六法全書クロニクル ~改正史記~ 平成23年版

六法全書 平成23年版

この年の六法全書に新収録された法令に、

公共建築物等における木材の利用の促進に関する法律(平成22年法律第36号)

があります。

そう言われてみれば…
最近、新築の木を使った建築物をよく見かける気が(公共建築物に限らず)。

例えば、建築家・隈研吾氏が手掛けた新国立競技場では、
木材と鉄骨のハイブリッド構造の屋根となっていたり
47都道府県それぞれの地域で生まれた「杉」を使用していたりします。

建築界の流行かと思っていたら、なんと、国が主導していたんですね。

日本では、木材価格の下落の影響などで森林の手入れが十分に行われず、国土保全などの森林の機能の低下が懸念される事態となっていて、木を使うことにより、森を育て、林業の再生を図ることが急務となっていました。

この法律は、こうした状況を踏まえ、木造率が低く(平成20年度7.5%床面積ベース)今後の需要が期待できる公共建築物にターゲットを絞って、国が率先して木材利用に取り組むとともに、地方公共団体や民間事業者にも国の方針に即して主体的な取組を促し、住宅など一般建築物への波及効果を含め、木材全体の需要を拡大することをねらいとしています。

条文を見てみると、まず第1条で、

この法律は、木材の利用を促進することが

○地球温暖化の防止、

○循環型社会の形成、

○森林の有する国土の保全、水源のかん養その他の多面的機能の発揮

及び

○山村その他の地域の経済の活性化に貢献すること

等にかんがみ、(中略)森林の適正な整備及び木材の自給率の向上に寄与することを目的とする。

と、木材利用の効用について述べています。

専門的なことは分かりませんが、
物理的強度や経済性だけを比べたら、木材以外の素材に軍配が上がるのかもしれないけれど、ここに掲げられているような、もっと大きな視点で問題をとらえてみたら、木材を使用すべきという違った答えにたどり着くのかもしれません。

未曽有の緊急事態の真っただ中にある今、平時から
地球温暖化だったり、持続可能な社会だったり、国土の保全だったり、
そういった、今はまだ何とかなっているけれど、いつか危機的な状況に陥ることが想定される問題に、きちんと向き合って手を打っておくという視点が必要であると、強く思います。

そうなってしまってからではどうしようもない、ってこと、ありますよね。

目の前の問題だけにとらわれない「大きな視点」、
忘れないようにしたいと思います。

 

~~~

 

改正された法令として収録されたものとしては、

雇用保険法(昭和49年法律第116号)

があります。

この年の改正で、
短時間就労者や派遣労働者の雇用保険の適用範囲が拡大されました。

具体的には、それまでは、

【旧法】
○6ヶ月以上の雇用見込みがあること
○1週間の所定労働時間が20時間以上であること

という要件に該当しないと雇用保険が適用されなかったのが、

【新法】
○31日以上の雇用見込みがあること
○1週間の所定労働時間が20時間以上であること

という要件に該当すれば、雇用保険が適用されることとなりました。

この改正により、約221万人が新たに雇用保険に加入したと試算されています。(※平成22年7月~平成23年6月の1年間に新たに加入した方に関する試算)

 

そもそも、雇用保険とはどんな保険でしょうか?

雇用保険は、国の社会保険制度の一つで
労働者の生活及び雇用の安定と就職の促進
を目的に、さまざまな保障を受けることができます。

最もよく知られているのは、失業時に給付される「基本手当」で、
(失業保険という通称で呼ばれることも)
給付額は、過去6か月間の給与や年齢、勤続年数などから算出され、給付時期や日数は、退職理由が自己都合であるか会社都合であるかによって異なります。

ですが、それだけにとどまりません。

就職促進給付
失業保険を受給している人が再就職をした時に支給

教育訓練給付金
厚生労働大臣が指定する教育訓練を受講・終了した時に支給

雇用継続給付
育児休業や介護休業で仕事を休んだ際に支給

高年齢雇用継続給付金
60歳到達時と比較して賃金が75%未満となった場合、手取額の低下を抑えることを目的に給付金を支給(シニア向け)

以上のように、労働者を守ろうとする制度は様々あり
それぞれの事情に合った手当を受け取ることができるのです。
そして、今回の新型コロナウイルスにより期待を集めている制度があります。

それは「雇用調整助成金」制度です。

雇用調整助成金とは、
経済上の理由により事業活動の縮小を余儀なくされた事業主が、労働者に対して一時的に休業、教育訓練又は出向をおこない、労働者の雇用の維持を図った場合に、休業手当・賃金等の一部を助成する、というものです。

今回、新型コロナウイルス感染症の影響を受ける事業主に対しては、助成率を引上げ・上乗せしたり、要件が緩和されたりする特例が設けられました。

例えば、新型コロナウイルス感染症の影響を受ける事業主で、かつ、解雇等をしていないなどの要件を満たす事業主には、中小企業で9/10(通常は2/3)、大企業で3/4(通常は1/2)の助成率となるそうです。

助かりますね!

ただ、報道によれば、2月14日以降、相談件数はおよそ20万件で
実際に申請された数はおよそ2500件、
このうち支給が決まったのはわずか282件とのこと。

制度があるということと、ちゃんと機能しているということはまったく別物です。こんな状態では、「絵に描いた餅」でしかないですよね。
困難な時代ですが、本当に必要なところに、必要な援助が届くよう、マンパワーを投入してもらいたいものです。

なお、特例措置については、更なる拡充が予定されていて、5月上旬目途に発表予定とのこと。今後の動きに要注目です。

(参考:厚生労働省HP

六法全書クロニクル ~改正史記~ 平成25年版

六法全書 平成25年版

この年の六法全書に新収録された法令に、最近俄然注目を浴びている、
新型インフルエンザ等対策特別措置法(平成24年法律第31号)があります。

(各種報道等で何度も取り上げられ、いい加減食傷気味かもしれませんが、
やはり知っておく必要がある法律だと思いますので、あえて取り上げさせていただきます。)

2009年(平成21年)にH1N1亜型インフルエンザウイルスが世界的に流行した際(※)、対応が混乱したことを踏まえ、法的根拠をもって確固たる対策が可能となるように、ということで誕生した法律です。

(※豚の間で流行っていた豚インフルエンザのウイルスがヒトに感染するようになったことに起因するとされています。「豚インフルエンザ」と聞くと、ああ、そんなこともあったな、と思い当たる方も多いのでは?)

 

この法律には、新型インフルエンザ等に対する平時の備えと、
緊急時の措置に関する規定が置かれています。

平時の備えとしては、政府・都道府県知事・市町村長それぞれに、
行動計画を定めること、
物資の備蓄をおこなうこと、
知識の普及に努めることなどを義務付けています。

そして、いざ新型インフルエンザ等が発生した場合には、

厚生労働大臣が、内閣総理大臣に報告
       ⇩
内閣総理大臣が、政府対策本部を設置
       ⇩
都道府県知事が、都道府県対策本部を設置

という流れになっています。

 

さらに進んで、新型インフルエンザ等が国内で発生し、全国的かつ急速なまん延により国民生活及び国民経済に甚大な影響を及ぼす(又はそのおそれがある)事態だと認められると、

新型インフルエンザ等緊急事態宣言

をすることとされています。

 

この宣言は、緊急事態措置を実施すべき期間や区域を示してなされるのですが、
当該区域の都道府県知事において、次のような措置の実施が可能になります。

○住民に、外出を自粛するよう要請
○施設管理者に、学校や福祉施設などの使用やイベント開催を停止するよう
 要請・指示
○臨時の医療施設を開設するため、土地や建物を所有者の同意がなくても使用
○運送事業者に、緊急物資を輸送するよう要請・指示
○事業者に、医薬品、食品等の売渡し要請・収用等

  

こういったことは、国民の自由と権利を制限するものですので、
制限が必要最小限のものでなければならないことも、併せて定められています。

今回、新型コロナウイルス感染症(COVID-19)の世界的な流行を受け、
政令で定める日までの間、新型コロナウイルス感染症を、

「新型インフルエンザ等対策特別措置法に規定する新型インフルエンザ等」

とみなすことを内容とする法改正がおこなわれました(令和2年3月13日可決成立、翌日施行)。

 

そして、事態はまさに現在進行形で動いています。

2020年4月7日、
実際に「新型インフルエンザ等緊急事態宣言」が発出されました。

これを受けて、各自治体から、様々な自粛要請が出されていることは、
日々報道されているとおりです。
本当に、これまで経験したことのない、未曽有の事態です。

 

幸い、自分の身の回りにはまだ感染者はいないのですが、それでも、すぐそこまで危険が差し迫っているという緊迫感や危機感を覚えずにはいられません。
こういった緊急事態では、政府が強力なリーダーシップを発揮して事態収拾に当たることも絶対に必要です。

反面、国民の自由と権利が必要以上に制限されてしまうことも、絶対に見過ごすわけにはいかないことです。

今回の事態で、欧米に比べて、政府の権限が弱いのではないかとの指摘もあるようです。その分、私たちには、「自主的」な行動規制が求められているのかもしれません。

 

一日も早く平穏な日常が戻るよう、今は、我慢の時です。
一人一人が、自分ごととして、自分ができることに真剣に取り組んでいくことが、事態を乗り越えるための一番の近道と信じます。

 

~~~

 

改正された法令として収録されたものとしては、
消費税法(昭和63年法律第108号)があります。

この年制定された「社会保障の安定財源の確保等を図る税制の抜本的な改革を行うための消費税法の一部を改正する等の法律」により、消費税率及び地方消費税率は、次のように2段階で引き上げることとされました。

改正前の税率は、消費税率4.0%、地方消費税1.0%の計5%だったところ
平成 26 年4月1日に、消費税率6.3%、地方消費税1.7%の計8%へ、
平成 29 年4月1日に、消費税率7.8%、地方消費税2.2%の計10%へ引き上げることが規定されたのです。
(※ 消費税10%への引き上げ時期は、その後、延期されました。)

 

一口に「消費税」と言っていますが、実は、
国税である「消費税」と、地方税である「地方消費税」の合計だったんですね。

この消費税、日本に初めて導入されたのは平成元年4月1日で、
その時の税率は3%でした。

その後、平成9年4月1日には税率が5%(国4%+地方1%)に引き上げられ、この年の法改正で更に2段階で引き上げられることとなったわけですが、
引き上げの理由としては

高齢化により社会保障費が膨らんで若い世代への負担が大きくなりすぎること、
国民全員が平等に負担する消費税が適していること、
景気に大きく左右されない安定した財源であること

などが挙げられています。

 

消費税8%への引き上げは当初予定した期日におこなわれましたが、
消費税10%への引き上げは、2度にわたって延期され
最終的に、平成31年(令和元年)10月1日から実施されています。

様々な対策が講じられたものの、
やはり日本経済への打撃は大きかったと分析されているようです。
払う側の心理としては、やっぱり、10%って大きいですよね・・・。

消費税は、物品やサービスの「消費」に対し、消費者が負担する税です。
食料品や外食、洋服などにも課税されており、私たちの生活に一番身近な、毎日のように支払わなければならない税金です。
(ちなみにですが、弁護士報酬にも、消費税は課税されます。「消費」している感じはないですけどね。)
支払を逃れられないのなら、せめて、本当に私たちに役立つ形で使われているかどうか、きちんと見守っていきたいものです。

商標についてのお話②

前回の商標についてのお話①では、商標とはなにか、区分や指定商品・役務を中心に書きました。

今回は、前回の続きから、まずは出願しても登録を行うことができない商標について書きたいと思います。

“商標についてのお話②” の続きを読む

商標についてのお話①

先日、茨城県水戸市のイベント会社が、徳川の家紋「葵の御紋」に似た紋様で商標登録を行い、既に「葵の御紋」で商標を登録している公益財団法人徳川ミュージアムが特許庁に異議を申し立てたというニュースを見かけました。以下ニュース記事引用です。

水戸徳川家の「葵の御紋」によく似た紋様を水戸市内のイベント会社が商標登録していることが分かった。水戸徳川家の15代当主が理事長を務める公益財団法人が特許庁に異議を申し立てていて、同庁が異議を認めるかどうか検討している。

特許庁の公開情報などによると、民俗芸能の企画・運営などをしている水戸市のイベント会社が昨年12月、お守りや日本酒、演芸などに使うとして、三つ葉葵の紋様を商標として登録した。

これに対し、15代当主徳川斉正さんが理事長の公益財団法人「徳川ミュージアム」(東京都)が今年3月、ミュージアムがすでに商標登録している紋様と酷似しているとして、特許庁に異議を申し立てた。葉の模様が多少異なる程度で、代理人を務める下坂スミ子弁理士は「こちらの使用にも影響が出かねず、見過ごすわけにはいかなかった」と話している。

特許庁は現在、異議を認めるかどうかの審理中だ。イベント会社は取材に対し「この件についてはコメントしない」と答えている。

(「「葵の御紋」そっくり、商標登録 徳川側、特許庁に異議」、朝日新聞デジタル、2016年11月5日更新、http://www.asahi.com/articles/ASJC44JJ2JC4UJHB01X.html、2016年11月11日引用)

確かに、両者の商標を比べてみると、とても良く似ているんですよね。これは助さん格さんにどうにかしてもらいましょう。

そもそも葵紋とは何だろうと思い、気になって調べてみました。以下、葵紋ついての記事を引用です。

三つ葉葵紋は、もともと徳川家のルーツである松平家の紋として使われていました。
松平家だけではなく、本多、酒井といった三河武士団の中にも葵紋は多く、本多家や酒井家が松平家よりも先に葵紋を使っていたのではないか、という説もあります。

そもそも葵紋は、京都の賀茂神社の神紋でした。

賀茂神社の神紋は徳川家のような三つ葉葵ではなく、葉が二枚の二葉葵ですが、葵紋の意匠の元になったフタバアオイは、その名の通り葉が二枚です。そのため、紋としては二葉葵が古く、そこから実在しない三つ葉葵が派生したと考えられています。

(「徳川家康の家紋 三つ葉葵はどんな意味を持つ紋所なのか?」、歴史のトリビアひすとりびあ、http://historivia.com/cat4/tokugawa-ieyasu/504/、2016年11月11日引用)

葵紋とは、フタバアオイがモチーフになっており、通常のフタバアオイの葉は2枚だそうで、3つの葉をもつフタバアオイは架空のものとのことです。徳川の家紋である葵紋は3つ葉なので、架空のものとのこと。

徳川時代には、葵紋は徳川家のみ(所説あるみたいですが)に使用が許され、あの有名なセリフ「この紋所が目に入らぬか」でおなじみであるように、葵紋を見ると悪党も退散していくほどの強い力をもっていたものが、現在では商標として登録されているんですね。

 

という訳で、今回は商標について書こうと思います。
商標の全体的な仕組みなどから、少しご説明いたします。

“商標についてのお話①” の続きを読む

会社設立のお話③

さて、会社設立のお話①に引き続き株式会社の設立について書きます。
前回は、定款の認証についてご紹介いたしました。
今回は、④資本金の払い込みから設立登記完了までの手続きについて書きます。

会社設立の流れは以下となりますので、①~③の手続きについては、会社設立のお話①をご参照ください。

①設立事項の決定

②定款の作成

③定款の認証

④資本金の払込

⑤登記申請に必要な書類の作成

⑥登記申請

⑦設立登記完了

“会社設立のお話③” の続きを読む

イルカと化石

イルカについて書きます。

7月20日 16時25分 600万年前の地層から発見 新種のイルカの化石公開 千葉県鋸南町のおよそ600万年前の地層から発見されていたイルカの化石が、新種のイルカであることが分かり、千葉市の博物館で特別に公開されています。

特別公開されているのは、千葉県鋸南町のおよそ600万年前の地層から24年前に発見されていたイルカの頭の骨の化石の一部です。 古生物学が専門の秀明大学の村上瑞季助教が、保管されていた化石を詳しく調べたところ、鼻の骨が厚いなどの特徴が見つかり、新種のイルカであることが分かったということで、化石が見つかった地域の名前「安房」にちなんで「アワイルカ」と命名されました。

アワイルカは体長が1.5メートルほどで、長いくちばしを持っていたと考えられ、今は南米にしか生息していないアマゾンカワイルカの仲間だということで、当時の生態系を知るうえで貴重な資料だということです。

千葉県立中央博物館の伊左治鎭司主任上席研究員は「千葉の地名が付いた貴重な化石なので、ぜひ多くの人に実物を見てもらいたい」と話しています。 アワイルカの化石は、千葉市中央区の千葉県立中央博物館で9月4日まで公開されています。

 

という記事を少し前に読んだからです。

でも、化石について語れることは何もありません。
化石がどうして化石になるのかも知りません。
もちろん、イルカのことも知りません。

なので、判例を調べてみました。
イルカで調べても、なぜか建築紛争しかなかったので、化石にしました。 なお、建築紛争で出てくるイルカは「タ イルカ ーペット」というものでした。気になる方は調べてみてください。

“イルカと化石” の続きを読む