六法全書クロニクル ~改正史記~ 平成18年版

平成18年版六法全書

平成18年六法全書

この年の六法全書に新収録された法令に、
刑事施設及び受刑者処遇法(平成17年法律第50号)が、

改正された法令として収録されたものに、
刑事施設ニ於ケル刑事被告人ノ収容等ニ関スル法律
(旧:監獄法、明治41年法律第28号)

があります。

 

いかにも古めかしい名前の法律ですが、
結構最近まで「監獄法」なんて名前の法律が現役で使われていたって、
ご存知でしたか?

改正前の監獄法は、
監獄の管理運営と在監者の処遇全般について定めていた法律です。
明治41年の制定以来、一度も改正されることがなかったため
その後の実務や理念の変遷を取り込めず、極めて不十分な内容となっていました。

法務省としても、昭和57年には監獄法を全面改正する「刑事施設法案」を国会に提出していたのですが、代用監獄問題(詳しくは東弁HPを参照)をめぐる対立などから、法改正は実現しないままとなっていました。

 

そんな中・・・
平成14年、名古屋刑務所の刑務官が集団で受刑者に暴行し
3人を死傷させたとされる事件が発覚。
この問題を受けて、有識者からなる「行刑改革会議」が設置され
同会議は、監獄法の全面改正などを求める提言を提出しました。

法務省では、この提言を受けて
①まずは受刑者の処遇を中心として監獄法の改正をおこない、
②その後、未決拘禁者等の処遇に関しても早期に法改正をする
という、2段階方式を採用することとしました。

こうして、平成17年5月18日に第1段階として、刑事施設一般及び受刑者の処遇に関して定める「刑事施設及び受刑者の処遇等に関する法律」が成立し、この結果、監獄法には、未決拘禁者・死刑確定者の処遇についての規定だけが残り、法律の名称が「監獄法」から「刑事施設ニ於ケル刑事被告人ノ収容等ニ関スル法律」へと改められたのでした。

つまり、監獄法改正が半分だけ達成された状態であるのが
平成18年版六法全書なのです。

 

ちなみに、平成18年には、第2段階として、
「刑事施設及び受刑者の処遇等に関する法律」の一部を改正する法律が成立。
これによって、未決拘禁者・死刑確定者についての規定が同法に統合され、
名称も「刑事収容施設及び被収容者等の処遇に関する法律」と変更されて、
現在に至っています。

監獄法は、ここに、完全に廃止されました。

 

◇ ◇ ◇

 

ここまで、長々と法改正の経緯を書いてしまいましたが、
実は、私もこの監獄法改正作業に少し関わっていました。
あの時は大変でした・・・。
個人的な思い入れから、詳しめに取り上げさせていただきました。

  

さて、改めまして、法律の中身を見てみましょう。

これらの法律では、刑事施設の管理運営に関する事項や、
刑事施設に収容されている人たちの処遇が決められています。 

刑務所や拘置所での生活がどんなものか、ご存知でしょうか?

時々、テレビ番組や雑誌などでも取り上げられたりしていますが、
一般的にはあまり馴染みがないですよね。
収容される人々の処遇がどのように決められているか、
衣食住についての法律の規定をひも解いてみましょう。

 

まず、「衣」「食」。いわゆる官給原則が規定されています。
(条文は、刑事収容施設及び被収容者等の処遇に関する法律のもの)

(物品の貸与等)
第四十条 被収容者には、次に掲げる物品(中略)であって、刑事施設における日常生活に必要なもの(中略)を貸与し、又は支給する。
一 衣類及び寝具
二 食事及び湯茶
三 日用品、筆記具その他の物品

生活必需品については国から貸与又は支給されますので、
基本的には生活費はかかりません。

一方、「住」については、法律には特に規定がありません。
しいて挙げれば、施設に収容するということと、居室の定義が置かれている程度。
部屋の広さや設備についての規定などはありません。

 

こうやって見てみると、
法律で書かれているのは、本当に大枠のところだけなんですね。

例えば、
・何の衣類を何枚貸与する
・一日当たりご飯の量は何グラム支給する
そういう具体的なところは「訓令」や「通達」といって、法律よりももっと下のレベルの法令に定められています。

訓令や通達は、六法全書には掲載されていないことがほとんどです。
そのため、調べようと思ったら、その分野に絞った法令集(※)を入手する必要がありますが、かなり大きな書店でないと置いていなかったりします。

※『金融六法』や『福祉六法』などと呼ばれます。
今回取り上げた分野では、『矯正実務六法』という法令集があります。

 

やれやれ、調べるだけでも、一苦労です。

 

だったら、そんな回りくどいことしないで、実際に見るのが一番!
と思う方もいらっしゃるかもしれません。
しかし、残念ながら、見に行くのも簡単ではないんです。
やはり、収容されている人のプライバシーの問題などもありますので、
刑事施設には原則として、関係者以外は立ち入ることができません。

 

法律には、

『刑事施設の長は、その刑事施設の参観を申し出る者がある場合において相当と認めるときは、これを許すことができる。』
(刑事収容施設及び被収容者等の処遇に関する法律12条)

という規定もありますが、
例えば、学術研究のためなど、相当と認められるような理由が必要です。

ただ「興味がある」とか「ご近所なので見ておきたい」といった理由だと、
ご遠慮くださいと言われてしまうかもしれません。

やはり、塀に囲まれた、閉ざされた世界という側面があることは、否めませんね。

 

しかし、行刑改革会議が掲げた
国民に理解され、支えられる刑務所を目指して
という言葉の下、刑事施設も市民の方の理解を得られるよう
昔よりは大分頑張っているんですよ。

一番身近なところでは、
多くの刑事施設で、年に一度「矯正展」と呼ばれるイベントを開催しています。

「●●刑務所矯正展」や「△△拘置所矯正展」という名前、
見聞きしたことはないでしょうか?
開催時に希望者を募り、施設内の見学ツアーをおこなっていることがあります。

写真やパネルのほかに、実際に被収容者が着ている衣服や、食べている食事のサンプル、モデル居室などの実物が展示されていることも!
他にも、受刑者が作業で作った刑務作業製品の展示即売があったり、
刑務所レシピのパンやカレーが食べられたりする施設なんかもあるようです。

どうでしょう、
(今年はコロナの関係で開催されるかどうか不透明ですが、収束したら)
お近くの刑事施設を調べて、矯正展に足を運んでみては。
法律を読むだけでは分からない、超レアな体験ができるチャンスですよ!

ひまわり観察日記-2020-②

5月に似合わない寒さから一転、急に夏日が続いていますね。
すぐ梅雨入りしそうですが、つかの間の晴れを楽しみたいものです。

 

さて、先日種をまいた弊所のひまわりですが・・・

今年も無事に発芽しました。

 

気温のおかげか、今までで種まき~発芽が最速だったような気が!
タイミングが良かったのかもしれません。

新型コロナの影響もあり、まだまだ不安の残る今日この頃ですが
ひまわりの姿で少しでも気持ちが晴れるよう、今年もしっかり観察していきます。

六法全書クロニクル ~改正史記~ 平成19年版

平成19年度六法全書

平成19年六法全書

この年の六法全書に新収録された法令に、
遺失物法(平成18年法律第73号)があります。

遺失物、つまり、忘れ物や落とし物の取扱いについて定めた法律です。

それまでの旧遺失物法(明治32年法律第87号)が現状にそぐわず、
また、カタカナ表記で読みにくかったことから、全面的に改正されました。

大きく変わった点は、5つです。

① 拾得物の保管期間が3か月になった(それまでは6か月)

② 拾得物に関する情報が、インターネットで公表されるようになった

③ 携帯電話やカード類など個人情報が入った拾得物については、
拾った人が所有権を取得できないこととなった

④ 公共交通機関など多くの落とし物や忘れ物を取り扱う事業者を対象に
「特例施設占有者制度」が新設された

⑤ 傘・衣類など大量・安価な物等は、
2週間以内に落とし主が見つからない場合、売却等の処分ができることとなった

⑥ 所有者のわからない犬・猫は、遺失物法の対象外となった

 

落とし物や忘れ物。
皆さんの中でも、多くの方が経験されているのではないでしょうか。

私も、一度、出掛けた先で指輪が行方不明になったことがあります。
建物の中で落としたのか、電車の中で落としたのか、道で落としたのかも分からず、建物の管理事務所に問い合わせたり、電車会社の忘れ物センターに問い合わせたり、警察に届けたりと、いろいろ大変だった記憶があります。
(結局、建物の中で落としていたようで、後日、管理事務所に届けられ無事手元に戻ってきました。感謝です。)

本当に困りますし、焦りますよね!
その一方、届けられたほうも保管に困るということで、
上記の①~⑥のように、合理化などが図られたということのようです。

 

ちなみに・・・
落とし物や忘れ物って、どれくらい発生していると思いますか?

警視庁によると、令和元年の拾得届の受理状況は以下のとおり。

拾得件数 4,152,190件
現金 3,884,229,232円
物品点数 4,532,563点

それに対して遺失届は・・・

拾得件数 1,047,015件
現金 8,439,520,462円
物品点数 2,407,027点

 

パッと見ただけでは桁が分からないほど、すごい数字ですよね。

警視庁管内だけでも、1年間になんと38億円(!)ものお金が
「拾いました」といって届けられているんですね。

それに対し、「落としました」「忘れました」という届出は
84億円にものぼります。2倍以上です。

評価は様々かもしれませんが、
海外では、落としたり忘れたりしたら、ほぼ戻ってこないという話も聞きます。

これだけの割合で「拾いました」と届け出られているのは
日本人の誠実さの現れ、なのかもしれません。

 

いずれにしても、ほんのちょっとの不注意が原因であることがほとんど。

例えば、席を立つときや乗り物を降りるとき、
身の回りを見回すだけでも、違うかもしれません。

その時々の少しの労力を惜しまず、落とし物や忘れ物を防ぎましょう!

(参考:警視庁HP

 

◇ ◇ ◇

 

改正された法令として収録されたものとしては、
消費者契約法(平成12年法律第61号)があります。

以前にもブログで取り上げましたが、
消費者が事業者と契約をするとき、両者の間には、持っている情報の質・量や交渉力に格差があり、どうしても消費者は不利になりがちです。

そこで、消費者の利益を守るために作られたのが、消費者契約法です。

この法律では、消費者契約について、不当な勧誘による契約の取消しと不当な契約条項の無効等を規定しています。
この年の法改正では、新たに「消費者団体訴訟制度」が導入されました。

 

さて、消費者団体訴訟制度とはどのような制度でしょうか?

それは、読んで字のごとく、消費者団体が訴訟をする制度です。
もう少し詳しくいうと、内閣総理大臣が認定した消費者団体が、消費者に代わって、事業者に対して訴訟等をすることができる制度です。

民事訴訟の考え方では
<被害者である消費者が、加害者である事業者を訴える>
というのが原則ですが、消費者にとっては以下のような問題がありました。

①消費者と事業者との間には、情報の質・量、交渉力の格差がある
②訴訟には時間・費用・労力がかかり、少額被害の回復に見合わない
③個別のトラブルが回復されても、同種のトラブルがなくなるわけではない

そこで、事業者の不当な行為に対して、内閣総理大臣が認定した適格消費者団体が、不特定多数の消費者の利益を擁護するために、差止訴訟を起こすことができる制度が作られたのでした。

対象となる行為は、例えば以下のようなもの。

○「この装置付ければ電気代が安くなる」と勧誘し、実際にはそのような効果のない装置を販売

○将来値上がりすることが確実ではない金融商品を「確実に値上がりする」と説明して販売

○「当社のソフトウェアの誤作動により生じた障害については、当社は免責されるものとする」という条項

○常に同じ価格で販売している商品を「今なら半額!」と表示
(有利誤認表示)

こういった消費者トラブルに、ご自分が遭ってしまったと仮定してみてください。

「ひどい!」「許せない!」とは思っても、
では解決のために訴訟を起こすか、と言われると・・・。

被害額が少なければ、
尻込みして、泣き寝入りとなってしまうことも多いのではないでしょうか。

そうすると、結果として悪徳業者が得をし、はびこってしまいます。
更なる被害者が増えてしまうのです。

そこで、消費者団体が、被害者個人に代わって事業者に申し入れをしたり、訴訟を起こしたりしてくれるとしたらどうでしょう。
すごく助かると思いませんか?

大まかな手続の流れは以下のようになっています。

① 消費者からの情報提供などにより、被害情報を収集・分析・調査
② 事業者に対し、業務改善を申し入れ(裁判外の交渉)
③(交渉不成立の場合)事業者に対し、提訴前の書面による事前請求
④(交渉成立の場合)事業者による業務改善
⑤ 適格消費者団体による裁判所への訴え提起
⑥ 判決、または裁判上の和解
⑦ 結果の概要について、消費者庁のウェブサイトなどで公表

ご自分のためにも、社会全体のためにも、
悪徳業者は許さないという姿勢が大切だと思います。

消費者トラブルに遭ってしまったら、取りあえず、各地の消費生活センターに相談です!消費者ホットライン「188」番で、身近な消費生活センターや相談窓口を教えてもらえるそうです。

それくらいだったら、頑張れそうですよね。
こういう制度があることを知っておいて、いざという時、役立てましょう!

(参考:政府広報オンライン

企業法・授業まとめ-第13回-

授業ブログ第13回目です。

今回は「倒産法」について。
第2回のブログで、会社の一生を人に例えた話をしました。
経営破綻は、その先会社が生き残れるか否かの瀬戸際ではないでしょうか。

そのような事態に陥った場合、
どのような判断をしていくことになるのでしょうか。

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