商標についてのお話①

先日、茨城県水戸市のイベント会社が、徳川の家紋「葵の御紋」に似た紋様で商標登録を行い、既に「葵の御紋」で商標を登録している公益財団法人徳川ミュージアムが特許庁に異議を申し立てたというニュースを見かけました。以下ニュース記事引用です。

水戸徳川家の「葵の御紋」によく似た紋様を水戸市内のイベント会社が商標登録していることが分かった。水戸徳川家の15代当主が理事長を務める公益財団法人が特許庁に異議を申し立てていて、同庁が異議を認めるかどうか検討している。

特許庁の公開情報などによると、民俗芸能の企画・運営などをしている水戸市のイベント会社が昨年12月、お守りや日本酒、演芸などに使うとして、三つ葉葵の紋様を商標として登録した。

これに対し、15代当主徳川斉正さんが理事長の公益財団法人「徳川ミュージアム」(東京都)が今年3月、ミュージアムがすでに商標登録している紋様と酷似しているとして、特許庁に異議を申し立てた。葉の模様が多少異なる程度で、代理人を務める下坂スミ子弁理士は「こちらの使用にも影響が出かねず、見過ごすわけにはいかなかった」と話している。

特許庁は現在、異議を認めるかどうかの審理中だ。イベント会社は取材に対し「この件についてはコメントしない」と答えている。

(「「葵の御紋」そっくり、商標登録 徳川側、特許庁に異議」、朝日新聞デジタル、2016年11月5日更新、http://www.asahi.com/articles/ASJC44JJ2JC4UJHB01X.html、2016年11月11日引用)

確かに、両者の商標を比べてみると、とても良く似ているんですよね。これは助さん格さんにどうにかしてもらいましょう。

そもそも葵紋とは何だろうと思い、気になって調べてみました。以下、葵紋ついての記事を引用です。

三つ葉葵紋は、もともと徳川家のルーツである松平家の紋として使われていました。
松平家だけではなく、本多、酒井といった三河武士団の中にも葵紋は多く、本多家や酒井家が松平家よりも先に葵紋を使っていたのではないか、という説もあります。

そもそも葵紋は、京都の賀茂神社の神紋でした。

賀茂神社の神紋は徳川家のような三つ葉葵ではなく、葉が二枚の二葉葵ですが、葵紋の意匠の元になったフタバアオイは、その名の通り葉が二枚です。そのため、紋としては二葉葵が古く、そこから実在しない三つ葉葵が派生したと考えられています。

(「徳川家康の家紋 三つ葉葵はどんな意味を持つ紋所なのか?」、歴史のトリビアひすとりびあ、http://historivia.com/cat4/tokugawa-ieyasu/504/、2016年11月11日引用)

葵紋とは、フタバアオイがモチーフになっており、通常のフタバアオイの葉は2枚だそうで、3つの葉をもつフタバアオイは架空のものとのことです。徳川の家紋である葵紋は3つ葉なので、架空のものとのこと。

徳川時代には、葵紋は徳川家のみ(所説あるみたいですが)に使用が許され、あの有名なセリフ「この紋所が目に入らぬか」でおなじみであるように、葵紋を見ると悪党も退散していくほどの強い力をもっていたものが、現在では商標として登録されているんですね。

 

という訳で、今回は商標について書こうと思います。
商標の全体的な仕組みなどから、少しご説明いたします。

①商標とは

商標とは、「人の知覚によつて認識することができるもののうち、文字、図形、記号、立体的形状若しくは色彩又はこれらの結合、音」等をいいます(商標法2条1項柱書)。

パッと見て、このマークは〇〇社の商品だ!と分かるものがありますよね。それはおそらく商標として登録をされ使用されているものです。例えば、代表的な商標でいうと、不二家のペコちゃん。ケーキやお菓子などにペコちゃんのマークが記載されていたら、それは不二家の商品だと誰もが分かると思います。ペコちゃんは不二家の登録商標なので、しっかり商標の機能を果たしていますね。

商標の主な機能としては、次の(1)~(4)があり、商標が記載等されている商品購入の際に例えて各機能を少しご説明します。

(1)出所表示機能・・・商品がどこから発売されているか判断することができます。信頼している企業などからの販売商品であるか等を識別して購入することができます。

(2)自他商品識別機能・・・読んで字のごとく自社の商品と、他社の商品を識別することができます。誤って、購入するはずでなかった商品を購入してしまうことなどを防ぎます。

(3)品質保証機能・・・商品がどのような品質かを認識することができます。例えば、何年も同じ品質で販売されている商品は、商標によってその品質を把握することができますね。

(4)宣伝広告機能・・・商標そのものを使用して商品を宣伝・広告をすることもできますし、商標を使用しつづけることにより、商標が世間に浸透され、商品の宣伝・広告などにつながることも期待できます。

②商標の区分

商標には区分というものがあります。この区分とは、1つの商標権で権利が保護される商品・役務のグループをいい、世界共通の国際分類によって分けられています。
区分は1類~45類まであり、1類~34類までが商品についてのグループ・35類~45類までが役務のグループとなっています。
※1つの区分で商標を登録すればすべての区分で権利が保護されるわけではないのです。

④商標の区分表

区分は以下の表のとおりに分けられており、自分が取得したい商標の区分で申請を行う必要があります。例えば、コーヒー(缶コーヒーやペットボトルなどの商品)で商標を取得したい場合には、32類となります。お菓子やケーキに印字されているペコちゃんは、30類での登録商標という訳です。

区分 指定商品例 区分 指定商品例
1類 工業用、科学用又は農業用の化学品 他 18類 革及びその模造品、旅行用品並びに馬具 他
2類 塗料、着色料及び腐食の防止用の調整品 他 19類 金属製でない建築材料 他
3類 洗浄剤及び化粧品 他 20類 家具及びプラスチック製品であって他の類に属しないもの 他
4類 工業用油、工業用油脂、燃料及び光剤 他 21類 家庭用又は台所用の手動式の器具、化粧用具、ガラス製品及び磁器製品 他
5類 薬剤 他 22類 ロープ製品、帆布製品、詰物用の材料及び織物用の原料繊維 他
6類 卑金属及びその製品 他 23類 織物用の糸 他
7類 加工機械、原動機(陸上の乗物用のものを除く。)その他の機械 他 24類 織物及び家庭用の織物製カバ 他
8類 手動工具 他 25類 被服及び履物 他
9類 科学用、航海用、測量用、写真用の機械器具 他 26類 裁縫用品 他
10類 医療用機械器具及び医療用品 他 27類 床敷物及び織物製でない壁掛け 他
11類 照明用、加熱用、蒸気発生用、調理用の装置 他 28類 がん具、遊戯用具及び運動用具 他
12類 乗物その他移動用の装置 他 29類 動物性の食品及び加工した野菜その他の食用園芸作物 他
13類 火器及び火工品 他 30類 加工した植物性の食品(他の類に属するものを除く。)及び調味料 他
14類 貴金属、貴金属製品であって他の類に属しないもの、宝飾品及び時計 他 31類 加工していない陸産物、生きている動植物及び飼料 他
15類 楽器 他 32類 アルコールを含有しない飲料及びビール 他
16類 紙、紙製品及び事務用品 他 33類 ビールを除くアルコール飲料 他
17類 電気絶縁用、断熱用又は防音用の材料及び材料用のプラスチック 他 34類 たばこ、喫煙用具及びマッチ 他
 区分 指定役務例 区分 指定役務
35類 広告、事業の管理又は運営、事務処理及び小売又は卸売の業務において行われる顧客に対する便益の提供 他 41類 教育、訓練、娯楽、スポーツ及び文化活動 他
36類 金融、保険及び不動産の取引 他 42類 科学技術又は産業に関する調査研究及び設計並びに電子計算機又はソフトウ ェアの設計及び開発 他
37類 建設、設置工事及び修理 他 43類 飲食物の提供及び宿泊施設の提供 他
38類 電気通信 他 44類 医療、動物の治療、人又は動物に関する衛生及び美容並びに農業、園芸又は林 業に係る役務 他
39類 輸送、こん包及び保管並びに旅行の手配 他 45類 冠婚葬祭に係る役務その他の個人の需要に応じて提供する役務(他の類に属す るものを除く。)、警備及び法律事務 他
40類 物品の加工その他の処理 他

④指定商品・役務

区分の中の小さいカテゴリーとして、指定商品・役務というものがあります。出願する区分で、さらにどのような内容・範囲なのかをより明確に把握できるようにするため、具体化して記載しなければならない(商標法6条1項)と決められています。この指定商品・役務は比較的自由に記述することができ、例えば、先ほど区分の例として挙げましたコーヒーの商標では実際に以下のような指定商品名で登録がされております。

<区分> <指定商品>
32類 コーヒー入りの清涼飲料
(アルコールを含有しない飲料及びビール) エスプレッソコーヒー入りの清涼飲料
コーヒー風味の清涼飲料
コーヒーを加味した豆乳飲料

                    

区分のみですと、「アルコールを含有しない飲料及びビール」などのざっくりとした内容・範囲しか分からないので、指定商品で具体的に絞り込んでいます。

指定商品・役務の記述方法をどうのようにすべきが分からない場合には、特許庁のJ-PlatPat(特許情報プラットフォーム)にて、出願したい商品や役務と類似したものを検索して、実際に他者がどのような指定商品・役務で登録を行っているか参考にしてみてもよいと思います。

⑤区分/指定商品・役務に関する出願時の注意点

②~④でご説明いたしました、区分、指定商品・役務に関する出願時の注意点として実際に以下のようなことがございました。商標の取得検討段階で気に留めておくと良いと思います。

●出願時に、「指定商品・役務」(類似コード)で8つ以上指定すると、(区分が一つでも複数でも同じ)事業計画書等の提出が求められることがあります。日本の商標法では、商標登録で「使用する意思」が求められるので、多くの区分で商標を指定しようとすると、使用する意思がないだろう、と思われるためです(事業計画書等を作って出せば、登録はできなくはないです。)。

 

今回は、商標の登録を検討するにあたり、どのような区分、指定商品・役務で出願を行えばよいかということについてご説明いたしました。

では、この区分や指定商品・役務で正しく記載をして特許庁に出願すれば、どんな場合でも商標の登録を行うことができるかというと、そういった訳ではありません。
登録をしたいロゴやマークが、既に別の会社などで登録がされてしまった場合、またはそもそも登録を行うことができないロゴやマークなどで商標の出願を行ってしまっていた場合などには、登録を行うことがでません。

具体的にどのような場合に登録を行うことができないのか、また出願の方法や手数料などについては次の記事で書きたいと思います。

 

次回 出願しても登録にならない商標~出願

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