企業法・授業まとめ-第11回-

労働契約の期間

採用時に通知しなければいけないものとして、労働期間がある。

いわゆる「正社員」は期間の定めがない社員。
「契約社員」には期間の定めがある。

民法627条(期間の定めのない雇用の解約の申入れ)
※いわゆる正社員(期間の定めなし)
「1 当事者が雇用の期間を定めなかったときは、各当事者は、いつでも解約の申入れをすることができる。この場合において、雇用は、解約の申入れの日から2週間を経過することによって終了する
2 期間によって報酬を定めた場合には、解約の申入れは、次期以後についてすることができる。ただし、その解約の申入れは、当期の前半にしなければならない。
3 6箇月以上の期間によって報酬を定めた場合には、前項の解約の申入れは、3箇月前にしなければならない。」
※退職願いの提出時期(就業規則に別途定めがある場合もある。」

※退職願の提出時期(就業規則に別途定めがある場合もある。)

⇒「正社員」は期間の定めがないから、永久に雇ってもらえるのでは…?
と思ってしまうが、民法上は逆の考え方。
2週間前までに申入れればいつでも辞めさせられる/辞めることができる
と定められている。

民法628条(やむを得ない事由による雇用の解除)
「当事者が雇用の期間を定めた場合であっても、やむを得ない事由があるときは、各当事者は、直ちに契約の解除をすることができる。この場合において、その事由が当事者の一方の過失によって生じたものであるときは、相手方に対して損害賠償の責任を負う。」

※その他、業種によって契約期間の上限を定めるなど、人身の自由を保障。

労働基準法14条1項(契約期間等)
「労働契約は、期間の定めのないものを除き、一定の事業の完了に必要な期間を定めるもののほかは、3年(次の各号のいずれかに該当する労働契約にあつては、5年)を超える期間について締結してはならない
① 専門的な知識、技術又は経験(以下この号において「専門的知識等」という。)であつて高度のものとして厚生労働大臣が定める基準に該当する専門的知識等を有する労働者(当該高度の専門的知識等を必要とする業務に就く者に限る。)との間に締結される労働契約
② 満60歳以上の労働者との間に締結される労働契約(前号に掲げる労働契約を除く。)」

※内定は取り消せるのか?
⇒そもそも、労基法上でどのように整理・解釈されているかがポイント。

働くにあたり、労働期間や賃金などの条件を決めて通知し、「内定」を出す。
それを承諾することで決められた期間から働き始めるわけだが、
“会社が内定を出す”という行為は、どういう性質を有するのか。

これについて、裁判で揉めた例がある。

最高裁判所昭和55年5月30日判決
〔判決要旨〕
「「1、日本電信電話公社の社員公募に応じ、試験に合格して採用の日、配置先、採用職種及び身分を具体的に明示した採用通知を受けた者が、同公社からの求めに応じて被服号型報告表を提出し、入社懇談会に出席し、健康診断を受けたなどのことがあり、他方、同公社において、採用通知のほかには労働契約締結のための特段の意思表示をすることを予定していなかつたなど、判示の事実関係のもとにおいては、社員公募に対する応募は労働契約の申込であり、これに対する同公社の採用通知は右申込に対する承諾であつて、これにより、応募者と同公社との間に、労働契約の効力発生の始期を採用通知に示された採用の日とし、解約権を留保した労働契約が成立したものと認めるのが相当である。
2、日本電信電話公社が、社員としての採用を内定したのち、その者が反戦青年委員会の指導的地位にあつて、大阪市公安条例等違反の現行犯として逮捕され、起訴猶予処分を受ける程度の違法行為をしたことが判明したとして留保解約権に基づく採用内定を取り消すことは、解約権留保の趣旨、目的に照らして社会通念上相当として是認することができ、解約権の行使は有効である。」
〔判決文〕
「以上の事実関係によれば、被上告人から上告人に交付された本件採用通知には、採用の日、配置先、採用職種及び身分を具体的に明示しており、右採用通知のほかには労働契約締結のための特段の意思表示をすることが予定されていなかつたと解することができるから、上告人が被上告人からの社員公募に応募したのは、労働契約の申込みであり、これに対する被上告人からの右採用通知は、右申込みに対する承諾であつて、これにより、上告人と被上告人との間に、いわゆる採用内定の一態様として、労働契約の効力発生の始期を右採用通知に明示された昭和45年4月1日とする労働契約が成立したと解するのが相当である。もつとも、前記の事実関係によれば、被上告人は上告人に対し辞令書を交付することを予定していたが、辞令書の交付はその段階で採用を決定する手続ではなく、見習社員としての身分を付与したことを明確にするにとどまるものと解すべきである。そして、右労働契約においては、上告人が再度の健康診断で異常があつた場合又は誓約書等を所定の期日までに提出しない場合には採用を取り消しうるものとしているが、被上告人による解約権の留保は右の場合に限られるものではなく、被上告人において採用内定当時知ることができず、また知ることが期待できないような事実であつて、これを理由として採用内定を取り消すことが解約権留保の趣旨、目的に照らして客観的に合理的と認められ社会通念上相当として是認することができる場合をも含むと解するのが相当であり、本件採用取消の通知は、右解約権に基づく解約申入れとみるべきである。したがつて、採用内定を取り消すについては、労働契約が効力を発生した後に適用されるべき日本電信電話公社法31条、日本電信電話公社職員就業規則55条、日本電信電話公社準職員就業規則58条の規定が適用されるものないことも明らかである。」

そもそも、内定とはなにか。
「何もなければ●月●日からあなたを採用しますよ」という、
条件付きの労働契約の申込みのこと。

「何もなければ」、に条件が留保されている。
例えば、
・大学を卒業できなかったら就職させません
・何か変なことをやっていたら就職させません など。

上記判例は、
“採用や内定を取り消すとき、こういうケースなら認められる”というもの。
(かなり極端な例ではあるが)
一方で、業績悪化による採用取り消しというのは認められない。
これが新卒の内定取り消しに関する事例。

あと2つほど事例を紹介したい。

<大阪地方裁判所平成16年6月9日判決>
〔判決文〕
「被告パソナは、本件就労拒絶を留保解約権の行使によるものである旨主張するところ、留保解約権に基づく採用内定の取消しは、当該事由を理由として採用内定を取り消すことが解約権留保の趣旨・目的に照らして客観的に合理的と認められ、社会通念上相当として是認することができる場合に許されるというべきである。
この点に関し、原告は、留保解約権の行使は原告の適格性を理由とするものに限られる旨主張する。確かに、採用内定の場合の解約権留保の趣旨・目的の一つが、従業員としての適格性の有無を判断することにある点は否定し得ないが、解約権留保の趣旨・目的がそれに限られるか否かは、具体的事情を総合考慮して判断しなければならない。
そこで、本件についてこれをみるに、被告パソナとの労働契約においては、原告の就業場所が本件店舗に、職種が商品販売業務に限定されていたところ(原告と被告パソナとの間で争いがない。)、被告パソナとの労働契約の成立後、被告ヨドバシカメラは、被告パソナに対し、同被告の従業員が本件店舗において販売員として就労することを拒絶したのであるから、原告が、被告パソナとの労働契約に基づき、本件店舗で販売員として就労することは社会通念上不能となっている。
しかも、就業場所・職種を限定する前記特約が存在する以上、被告パソナが、原告に対し、他の就業場所や他の職種での就労を命じることもできない。被告パソナがこのように客観的に労働者を就労させることが不能となった労働契約を存続させる意思を有していたとは到底考えられないから、被告パソナとの労働契約においては、このような事態に陥った場合のためにも、同被告に解約権が留保されていたものと推認するのが合理的である。」
「したがって、原告の採用が内定したと考えられる本件研修の後、本件業務委託契約が不成立となることが確定し、限定されていた就業場所・職種での原告の就労が不能となった以上、留保解約権に基づき、原告の採用内定を取り消したことは、解約権留保の趣旨・目的に照らして社会通念上相当として是認することができるから、被告パソナによる解約権の行使は適法かつ有効であるといわなければならない。」

⇒会社が働く場所を限定していたところ、被雇用者がそれを拒絶。
この拒絶を理由とする内定の取り消しが許された、という話。

内定通知書等には就業場所の記載がされ、
それを了承してしまえば、基本的に拒絶はできない。
この件では、会社が勤務地を限定しているにも関わらず、その地域での採用を断ったため、内定が取り消されても仕方がない。

最高裁判所昭和48年12月12日判決>(破棄差戻し)
〔判決要旨〕
「企業者が、大学卒業者を管理職要員として新規採用するにあたり、採否決定の当初においてはその者の管理職要員としての適格性の判定資料を十分に蒐集することができないところから、後日における調査や観察に基づく最終的決定を留保する趣旨で試用期間を設け、企業者において右期間中に当該労働者が管理職要員として不適格であると認めたときは解約できる旨の特約上の解約権を留保したときは、その行使は、右解約権留保の趣旨、目的に照らして、客観的に合理的な理由が存し社会通念上相当として是認されうる場合にのみ許されるものと解するべきである。」
〔判決文〕
「法が企業者の雇傭の自由について雇入れの段階と雇入れ後の段階とで区別を設けている趣旨にかんがみ、また、雇傭契約の締結に際しては企業者が一般的には個々の労働者に対して社会的に優越した地位にあることを考え、かつまた、本採用後の雇傭関係におけるよりも弱い地位であるにせよ、いつたん特定企業との間に一定の試用期間を付した雇傭関係に入つた者は、本採用、すなわち当該企業との雇傭関係の継続についての期待の下に、他企業への就職の機会と可能性を放棄したものであることに思いを致すときは、前記留保解約権の行使は、上述した解約権留保の趣旨、目的に照らして、客観的に合理的な理由が存し社会通念上相当として是認されうる場合にのみ許されるものと解するのが相当である。換言すれば、企業者が、採用決定後における調査の結果により、または試用中の勤務状態等により、当初知ることができず、また知ることが期待できないような事実を知るに至つた場合において、そのような事実に照らしその者を引き続き当該企業に雇傭しておくのが適当でないと判断することが、上記解約権留保の趣旨、目的に徴して、客観的に相当であると認められる場合には、さきに留保した解約権を行使することができるが、その程度に至らない場合には、これを行使することはできないと解すべきである。」
「思うに、企業者が、労働者の採用にあたつて適当な者を選択するのに必要な資料の蒐集の一方法として、労働者から必要事項について申告を求めることができることは、さきに述べたとおりであり、そうである以上、相手方に対して事実の開示を期待し、秘匿等の所為のあつた者について、信頼に値しない者であるとの人物評価を加えることは当然であるが、右の秘匿等の所為がかような人物評価に及ぼす影響の程度は、秘匿等にかかる事実の内容、秘匿等の程度およびその動機、理由のいかんによつて区々であり、それがその者の管理職要員としての適格性を否定する客観的に合理的な理由となるかどうかも、いちがいにこれを論ずることはできない。また、秘匿等にかかる事実のいかんによつては、秘匿等の有無にかかわらずそれ自体で右の適格性を否定するに足りる場合もありうるのである。してみると、本件において被上告人の解雇理由として主要な問題とされている被上告人の団体加入や学生運動参加の事実の秘匿等についても、それが上告人において上記留保解約権に基づき被上告人を解雇しうる客観的に合理的な理由となるかどうかを判断するためには、まず被上告人に秘匿等の事実があつたかどうか、秘匿等にかかる団体加入や学生運動参加の内容、態様および程度、とくに違法にわたる行為があつたかどうか、ならびに秘匿等の動機、理由等に関する事実関係を明らかにし、これらの事実関係に照らして、被上告人の秘匿等の行為および秘匿等にかかる事実が同人の入社後における行動、態度の予測やその人物評価等に及ぼす影響を検討し、それが企業者の採否決定につき有する意義と重要性を勘案し、これらを総合して上記の合理的理由の有無を判断しなければならないのである。」

⇒労働条件の通知や採用の際、「試用期間」という言葉を耳にする。
上記判例は、“試用期間とは何か”について揉めた事例。

ざっくり言ってしまえば、「試用期間」は通常の雇用と何も変わらない。
∴試用期間を言い訳に「試用期間終了とともに解雇」なんてことは通用しない。

※採用してみないと、その人が本当に仕事できるかどうかは分からないが、
試用期間を設けて「うちに合うか見極めたい」というのは企業側の理論。
単に労力不足、ということでは基本的に解雇されない。
それは労働力ではなく時間を買っている、という点からかも。
その人の時間を買っている以上、何をさせるかは会社が考えなければいけない。
会社が、その人を使って何かできることをさせなければいけない。
これが労働契約。
仕事ができないことを理由に解雇してはいけない、というのが大原則。

ただ、上記判例のような隠蔽があると、またそれは別。

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