六法全書クロニクル~改正史記~平成12年版

平成12年六法全書

平成12年版六法

 

この年の六法全書に新収録された法令に、
犯罪捜査のための通信傍受に関する法律(平成11年法律第137号)
があります。略称は「通信傍受法」です。
捜査手段としての通信傍受の要件、手続等について規定しています。

 

プライバシー侵害への懸念などから、成立までに激しい反対があったことは、
ご記憶にあるのではないでしょうか?

何となく危なそうな法律だとは思っているけど、詳しくは知らない・・・
という方のために、少し中身を見てみましょう。

 

まず、「通信」と「傍受」です。
傍受の対象となる「通信」とは、「電話その他の電気通信」をいい、電話(固定電話・携帯電話)だけでなく、電子メール、FAXも対象となります。
「傍受」とは、現に行われている他人間の通信について、その内容を知るため、当該通信の当事者のいずれの同意も得ないで、これを受けることです。

通信傍受による捜査が許容される犯罪は、通信傍受が必要不可欠な組織犯罪に限定されます。具体的には、法律制定当初は
・薬物関連犯罪
・銃器関連犯罪
・集団密航
・組織的殺人  の4類型に限定されていたところ、平成16年12月から、
殺人、傷害、放火、爆発物、窃盗、強盗、詐欺、誘拐、電子計算機使用詐欺・恐喝、児童売春などが追加されました。

通信傍受の手続としては、裁判官から発付される傍受令状に基づいておこなわれることになります(令状主義)。通信傍受を実施する根拠・必要性があるかどうか、裁判官によってチェックされる仕組みです。
捜査機関が通信傍受をおこなおうとする場合には、地方裁判所の裁判官に対して傍受令状を請求する必要があります。傍受令状の請求ができるのは、検事総長からの指定を受けた指定検事か、国家公安委員会等から指定を受けた警視以上の階級を有する警察官等に限定されています。(他の令状、例えば逮捕状では、これを請求できる警察官の階級は「警部以上」とされていますので、傍受令状については制限が厳しいといえます。)

請求を受けた裁判官は、請求を理由があると認めるときは、傍受令状を発付します。
傍受令状には、被疑者の氏名や、傍受すべき通信、傍受の実施の方法及び場所、傍受できる期間、傍受の実施に関する条件、有効期間等などが記載されます。
そして、この傍受令状を、通信事業者等に対して提示して、傍受を実施することになります。

傍受してよい通信は、傍受令状に記載された通信のみです。傍受実施中におこなわれた通信であっても、傍受令状に記載されていない内容は傍受してはならず、例えば、犯罪に関わらない家族からの電話等は傍受できません。

傍受した通信は、全て、記録媒体に記録しなければならず、検察官・司法警察員は傍受した通信内容を刑事手続において使用するための記録(傍受記録)を裁判官に提出しなければなりません。
また、傍受終了後、傍受された通信の当事者に対して、傍受したことを書面で通知しなければなりません。通知を受けた通信の当事者は、当該通信の記録の聴取・閲覧や複製をしたり、不服を申し立てたりすることができます。

このほか、通信の秘密の尊重が条文にうたわれていたり、
通信傍受の実施状況を国会に報告するとともに公表することが規定されているなど、
人権侵害が生じないよう、配慮された内容となっています。

 

ちなみに、警察庁HPによると、
2019年における通信傍受の状況は、傍受令状の発付は31件、通信手段の種類はいずれも携帯電話、逮捕人員は48人とのこと。

かなり謙抑的に運用されている印象です。
しかし、たとえ数は少なくても、通信傍受がなかったとしたら逮捕することができなかったケースが、確実にあったのだと思います。
効果的な武器ともなる反面、罪のない人の人権を侵害してしまうおそれもある。
まるで、鋭利な刃物のようだと思います。
使い方を間違えないよう、慎重に、しかし有効に使われるよう、注意深く見守っていく必要がありそうです。

 

◇ ◇ ◇

 

改正された法令として収録されたものに、
借地借家法(平成3年法律第90号)
があります。

借地借家法(しゃくちしゃっかほう)は、建物の所有を目的とする地上権・土地賃貸借と、建物の賃貸借について定めた法律です。
「しゃくちしゃくやほう」と呼ぶこともあります。
その立法趣旨は、一般的に弱い立場に置かれがちな土地や建物の賃借人(借地人、借家人、店子)の保護にあるとされています。

平成11年の改正では、
「定期建物賃貸借」(定期借家契約)の規定(38条)が新たに設けられました。
存続期間が終了すればそこで賃借権は完全に消滅し、契約を更新することはできないという、特別な建物の賃貸借です。

これは、建物の賃貸借に関して、賃借人の権利が強くなりすぎた(一度物件を貸すと、正当な事由がない限り立ち退いてもらえない)ために、家主が賃貸に消極的になってしまい優良物件の供給が阻害されているとの指摘があり、改正がなされたものです。

 

一般の借家契約との違いを見てみることにしましょう。

○契約方法
普通借家契約は、書面でも口頭でも締結が可能であり、その際、特段の説明をする義務等は貸主に課されていません。
一方、定期借家契約は、書面によらなければ締結できません。また、定期借家契約は、「更新がなく、期間満了により終了する」ことを、あらかじめ、契約書とは別に書面を交付して説明しなければなりません。

○賃料の増減
租税等の増減や経済事情の変動等があれば、貸主と借主は、賃料の増額や減額を請求できます。ただし、普通借家契約では、賃料を増額しない旨の特約をすることができます。
一方、定期借家契約では、賃料を増額しない旨だけでなく、減額しない旨の特約をすることもできます。

○契約の更新
普通借家契約では、当事者が、期間満了の1年前から6ヵ月前までの間に、相手方に対して「更新をしない」旨を通知しなかったときは、従前の契約と同一の条件で契約を更新したものとみなされます(賃貸借期間が1年以上の契約)。なお、貸主による更新しない旨の通知には、正当事由(家主がほかに住むところがなく貸している建物に住まなければならない場合など)が必要となります。
一方、定期借家契約では、更新はありません。賃貸借期間が1年以上の場合、貸主は、期間満了の1年前から6ヵ月前までの間に、借主に対して、期間満了により契約が終了することを通知しなければ、その終了を借主に対抗できません。(逆に言えば、通知さえすればよく、正当事由は必要ない。)

○1年未満の契約
普通借家契約では、1年未満の契約は、期間の定めのない契約とみなされます(各当事者はいつでも解約の申入れが可能で、借主による解約の申入れについては3ヵ月経過後に契約が終了しますが、貸主による解約の申入れについては6ヵ月の猶予期間がある上、正当事由が必要となります。)。
一方、定期借家契約では、1年未満の契約も可能です(期間の定めのない契約とみなされることはありません)。

○借主からの中途解約
普通借家契約では、(貸主からの中途解約は自由には行なえませんが、)借主からの中途解約は、それができる旨の特約があればその定めに従うことになります。
一方、定期借家契約は、特約がなくても借主からの中途解約が可能な場合があります。それ以外の場合は、特約があればその定めに従うことになります。

 

定期借家契約が満了したら、借主は必ず出ていかなければならないのかいうと、そうではありません。当事者双方が合意すれば、「再契約」という形でその建物の使用を続けることは可能です。
しかしあくまで、家主側の合意が必要であるため、必ず再契約できるわけではないことを承知しておく必要があります。これが、借主にとっての最大のデメリットと言えます。

ただ、そういったデメリットのために賃料が相場より安かったり、問題を起こす住民が長く居座り続けることができない仕組みであるため居住環境が良好に保たれやすいといったメリットもあると言われています。

「定期借家契約」は、全体の数パーセント程度だそうです。メリット・デメリットをきちんと把握した上で、賢く使い分けたいですね。