企業法・授業まとめ-第5回-

 

【利益相反取引から】
会社と取締役が直接取引をすることは、会社と取締役の利益衝突のもっとも単純な場面とされる。
例:取締役が自分の持っている車を会社に売りたい、又は会社から買いたい
→こうした行為は、良いことも悪いこともある。
『持っている車を安く売ってあげるよ、今会社のお金使っている場合じゃないでしょ?』といった場合だと当然会社にとっては良いことだし、一律に禁止することはできない。
しかし、取締役が決定できることでもあるので、自身が儲かるような内容で取引することも可能になってしまう。そうした良くないことができてしまう状況は規制しておきましょう、となっている。

⇩どういった規制の仕方をしているかというと…

会社法35623号(競業及び利益相反取引の制限)
「取締役は、次に掲げる場合には、株主総会において、当該取引につき重要な事実を開示し、その承認を受けなければならない。
取締役が自己又は第三者のために株式会社と取引をしようとするとき
③株式会社が取締役の債務を保証することその他取締役以外の者との間において株式会社と当該取締役との利益が相反する取引をしようとするとき。」
会社法3651項(競業及び取締役会設置会社との取引等の制限)
「取締役会設置会社における第356条の規定の適用については、同条第1項中「株主総会」とあるのは、「取締役会」とする。」

→読み替えて下さいね、ということ。
※ただし、利益相反取引が必要な場合もあるので、一律禁止ではなく、承認を必要とした。

 

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【利益相反から(直接取引・間接取引】
・直接取引と間接取引という関係。
「ために」の意義、名義説・計算説
自己の名義をしておこなうか、自分の計算(利益が帰属)でおこなうか。
→通説は「名で」。 ※現在はほとんど意味がない。

・取締役会設置会社では、取締役会の承認が必要
重要な事実を開示して承認を受ける(356条1項)
※取締役会がその取引を承認すべきかどうかを判断する前提となる情報を与えるため。情報が与えられていれば、包括承認も可能。

特別利害関係取締役は決議に加われない(369条2項)。
「前項の決議(※取締役会の決議)について特別の利害関係を有する取締役は、議決に加わることができない。」

最高裁判所昭和43年12月25日大法廷判決
〔判決文〕
「商法265条は、取締役個人と株式会社との利害相反する場合において、取締役個人の利益を図り、会社に不利益な行為が濫りに行なわれることを防止しようとする法意に外ならないのであるから、同条にいわゆる取引中には、取締役と会社との間に直接成立すべき利益相反の行為のみならず、取締役個人の債務につき、その取締役が会社を代表して、債権者に対し債務引受をなすが如き、取締役個人に利益にして、会社に不利益を及ぼす行為も、取締役の自己のためにする取引として、これに包含されるものと解すべきである(当裁判所第三小法廷判決昭和38年(オ)第261号、同39年3月24日裁判集72号619頁の趣旨は、右の限度で、変更されたものというべきである。取締役と会社との間に直接成立すべき利益相反する取引にあつては、会社は、当該取締役に対して、取締役会の承認を受けなかつたことを理由として、その行為の無効を主張し得ることは、前述のとおり当然であるが、会社以外の第三者と取締役が会社を代表して自己のためにした取引については、取引の安全の見地より、善意の第三者を保護する必要があるから、会社は、その取引について取締役会の承認を受けなかつたことのほか、相手方である第三者が悪意(その旨を知つていること)であることを主張し、立証して始めて、その無効をその相手方である第三者に主張し得るものと解するのが相当である。」

※ちなみに…
日本は法治国家で、法律以外にも政令など様々なルールがあるが、法律と並ぶくらい重要なルールというのが「最高裁の判例」。裁判所は地方・高等・簡易・家庭など様々あるが、一番上に君臨するのが最高裁判所になる。その中で更に上の決定機関であるのが「大法廷」といわれるところ。ここで決めたことがルールになる。
最高裁には裁判官が15人いて、5人ずつ第一~第三小法廷を構成し、それぞれの小法廷で様々な判決を出す(いずれも平等で同じだけの価値がある。)。小法廷において「こうすべき」と定められた、決して変わらないルールを唯一変更できるのが、大法廷なのである。
↑この判決に「当裁判所第三小法廷判決…」とあるが、これは以前小法廷で判決が出たにも関わらず、大法廷で変更されたということ。
日本で裁判は年間10万件ほどあるが、大法廷は年に数回程度も開かれない。
↑これも滅多にないケース。

 

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【承認を要しない利益相反取引(1)】
形式的には利益相反取引に該当するが、それでも承認を受けなくても良い取引は何か?
Q.会社にお金を貸すのは?(お金を貸すだけなら会社は得?)
会社がコンビニの場合、物を買うのは?銀行から利息を受け取るのは?誰かから物を貰うのは?

※利益相反取引について色々述べているが、会社法の条文上は一律禁止している。禁止しているものの、おこなってしまった場合、「それくらいだったら承認とってなくてもいいんじゃないの?」という例外を最高裁が何件か出している。

⇩では、どのような場合に「それは利益相反行為にあたらない」とされるのか。

最高裁判所昭和38年12月6日
〔判決文〕
「原判決は、第一審判決理由を引用して、上告人が被上告人に対し原判示(1)ないし(7)の金員を弁済期は貸付の日から一ヶ月以内とする定めで貸付けたこと、右(5)ないし(7)の消費貸借は上告人が被上告会社の取締役に在任中になされたことを確定した上、右消費貸借は被上告会社の取締役会の承諾をえた形跡が認められないから商法265条の規定に違反して無効である旨判断している。しかし、もし右消費貸借がいずれも無利息、無担保の約定であるならば、前述のとおり被上告会社の取締役会の承認を要しないものというべきところ、上告人が原審に於て右趣旨の主張をしているに拘らず右約定の有無について何ら判示することなくして、直ちに右消費貸借は被上告会社の取締役会の承諾をえていないから無効であるとした原判決は、所論のとおり商法265条の解釈適用を誤つたものというべく、右違法は判決に影響を及ぼすこと明らかであるといわなければならない。論旨は理由があり、原判決は破棄を免れない。
よつて、前記(5)ないし(7)の各消費貸借につき無利息、無担保の約定の有無についてさらに審理せしめるため本件を原裁判所に差戻すのを相当と認め、民訴407条1項に従い、裁判官全員の一致で、主文のとおり判決する。」

→利息を取らずお金を貸すのは、会社に損害が生じることがないから、それぐらいはいいんじゃないのか、という例外を認めた判例。

 

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【承認を要しない利益相反取引(2)】
形式的には利益相反取引に該当するが、それでも承認を受けなくても良い取引は何か?
Q.会社の株主構成によって違いはあるか?

最高裁判所昭和45年8月20日>※個人会社
〔判決文〕
「原審の確定した右事実関係のもとにおいては、本件売買契約締結当時には、被上告会社は株式会社の形態をとつているとはいえ、その営業は実質上、上告人Aの個人経営のものにすぎないから、被上告会社の利害得失は実質的には上告人Aの利害得失となるものであり、その間に利害相反する関係はない。したがつて、上告人Aがその所有の本件土地を被上告会社に売り渡すことについて、両者の間に実質的に利害相反の関係を生じるものではないというべきである。
ところで、商法265条が、会社と取締役との間の同条所定の取引について取締役会の承認を要するものとしている趣旨は、取締役個人と株式会社との利害相反する場合において取締役個人の利益を図り、会社に不利益な行為が行なわれることを防止するにあるのであるから、会社と取締役間に商法265条所定の取引がなされた場合でも、前段説示のように、実質的に会社と当該取締役との間に利害相反する関係がないときには、同条所定の取締役会の承認は必要ないものと解するのが相当である。したがつて、被上告会社とその取締役であつた上告人Aとの間になされた本件売買契約は、被上告会社取締役会の承認の有無によつてその効力が左右されるべきものではないから、原審の確定した取締役会の事後承認の効力の有無を争う論旨は、帰するところ原審のした余論に対する攻撃にすぎず、採用することができない。」

→個人会社であるから、会社の損害=自身の損害になる。だから良いのでは?というのがこの判決。
※この判決は、「法人格否認の法理」を使って、会社の法人格というものを避けて通ろうとした。法人格を認める意義は“その人格を持ったところに権利義務を帰属させること
”であるのに、「法人格を作ってその会社に権利義務を全て帰属させるなんて言っているけれども、実際個人会社で、個人でやっているに等しいのだから、法人格は無視して個人に責任をとらせてOKなのでは?」というのが、この時の裁判所の判断。でも、このような判決は、極端な場合以外は、積極的にされないのでは…?というのが個人的意見。(このような判断を認めてしまっては、法人格を認める意味がなくなってしまうので…)

法人格否認の法理:
法人学説の一つ。特定事業の法的処理において,会社としての存在を認めつつ,会社の独立した法人格(→権利能力)をないものと同様に扱い,結局,会社の支配社員を会社と同一視することをいう。法人格の付与が準則主義によって形式的に行なわれるなかで,法人の利用が本来の目的に反する場合に,法人格を否認するものとして考えられている。アメリカ合衆国の判例によって確立したものであるが,日本においても判例によって採用されている。
コトバンクより)

最高裁判所昭和49年9月26日>※株主全員合意
〔判決文〕
「1 原判決は、日本毛糸及び被上告人会社は、いずれも形式的には株式会社であるが、その実質は民法上の組合であるから、右株式譲渡には商法265条、204条2項の適用はない旨判示する。すなわち、原審は、日本毛糸は、Aが個人として営んでいた毛糸、洋服、雑貨等の販売業をその弟等同族4名の参加を得て会社組織にし、右5名において、その資産、株式を所有し、共同して経営しているものであり、また被上告人会社は、右5名が、日本毛糸の簿外資産の分散、保全、増殖のため、右資産をもつて設立したものであり、第三者も株主なつてはいるが、それは単なる名義人にすぎず、実質は、右5名において株式、資産を所有し、共同経営しているものであると認め、右のような会社設立の経緯、会社の資産、株式の所有関係及び経営の実体等によると、日本毛糸及び被上告人会社は、いずれも実質においては右五者の共同事業であつて、民法上の組合に外ならないと判断しているのである。
思うに、法律上会社はすべて法人とされているところ、その法人格が全くの形骸にすぎない場合、またはそれが法律の適用を回避するため濫用される場合のように、法人格を認めることがその本来の目的に照らして許されるべきでないときには法人格を否認することのできることは、当裁判所の判例昭和43年(オ)第877号同44年2月27日第一小法廷判決民集23巻2号511頁)とするところであるが、右法理の適用は慎重にされるべきであつて、原審認定の会社の設立の経緯、株式、資産の所有関係、経営の実体等前記事実によつて直ちに前記各会社の法人格を否認し、これを民法上の組合であるとした原審の判断は、にわかに首肯することはできない
2 しかしながら、商法265条が取締役と会社との取引につき取締役会の承認を要する旨を定めている趣旨は、取締役がその地位を利用して会社と取引をし、自己又は第三者の利益をはかり、会社ひいて株主に不測の損害を蒙らせることを防止することにあると解されるところ、原審の適法に確定したところによると、日本毛糸から上告人への株式の譲渡は、日本毛糸の実質上の株主の全員であるAら前記5名の合意によつてなされたものというのであるから、このように株主全員の合意がある以上、別に取締役会の承認を要しないことは、上述のように会社の利益保護を目的とする商法265条の立法趣旨に照らし当然であつて、右譲渡の効力を否定することは許されないものといわなければならない。
3 また、被上告人会社の株券は未発行であるから、前記各株式の譲渡は商法204条2項にいう株券発行前の譲渡にあたるが、原審認定の事実関係のもとにおいては、同社は不当に株券の発行を遅滞しているものと認められるから、株券発行前であることを理由に株式譲渡の効力を否定することは許されないものというべきである(最高裁昭和39年(オ)第883号、同47年11月8日大法廷判決民集26巻9号1489頁参照)。
4  以上によると、日本毛糸及び被上告人会社を民法上の組合とした原審の判断は是認することができないが、本件各株式の譲渡を有効とし、これにより上告人が被上告人会社の株主たる地位を喪失したものと認め同人には本訴の原告適格がなく、本訴は不適法であるとした原判決の結論は正当である。それゆえ、論旨は採用することができない。」

参考:法人格否認の法理、個別の判断、最高裁が判断するもの、訴訟の具体的事件必要

…以上のような判決がある一方、同様の場合でもダメだと判断された場合、最終的にどのような処理をしていけば良いのか?
⇩   ⇩   ⇩

【利益相反取引について承認を得なかった場合】
Q.行為自体はおこなってしまっている。
承認を受けなかった取引の効力は結局どうなるのか?

最高裁判所昭和43年12月25日
〔判決文〕
「取締役と会社との間に直接成立すべき利益相反する取引にあつては、会社は、当該取締役に対して、取締役会の承認を受けなかつたことを理由として、その行為の無効を主張し得ることは、前述のとおり当然であるが、会社以外の第三者と取締役が会社を代表して自己のためにした取引については、取引の安全の見地より、善意の第三者を保護する必要があるから、会社は、その取引について取締役会の承認を受けなかつたことのほか、相手方である第三者が悪意(その旨を知つていること)であることを主張し、立証して始めて、その無効をその相手方である第三者に主張し得るものと解するのが相当である。」

参考:「取引安全の見地」とは何か?

利益相反取引は一律禁止しているが、会社に損害が生じる可能性がない取引の場合は承認不要でよい、とか、取締役会で承認が通らなくても株主全員の承認を得ればOK、とか、取引の相手方が承認を得ていると思っていた・得ていないことを知らなかったらやっぱり有効になる、というのが最高裁の判断で、最終的に有効になることが多い。

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