六法全書クロニクル~改正史記~平成16年版

平成16年版六法全書

平成16年版六法全書

この年の六法全書に新収録された法令に、
個人情報の保護に関する法律(平成15年法律第57号)
(略称「個人情報保護法」)
があります。

同法は、高度情報通信社会の急速な進展、つまり、
コンピュータの処理能力が向上したことで、行政・民間が保有する膨大な個人情報を容易に処理することが可能となった結果、個人情報の利用が著しく拡大した一方、そういった個人情報データベース等からの個人情報漏洩によるプライバシー侵害への危険性、不安が増大していたことを受けて制定されたものです。

個人情報保護法は、その後の社会状況の変化等を踏まえ、
平成27年に改正されて適用範囲が拡大され、中小企業や個人事業主、町内会・自治会、学校の同窓会なども適用対象となっています。
また、逆の立場から、自分たちの個人情報が正しく取り扱われているかどうかチェックする意味でも、同法の中身を知っておくことは重要だと思いますので、ここでしっかりおさらいしておきましょう。

 

個人情報保護法では、
民間事業者の個人情報の取扱いについて、次のように規定しています。

(1)個人情報を取得するとき
個人情報を取得する際は、どのような目的で個人情報を利用するのかについて、具体的に特定しなければなりません。
個人情報の利用目的は、あらかじめ公表するか、本人に知らせる必要があります。
個人情報のうち、本人に対する不当な差別・偏見が生じないように特に配慮を要する情報(人種、信条、社会的身分、病歴、犯罪の経歴、犯罪被害情報など)は、「要配慮個人情報」として、取得するときは本人の同意が必要です。
(2)個人情報を利用するとき
取得した個人情報は、利用目的の範囲で利用しなければなりません。
すでに取得している個人情報を、取得時と異なる目的で利用する際には、本人の同意を得る必要があります。
(3)個人情報を保管するとき
取得した個人情報は漏洩などが生じないように、安全に管理しなければなりません。
例えば、
紙の個人情報は鍵のかかる引き出しで保管する
パソコンの個人情報ファイルにはパスワードを設定する
個人情報を扱うパソコンにはウイルス対策ソフトを入れる
などです。
また、個人情報を取り扱う従業員に教育を行うことや、業務を委託する場合に委託先を監督することも必要です。
(4)個人情報を他人に渡すとき
個人情報を本人以外の第三者に渡すときは、原則として、あらかじめ本人の同意を得なければなりません。
(5)本人から個人情報の開示を求められたとき
本人からの請求があった場合、個人情報の開示、訂正、利用停止などに対応しなければなりません。
個人情報の取扱いに対する苦情を受けたときは、適切かつ迅速に対処しなければなりません。
個人情報を扱う事業者や団体の名称や個人情報の利用目的、個人情報開示などの請求手続の方法、苦情の申出先などについて、ウェブサイトでの公表や、聞かれたら答えられるようにしておくなど、本人が知り得る状態にしておかなければなりません。

違反した場合は、懲役や罰金などの罰則が科せられることも規定されています。

 

かつては、学校で作成される名簿に、
クラス全員の氏名、住所、電話番号や、保護者の氏名、
なんなら誕生日や保護者の勤務先まで記載されていたような時代がありました。
それを、クラス替えがあるたび、クラス全員に配布していました。
それが当たり前で、誰も不思議に思っていなかったのですが…
今となっては、絶対あり得ないですよね。
この法律が施行される前と後で、社会が一変したことを実感します。

しかし、現在でも、身に覚えのないダイレクトメールや営業電話など、
自分の個人情報が漏れているのではないかと疑わざるを得ない出来事も
そんなに稀ではなかったりします。

大切な個人情報。
一度ネット上に流出でもしようものなら、ほぼ取り返しがつきません。
そんなことにならないよう、普段からしっかり目を光らせていきたいですね。

(参考:政府広報オンライン

 

◇ ◇ ◇

 

改正された法令として収録されたものに、
民事訴訟法(平成8年法律第109号)
があります。

21世紀の我が国の社会を支える、
「国民に身近で、速くて、頼りがいのある司法」
の実現を目指して進められた司法制度改革の一環としておこなわれた改正で、
主な内容は、次の六つです。

①計画審理の推進
②訴え提起前における証拠収集等の手続の拡充
③専門委員制度の創設
④特許権等に関する訴え等の専属管轄化
⑤少額訴訟の範囲の拡大
⑥電話会議システムを利用した弁論準備手続期日における和解等

 

①計画審理の推進では、
裁判所は、事件が複雑であることその他の事情によりその適正かつ迅速な審理を行うため必要があると認められるときは、当事者双方と協議をし、その結果を踏まえて審理の計画を定めなければならないこととされました。

②訴え提起前における証拠収集等の手続の拡充では、
訴えを提起しようとする者が提訴予告通知をした場合、予告通知者又は回答者は、(1)当事者による訴え提起前の照会、(2)裁判所による訴え提起前の証拠収集のための処分の申立をすることができるようになりました。

③専門委員制度の創設では、
専門訴訟の適正かつ迅速化の方策として、裁判所が、専門委員を手続に関与させることができることとなりました。
(この専門委員制度については、後で、もう少し詳しく見てみることにします。)

④特許権等に関する訴え等の専属管轄化では、
特許権等に関する訴えについて、次のようにそれぞれ専属することとされました。
第一審:東京又は大阪地方裁判所
控訴審:東京高等裁判所

⑤少額訴訟の範囲の拡大では、
簡易な手続により迅速に紛争を解決することを目指す少額訴訟について、
訴額の上限額が、30万円から60万円に引き上げられました。

⑥電話会議システムを利用した弁論準備手続期日における和解等では、
当該期日に出頭しないで手続に関与する当事者も、
当該期日において和解等をすることができるようになりました。

 

さて、ここで③専門委員制度の創設について、もう少し詳しく見てみましょう。

「専門委員」をご存知でしょうか?

私は、法律事務所に勤めるまで、寡聞にして聞いたことがありませんでした。しかし、その中身を知ってみると、なかなか良さそうな制度なのです。

 

裁判所に提起される民事訴訟には、さまざまなものがあります。
その中には、医療ミスや欠陥住宅によるトラブルのように、
紛争を解決する上で、医学や建築学などの専門的な知識が必要とされるものが含まれています。
いかに頭脳明晰な裁判官といっても、医学や建築学などの専門家ではありませんから、真の問題点等を把握するまでに多くの困難を伴うことが少なくなく、訴訟が長期にわたることもありました。

そこで、専門委員制度を設けて、民事訴訟手続の比較的早い段階から専門家に関与してもらえるようにしたのです。(それまでも、「鑑定」という制度があり、専門家の意見を聞くことはできたのですが、それは訴訟の終盤におこなわれることになっています。)
専門的な事項に関する当事者の言い分や証拠などについて、裁判所のアドバイザー的な立場から、分かりやすく説明してもらい、それによって、訴訟がスムーズに進行することが期待されています。

運用状況を見てみると、
平成30年度に既済になった第一審事件138,682件のうち、
専門委員の関与があったものは560件で、その内訳は以下のとおりでした。

建築請負代金等70件
建築瑕疵による損害賠償63件
医療行為による損害賠償57件
知的財産権に関する訴え6件
その他の訴え364件
司法統計年報第25表より

全体の約0.4%しか、専門委員の関与がないという計算になります。

しかし、裁いてもらう側にしたって、専門家が関与してくれたほうが、下された判断に信頼が置けるし、納得できますよね。
是非、制度を積極的に活用していただきたいものです。

(参考:司法制度改革推進本部パンフレット「より身近で、速くて頼りがいのある司法へ」、裁判所HP