企業法・授業まとめ-第12回-

企業と独占禁止法

企業は営利組織。会社法・企業法のカテゴリーの中では
利益を追求して、それを構成員に分配することが目的。

企業は市場の独占を目指すべきもの?
売り手が減れば、利益が一つの会社に集中する?
そうすれば、市場を独占した会社の売上が増え、利益が増える?

しかし、一つの企業が市場を独占することは一般消費者の利益にならない

なぜなら…
・市場の独占が起これば、自由に価格を決めることができてしまう。
・そうすれば交渉ができなくなり、価格を際限なく上げることができてしまう。
・最終的に、価格を上げながら売る量を独占することが可能になってしまう。
結果、一般消費者の利益にならない。

独占禁止法で規制
(正式名称は「私的独占の禁止及び公正取引の確保に関する法律」)
⇒「独占禁止法」と称されるが
規定しているのは、「私的独占禁止」と「公正取引確保」の点☝

独占禁止法1条(目的)
「この法律は、私的独占、不当な取引制限及び不公正な取引方法を禁止し、事業支配力の過度の集中を防止して、結合、協定等の方法による生産、販売、価格、技術等の不当な制限その他一切の事業活動の不当な拘束を排除することにより、公正且つ自由な競争を促進し、事業者の創意を発揮させ、事業活動を盛んにし、雇傭及び国民実所得の水準を高め、以て、一般消費者の利益を確保するとともに、国民経済の民主的で健全な発達を促進することを目的とする。」

この法律で禁止される行為は、
「私的独占」「不当な取引制限」「不公正な取引方法」の3つ。

このうち「不公正な取引方法」は種類が多い。

独占禁止法の概要
独占禁止法の正式名称は、「私的独占の禁止及び公正取引の確保に関する法律」です。この独占禁止法の目的は、公正かつ自由な競争を促進し、事業者が自主的な判断で自由に活動できるようにすることです。市場メカニズムが正しく機能していれば、事業者は、自らの創意工夫によって、より安くて優れた商品を提供して売上高を伸ばそうとしますし、消費者は、ニーズに合った商品を選択することができ、事業者間の競争によって、消費者の利益が確保されることになります。このような考え方に基づいて競争を維持・促進する政策は「競争政策」と呼ばれています。
 また、独占禁止法の特別法として、下請事業者に対する親事業者の不当な取扱いを規制する「下請法」があります。



独占禁止法に違反した場合
公正取引委員会では、違反行為をした者に対して、その違反行為を除くために必要な措置を命じます。これを「排除措置命令」と呼んでいます。
私的独占、カルテル及び一定の不公正な取引方法については、違反事業者に対して、課徴金が課されます。
カルテル、私的独占、不公正な取引方法を行った企業に対して、被害者は損害賠償の請求ができます。この場合、企業は故意・過失の有無を問わず責任を免れることができません(無過失損害賠償責任)。
カルテル、私的独占などを行った企業や業界団体の役員に対しては、罰則が定められています。

公正取引委員会HPより

私的独占

企業が単独で、または他の企業と手を組み、競争相手を市場から締め出したり、新規参入者を妨害して市場を独占しようとする行為を「私的独占」といいます。



上の絵のように市場を独占している企業が、新規参入してきたライバル企業等を排除するため、取引先企業に対して取引量に応じてリベート(売上割戻金)を出すと、取引先企業ではその企業の商品しか取り扱われなくなり、価格や品質に優れた新規参入者が締め出されてしまいます。
市場を独占した企業は競争相手がいないので、消費者により安く、より良い商品を売ろうというような企業努力をしなくなります。それでは消費者のメリットが失われることになりますので、このような「私的独占」は禁止されています。もちろん正当な競争の結果として、市場を独占するようになった場合は、違法にはなりません。
公正取引委員会HPより)

⇒正当に勝負して勝つなら良いが、ずるいことしてはダメ、ということ。
実際はなかなか難しい。

例えば、LCCが参入してくるときJALやANAが追随して値下げした場合、
一見企業努力の範疇のようだが、その値下げをNGとされるほうが多い。

この一時的な値下げがマイナスにみられる理由は、
・LCCの参入時に既存の大手会社が値下げをすれば、LCCに客足が向かない。
・結果、LCCがいなくなってしまう。
・その後、大手会社は値段をもとに戻す。
ということが起きれば、意図的なLCCの新規参入締め出し行為になるから。
企業努力(値下げ)が共存努力の結果であるなら、値段は下げ続けないとだめ。
LCCの撤退後も値段を下げ続ければ、それは「競争」であるが、
一時的な値下げは単なる「新規参入企業の締め出し行為」にしか映らない。

 

私的独占に関し、世の中で話題になったのがJASRACの件。

参考記事:
楽曲、放送で使い放題に転機 JASRAC契約『参入の妨げ』
(2015/4/29 日本経済新聞 電子版)

司法判断が後押し エイベックスがJASRAC離脱
(2015/10/16 日本経済新聞 電子版)

楽曲の著作権管理 JASRACのシェア98%
(2015/10/16 日本経済新聞 電子版)

包括契約のやり方が新規参入を締め出しているとして、裁判で争われた。

最高裁判所平成27年4月28日判決
〔判示事項〕
「音楽著作権の管理事業を行う既存の事業者が楽曲の放送への利用の許諾につき使用料の徴収方法を定めてその徴収をする行為が、独占禁止法2条5項にいう他の事業者の事業活動の排除に係る要件である他の事業者の上記の利用許諾の市場への参入を著しく困難にする効果を有するとされた事例」
〔判決文〕
「参加人の本件行為は、本件市場において、音楽著作権管理事業の許可制から登録制への移行後も大部分の音楽著作権につき管理の委託を受けている参加人との間で包括許諾による利用許諾契約を締結しないことが放送事業者にとっておよそ想定し難い状況の下で、参加人の管理楽曲の利用許諾に係る放送使用料についてその金額の算定に放送利用割合が反映されない徴収方法を採ることにより、放送事業者が他の管理事業者に放送使用料を支払うとその負担すべき放送使用料の総額が増加するため、楽曲の放送利用における基本的に代替的な性格もあいまって、放送事業者による他の管理事業者の管理楽曲の利用を抑制するものであり、その抑制の範囲がほとんど全ての放送事業者に及び、その継続期間も相当の長期間にわたるものであることなどに照らせば、他の管理事業者の 本件市場への参入を著しく困難にする効果を有するものというべきである。」

参考記事:
JASRAC、請求取り下げ 著作権契約巡る審判
(2016/9/14 日本経済新聞 電子版)

⇒結果、最高裁はこのような包括契約には正当性がないと判断。
日本で市場を独占する企業・団体があると、このようなことが起きる。
結果困るのは国民、消費者。

 

条文でどのように禁止されているか。
目的規定(1条)では、単に「私的独占を禁止」するとしか定められていない。
では、「私的独占」とは具体的に何か。

独占禁止法2条5項(定義:私的独占)
「この法律において「私的独占」とは、事業者が、単独に、又は他の事業者と結合し、若しくは通謀し、その他いかなる方法をもつてするかを問わず、他の事業者の事業活動を排除し、又は支配することにより、公共の利益に反して、一定の取引分野における競争を実質的に制限することをいう。」

Q.この「制限」というのはどういう状態?
「競争を実質的に制限すること」とは何か?

⇒何を判断基準とするか、がポイント。
様々なモノを作っていれば、どの範囲でどのくらい独占しているかによる。
特定のモノしか作らなければ、当然独占することになる。

*例えばスマートフォン。
iPhoneが登場したとき、誕生したその瞬間は当然独占した。
他の企業が追っかけで様々なものを開発すると
iPhone市場で独占するのか、携帯市場で独占するのか、
そこで全然変わってくる。

①取引対象商品または役務
②取引の地域(物理的範囲)
③取引段階
④特定の取引の相手方などで判断(カルテルの禁止行為も基本的に同じ)

以上のように、いろいろな点で判断していくので
制限の内容は条文だけでは分かりづらい。

Q.条文にある「他の事業者の事業活動を排除し、又は支配」について
具体的に問題になる事例は?

最高裁判所平成22年12月17日判決>(光ファイバ)
〔判示事項〕
「自ら設置した加入者光ファイバ設備を用いて戸建て住宅向けの通信サービスを加入者に提供している第一種電気通信事業者が、他の電気通信事業者に対して上記設備を接続させて利用させる法令上の義務を負っていた場合において、自ら提供する上記サービスの加入者から利用の対価として徴収するユーザー料金の届出に当たっては、光ファイバ1芯を複数の加入者で共用する安価な方式を用いることを前提としながら、実際の加入者への上記サービスの提供に際しては光ファイバ1芯を1人の加入者で専用する高価な方式を用いる一方で、その方式による上記設備への接続の対価として他の電気通信事業者から取得すべき接続料金については自らのユーザー料金を上回る金額の認可を受けてこれを提示し、自らのユーザー料金が当該接続料金を下回るようになるものとした行為が、独禁法2条5項にいう「他の事業者の事業活動を排除」する行為に該当するとされた事例」
〔判決文〕
「自ら設置した加入者光ファイバ設備を用いて戸建て住宅向けの通信サービスを加入者に提供している第一種電気通信事業者が、他の電気通信事業者に対して上記設備を接続させて利用させる法令上の義務を負っていた場合において、自ら提供する上記サービスの加入者から利用の対価として徴収するユーザー料金の届出にあたっては、光ファイバ1芯を複数の加入者で共用する安価な方式を用いることを前提としながら、実際の加入者への上記サービスの提供に際しては光ファイバ1芯を1人の加入者で専用する高価な方式を用いる一方で、その方式による上記設備への接続の対価として他の電気通信事業者から取得すべき接続料金については自らのユーザー料金を上回る金額の認可を受けてこれを提示し、自らのユーザー料金が当該接続料金を下回るようになるものとした行為は、次の(1)~(5)など判示の事情のもとにおいては、独禁法2条5項にいう「他の事業者の事業活動を排除」する行為に該当する。
(1)当時東日本地区において既存の加入者光ファイバ設備に接続して上記サービスを提供しようとする電気通信事業者にとって、その接続対象は、上記第一種電気通信事業者に事実上限られていた。
(2)上記サービスは、主として事業の規模によって効率が高まり、かつ、加入者との間でいったん契約を締結すれば競業者への契約変更が生じ難いという特性を有していた。
(3)上記第一種電気通信事業者は、自らの加入者への上記サービスの提供において安価な方式を用いることを前提としてその接続料金の認可を受けることなどにより、上記第一種電気通信事業者のユーザー料金が接続料金を下回るという逆ざやの発生を防止するために行われていた行政指導を始めとする種々の行政的規制を実質的に免れていた。
(4)上記第一種電気通信事業者は、上記サービスの市場において他の電気通信事業者よりも先行していた上、その設置した加入者光ファイバ設備を自ら使用するとともに、未使用の光ファイバの所在等に関する情報も事実上独占していた。
(5)上記サービスの市場が当時急速に拡大しつつある中で、上記第一種電気通信事業者の当該行為の継続期間は1年10カ月にわたった。」

当該サービス内容は、消費者に他の事業者を選ばせないため
最終的には参入を制限する排除行為と判断された。

一方で、違反でないとされた事例がこちら⇩

参考記事:
光回線『まとめ貸し』違法の判決 ソフトバンク側敗訴 東京地裁
(2014/6/19 日本経済新聞)

設備コストの不安や初期投資等を考えると、それほど不利益でないとされ、
独禁法に違反しないと判断された。

以上のように、同じ会社・商品でも事例によって結論が異なる。

 

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