法律での「業界用語」

日々法律事務に携わる中で、

「これって法律分野での『業界用語』なのかな」
「この言葉の使い方は法曹界特有なのかも」

と思うことが多々あります。本当に沢山あります。

そんな「これはもしや…」について、
弁護士でもなく、法学部出身でもない、いちスタッフの目線から
数は少ないですがご紹介してみたいと思います。

  

①趣旨

 

筆者が一番初めに「法律っぽさ」を感じた言葉です。

弊所で勤務を始めたころ、
「これは○○という趣旨です」というように
「趣旨」という言葉が頻繁に使われているのが印象的でした。
そうやって使えばいいのか、便利だな、なんて思った記憶があります。

しかしその後、ドラマ「99.9 -刑事専門弁護士-」見ていた際

元裁判官だった人物が「趣旨」を使って話すのに対し
元同僚である裁判官が「癖が抜けていないね」といった言葉をかける、

という場面を見てハッとしました。
「趣旨」を使うのはやっぱり法曹界の人あるあるなのでは、と。

実際、「趣旨」を含む法律用語を多く目にします。
例えば「立証趣旨」。
裁判所に証拠を提出する際に作成する「証拠説明書」に記載するものですが、言葉のとおり、その証拠を使ってどのような事実を証明したいのかを記載します。
また、訴状に記載する「請求の趣旨」もあります。これはその訴えで求める結論を記載するものです。

こうして頻繁に読み書きしていると
便利な言葉だけに、ついつい使ってしまうのかもしれません。

 

②善意・悪意

 

これはご存知の方も多いのではないでしょうか。
法律用語としては、それぞれ以下のとおりの意味を持ちます。
善意:ある事実・事情を知らないこと
悪意:ある事実・事情を知っていること

よく使われるのは不動産関係などでしょうか。
「他人が所有者として登記されている土地なのに、それを知らずに何年も自分のものだと信じて、また自分のものとして使ってしまっていた…」
こういったケースはざっくり言うと「善意」となるようです。

本来の意味とは異なるため、違和感を感じざるをえませんが
民法がフランス法・ドイツ法の概念を取り入れている
という背景も大きく関係しているようです。

そもそも日本にない概念・文言を持ち込んだことから、
ぴったり一致する日本語がなかったのですね。

きっと、法律を学んでいる方からすれば
他にも違和感を感じる表現が多々あるのではないでしょうか。

 

③しかるべく

 

「しかるべき○○」のように、他の言葉と組み合わせて使うことはありますが
「しかるべく。」と一言で終わらせることって、なかなかないですよね。

しかし、法曹界ではそういった使い方があります。

裁判所からの問いに対する回答として使われますが、その意味は
「こちらは積極的に同意するわけではないが、裁判所の判断には従う」(weblio辞書)、「同意や異議なし」(goo辞書
などとなります。

裁判所の判断におまかせします、といったところでしょうか。

「ご意見ありますか?」「しかるべく、です。」
なんて感じで使われるみたいです。日常でも通じたら結構便利な気がします。

 

その他

 

以上にあげたほか、いくつか簡単にご紹介したいと思います。

【差し支え】
「仕事に差し支える」など、一般的には「支障が生じる」といった意味で使われますが、法曹界では日程調整の場面で使われるようです。
これはまさに「業界用語」ではないでしょうか。
弁護士が「その日は差し支えです」と言ったら、調整不可という意味なので、ぜひ違う日程を伝えてみてください。

【期日】
「締め切り」や「約束した日」をイメージすることが多いのではと思いますが、訴訟法においては「裁判所、当事者などの訴訟関係人が、裁判所に出頭するなどし裁判手続を進行させるために指定された時間」を指します(Wikipedia)。
よく「今日裁判がある」なんて言われることがありますが、「裁判」は、裁判所が法律を用いてトラブルを最終的に解決する手続自体を指しますので、裁判所に出頭することを言いたいのであれば、「期日」のほうがより適切かもしれません。
また、ニュースでよく耳にする「初公判があった」というのも、「1回目の公判期日があった」ということになります。
民事・刑事において期日に関するルール等はそれぞれ異なりますので、興味のある方はぜひ調べてみてください。

【郵券】
読んで字のごとく、「郵便切手」を意味します。裁判所にて訴訟を提起したり、申立をしたりする際は、決められた額の郵券をあらかじめ納めなければなりません。これを「予納郵券」などと呼びます(裁判所によって呼称は異なるようです)。
「郵券」は法曹界で生まれた言葉、というわけではなく、従来一般的に使われていたものがそのまま使われている、という状態のようです。郵便局の方ならわかってくれるかもしれませんね。
ちなみに、最近では郵券のかわりに現金で納付できる裁判所も増えています。

【被告】
こちらは個人的に最も戸惑った言葉です。
ニュースで「○○被告は…」と聞くと、何か事件を起こして捕まった人、というイメージがありますよね。しかし、実際は「被疑者」「被告人」などと呼ばれ、「被告」は民事裁判における当事者の呼称です。
被疑者は、犯罪の疑いをかけられて捜査対象となっている状態で、まだ起訴されていません。よくメディアでは「容疑者」と呼ばれますが、正しくは「被疑者」となります。その後、起訴された者は「被告人」と呼ばれます。
民事裁判において訴えを提起する者を「原告」といい、訴えを提起された者を「被告」と呼ぶのです。何だか「被告=犯罪者」のようなイメージを持たれてしまいそうですが、「被告」は単に原告の「相手方」にすぎません。

 

◇ ◇ ◇

 

以上、
駆け足ではありますが、法曹界でよく聞く言葉をご紹介しました。

どの職種においても「業界用語」的に使われる言葉は様々あると思います。
ご自身の職場ではいかがでしょうか?
他の職種では全く違う意味を持っている、なんてこともあるかもしれません。

弊所でも引き続き法曹界的業界用語をさがしてみたいと思います。

 
  

参考・引用:
Wikipedia
日弁連ホームページ
日弁連子どもページ
裁判所ホームページ
書籍「裁判官の爆笑お言葉集」長嶺超輝(幻冬舎新書)