17号は、憲法28条に、国家公務員法110条1項17号は憲法18条、21条、31条に違反しない。
2、国家公務員法110条1項17号にいう「あおり」とは、同法98条5項前段に定める違法行為を実行させる目的をもって、他人に対し、その行為を実行する決意を生じさせるような、または、すでに生じている決意を助長させるような勢いのある刺激を与えることをいい、「企て」とは、同条項に定める違法行為の共謀、そそのかし、または、あおり行為の遂行を計画準備することであって、違法行為発生の危険性が具体的に生じたと認めうる状態に達したものをいう。
3、国家公務員法110条1項17号は、違法性の強い争議行為に対し違法性の強い行為により同条項所定の「あおり」行為等をした場合に限ってこれに刑事制裁を科している趣旨ではなく、また、同条項所定の「あおり」行為等が争議行為に「通常随伴」するものと認められるものでないことを要件とするものではない。(3につき、補足意見、意見、反対意見がある。)」
〔判決文〕
「よつて考えるに、憲法28条は、「勤労者の団結する権利及び団体交渉その他の団体行動をする権利」、すなわちいわゆる労働基本権を保障している。この労働基本権の保障は、憲法25条のいわゆる生存権の保障を基本理念とし、憲法27条の勤労の権利および勤労条件に関する基準の法定の保障と相まつて勤労者の経済的地位の向上を目的とするものである。このような労働基本権の根本精神に即して考えると、公務員は、私企業の労働者とは異なり、使用者との合意によつて賃金その他の労働条件が決定される立場にないとはいえ、勤労者として、自己の労務を提供することにより生活の資を得ているものである点において一般の勤労者と異なるところはないから、憲法28条の労働基本権の保障は公務員に対しても及ぶものと解すべきである。ただ、この労働基本権は、右のように、勤労者の経済的地位の向上のための手段として認められたものであつて、それ自体が目的とされる絶対的なものではないから、おのずから勤労者を含めた国民全体の共同利益の見地からする制約を免れないものであり、このことは、憲法13条の規定の趣旨に徴しても疑いのないところである(この場合、憲法13条にいう「公共の福祉」とは、勤労者たる地位にあるすべての者を包摂した国民全体の共同の利益を指すものということができよう。)。」

昭和40~50年あたりは、こうした労働紛争や労働組合が非常に盛んだった時期。
上記判決では結局、
「公務員に労働三権の一部を認めないことは憲法に違反しない」とされた。

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