企業法・授業まとめ-第8回-

M&Aの手法(事業の取得方法)

M&Aについて様々なスキームや手法を紹介していくが、
会社法等において何か正確な定義が為されているわけではない。

企業買収・結合に関して正確な定義はないが、とてもザックリ言うと
「どこかの会社がどこかの会社の傘下に入ること、買うこと」をM&Aという。
ゆえに、業務提携や資本提携など
「今後パートナーシップを組んで一緒にやっていきましょう!」
程度のことは、あまりM&Aとは言わない。

以下の「株式取得」にもあるが、「支配下に置く」というのがポイント。
特定の会社を支配下に置き、自分の会社の事業・業務としてやってもらうための手続きがM&A、というように何となく定義がされている。
→例えば、ソニーが映画会社を買ったのも、
映画会社自体を買うことが目的ではなく、映画の事業を買うことが目的。
だが、会社という入れ物ごと買ってしまえば、中の事業もついてくる。
入れ物ごと買うか、中身だけ買うか、で大きく分かれる。

M&Aの手法として主に以下の方法がある。

①株式取得(前回までの講義)
※対象会社をそのまま支配下におくためには簡便な方法。手続きも容易(株主名簿の書換だけ、代理人不要)。
(株式取得は公開市場からの買い付けが可能なため敵対的に行うことが可能)
※第三者割当増資(株式引受け、登記必要)は会社の承諾(総会決議等)が必要なので、敵対的には行えない。②合併、会社分割、株式交換・株式移転
会社という法人格の入れ物自体の変動(組織法的行為)。
※株式交換等も組織法的行為。③事業譲渡
会社の中身の事業の移動(通常の取引行為、民法債権譲渡)。

※②③はいずれも相手方の同意が必要なので、敵対的に行われることはない。

①と②の手法は、入れ物ごと買うケース。
①については前回説明したが、
「ある会社の株式を手に入れたい、買いたい」という場合は以下の2通り。

・既に持っている人から譲ってもらう(株式譲渡)
・会社から新しく発行してもらう(増資・第三者割当増資)
「株を買う」という手続きも、M&Aの一つの方法なのである。

②については、後ほど詳しく。
(この言葉だけ頭の片隅に置いておこう!)

③は、会社の中身だけ買ってくるケース。

今のところは、
「M&Aの手法は大きくわけて3つ」ということをおさえておけばOK。
このうち「株式取得」は、相手(会社)の同意なくおこなうことができる。
∵「株式譲渡自由の原則」があるので、基本的に会社の承認が不要。
このように、相手の同意なく株式を買い占めることができると
敵対的買収」という言葉が出てくる。

 

 

 

M&Aの一つとして「株式」を取得する方法

  • 流通市場(証券取引所)における買い入れ
  • 公開買付け(TOB)※
  • 相対取引による取得
  • 第三者割り当てによる取得(増資、登記が必要)
  • 株式交換による取得等(組織法的行為、登記をする)※

(※:相手方の同意不要)

⇒株式取得、自由に買える、といっても自由に買えない会社は多くある。
自由に買うことのできる会社の一番典型的な例は、上場会社。
上場会社の株式は、基本誰でも自由に買える。それが上場会社の上場たる所以。
しかし、一定以上の株をまとめて買う場合には、公開買付け(TOB)という規制が課されている。
企業買収にあたって市場から大量の株を買い付けるわけだが、
それもうまくいったりいかなかったり…

⇩何が言いたいかというと

自由に会社を買うことができる&同意なしで会社を買えるならば、
お金にモノを言わせて成功している事例が多い?

…と思いきや、うまくかないことのほうが多い。
敵対的TOBや、証券市場から株式を買い占める、という話ではなかなかうまくいかないようである。(次項の参考記事も確認されたい)

 

 

 

公開買付け(TOB)Tender-offers, Takeover bids

流通市場外において、ターゲットになる会社(被買収会社)の株主に対して直接的に一定期間内に、一定価格で、一定数の株式を買い付ける旨を募集・公告し、それに応募してきた株主からは株式を買い取る方法。

株式が大量に流通している場合に効果的。上場会社がターゲットに。

※なぜ、公開買付けの手続き等は金融商品取引法の規制を受けるのか。

金融商品取引法27条の2、1項1号2号
(発行者以外の者による株券等の公開買い付け)
「その株券、新株予約権付社債券その他の有価証券で政令で定めるもの(以下、「株券等」という。)について有価証券報告書を提出しなければならない発行者又は特定上場有価証券(流通状況がこれに準ずるものとして政令で定めるものを含み、株券等に限る。)の発行者の株券等につき、当該発行者以外の者が行う買付け等(株券等の買付けその他の有償の譲受けをいい、これに類するものとして政令で定めるものを含む。以下この節において同じ。)であつて次のいずれかに該当するものは、公開買付けによらなければならない。ただし、適用除外買付け等(新株予約権(会社法第277条 の規定により割り当てられるものであつて、当該新株予約権が行使されることが確保されることにより公開買付けによらないで取得されても投資者の保護のため支障を生ずることがないと認められるものとして内閣府令で定めるものを除く。以下この項において同じ。)を有する者が当該新株予約権を行使することにより行う株券等の買付け等、株券等の買付け等を行う者がその者の特別関係者(第7項第1号に掲げる者のうち内閣府令で定めるものに限る。)から行う株券等の買付け等その他政令で定める株券等の買付け等をいう。第4号において同じ。)は、この限りでない。
① 取引所金融商品市場外における株券等の買付け等(取引所金融商品市場における有価証券の売買等に準ずるものとして政令で定める取引による株券等の買付け等及び著しく少数の者から買付け等を行うものとして政令で定める場合における株券等の買付け等を除く。)の後におけるその者の所有(これに準ずるものとして政令で定める場合を含む。以下この節において同じ。)に係る株券等の株券等所有割合(その者に特別関係者(第7項第1号に掲げる者については、内閣府令で定める者を除く。)がある場合にあつては、その株券等所有割合を加算したもの。以下この項において同じ。)が100分の5を超える場合における当該株券等の買付け等
② 取引所金融商品市場外における株券等の買付け等(取引所金融商品市場における有価証券の売買等に準ずるものとして政令で定める取引による株券等の買付け等を除く。第4号において同じ。)であつて著しく少数の者から株券等の買付け等を行うものとして政令で定める場合における株券等の買付け等の後におけるその者の所有に係る株券等の株券等所有割合が3分の1を超える場合における当該株券等の買付け等」

公開買付けは、あらかじめ公開買付開始公告で定めた買付予定数の限度で買い付けることもできるが(部分的公開買付け)、買付け後の買付者の株式保有割合が3分の2以上になる場合には、全株式の買付け義務が課せられる。

∵3分の2以上の議決権を持った場合には、特別決議が可能、
少数株主に不利な決議もすることができてしまう。

金商法によって、情報開示を強制(買付者による公開買付開始公告、公開買付開始届出書、ターゲット会社の経営者の意見表明書(買付者に一定の事項の質問が可能))、不公正な行為を禁止(虚偽の開示の禁止、内部者取引禁止等)している。
また、公開買付けは、友好的な買収(ターゲット会社の経営者の協力がある買収)の場合も行われるが、敵対的買収が行われることもある。

参考記事:
敵対的TOB4年ぶり成立 株安が駆り立てる決断
(2011/9/19 日本経済新聞 電子版)

PGMのTBO不成立 アコーディア株応募20%に届かず
(2013/1/18 日本経済新聞 電子版)

「きのこの乱」が示す道 日本のM&A、一歩前進
(2015/2/28 日本経済新聞 電子版)
→日本では敵対的買収のほとんどが失敗におわっている。
記事より引用の下記表を参照。

買収者 対象企業
1985 ミネベア 三協精機製作所
1987 秀和 忠実屋・いなげや
ピケンズ氏 小糸製作所
2000 村上世彰氏 昭栄
2003 スティール ユシロ化学
2005 ライブドア ニッポン放送
楽天 TBS
村上世彰氏 阪神電気鉄道
2006 ドン・キホーテ オリジン東秀
王子製紙 北越製紙
スティール 明星食品
2007 スティール ブルドック
2012 PGM アコーディア

(注:主な事例、社名は当時)

企業統治、TOB合戦を左右 富士通「合理性」重視で撤退
(2017/5/25 日本経済新聞 電子版)
→そんなに有名ではないが、敵対的買収を阻止しようとしたのに
最終的に敵対的買収が成功してしまった例。

スクエニHD、名誉会長の資産管理会社から自社株取得300万株
(2017/5/24 日本経済新聞 電子版)

⇒このように、色々な会社で企業買収がおこなわれている。
もし敵対的買収でどこかの会社を手に入れたいと思ったら上場会社しかできないし、上場会社を敵対的買収するとしても様々なハードルがある。

以上が、ざっくりではあるが株式の取得・株式の譲渡で会社を取得するケース。
実際の株式譲渡においては、株式譲渡の回で触れた内容が具体的な手続きとして必要になってくる。

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