第三者割当増資(買収防衛策としても)
M&Aとしての第三者割当増資。増資は資金調達。
⇒新しく会社に株式を発行してもらう方法
公開会社は取締役会決議で募集株式の発行が可能(授権の範囲内)。
ただし、特に有利な発行の場合には
株主総会の特別決議(会社法199条-201条)。
会社支配権に大きな変動を及ぼす場合であっても、
会社法ではいわゆる「主要目的ルール」については特段の規制を置いていない。
なお、欧米では、法律あるいは取引所規制等で、
会社支配権を取得させるほどの大量の株式の発行等をする場合には、
株主総会の承認を原則的に要求する例もある。
議決権を変動させるような発行の場合は、東証の規制がある。
再掲:東証「安心して投資できる市場環境等の整備に向けて」より
問題意識 | 対象 | 手続/審査 | 備考 |
希釈化・支配権の移動 | 希釈化300%超 | 実質審査の対象とする | 株主の利益を侵害するおそれが少ない場合は措置を講じない。 |
希釈化25%以上 又は 支配権の移動あり |
経営陣から独立した者からの意見聴取 又は 株主総会決議などによる株主意思の確認 |
左記の手続きを実施することが困難なほど資金調達の緊急性が高いと東証が認める場合は、手続きは不要。 | |
割当先に関する 問題 |
支配株主の異動 あり |
事後的に支配株主との間の取引について確認 | |
割当先が上場会社 及び 取引参加者以外 |
割当先の反社会的勢力等との関係の有無について確認 | ||
有利発行の該当性 | 計算方法次第では ディスカウント率が10%超 |
開示資料に監査役からの適法性に関する意見を追加など | CB及び新株予約権の場合は必ず必要。 |
資金的手当て | 第三者割当全般 | 上場会社による割当先の資金手当ての確認並びにその方法及び結果の開示 |
有利発行と支配権の変動に関して、
有利発行については条文に根拠がある(会社法199条3項、200条、201条)。
結局有利発行じゃない場合には、取締役会決議で発行可能。ただ有利発行であっても、株主総会決議を経れば募集株式の発行はできる。
では、この募集株式の発行でM&A、企業同士の提携がおこなわれた事例はどのようなものがあるのか。
募集事項の決定
会社法200条(募集事項の決定の委任)※一定の事由を決めて委任可能 「1 前条第2項及び第4項の規定にかかわらず、株主総会においては、その決議によって、募集事項の決定を取締役(取締役会設置会社にあっては、取締役会)に委任することができる。この場合においては、その委任に基づいて募集事項の決定をすることができる募集株式の数の上限及び払込金額の下限を定めなければならない。 2 前項の払込金額の下限が募集株式を引き受ける者に特に有利な金額である場合には、取締役は、同項の株主総会において、当該払込金額でその者の募集をすることを必要とする理由を説明しなければならない。」 ※非公開会社でも、ある程度までは取締役会に委任可能 |
会社法201条(公開会社における募集事項の決定の特則) 「第199条第3項に規定する場合を除き、公開会社における同条第2項の規定の適用については、同項中「株主総会」とあるのは、「取締役会」とする。この場合においては、前条の規定は、適用しない。」 ※公開会社の場合には、有利発行(199条3項)でなければ原則として取締役会決議で発行可 |
株主総会の特別決議
会社法309条2項5号(株主総会の決議) 「1 株主総会の決議は、定款に別段の定めがある場合を除き、議決権をすることができる株主の議決権の過半数を有する株主が出席し、出席した当該株主の議決権の過半数をもって行う。 2 前項の規定にかかわらず、次に掲げる株主総会の決議は、当該株主総会において議決権を行使することができる株主の議決権の過半数(3分の1以上の合を定款で定めた場合にあっては、その割合以上)を有する株主が出席し、出席した当該株主の議決権の3分の2(これを上回る割合を定款で定めた場合にあっては、その割合)以上に当たる多数をもって行わなければならない。この場合においては、当該決議の要件に加えて、一定の数以上の株主の賛成を要する旨その他の要件を定款で定めることを妨げない。 ⑤ 第199条第2項、第200条第1項、第202条第3項第4号及び第204条第2項の株主総会」 ※どこまで自由に決議が認められるのか?友好的な場合、買収防衛策の場合。 |
例として、任天堂・DeNAの資本提携(第三者割当のケース)に注目したい。
(平成27年3月17日付ニュースリリース、会社HPより)
任天堂株式会社と株式会社ディー・エヌ・エーの業務・資本提携合意のお知らせ
任天堂株式会社(本社:京都市南区、取締役社長:岩田 聡、以下任天堂)と、株式会社ディー・エヌ・エー(本社:東京都渋谷区、代表取締役社長兼 CEO:守安 功、以下 DeNA)は、本日、グローバル市場を対象にしたスマートデバイス向けゲームアプリの共同開発・運営及び多様なデバイスに対応した会員制サービスの共同開発に関する業務・資本提携について合意いたしましたので、以下のとおりお知らせいたします。 |
⇒M&Aという「支配下におく」というところまでではないが、
株式をお互い発行しあうという意味では、ひとつの例。
(割合が増えるとM&Aまでいくので、M&Aのすごく小さい版、というところ)
これは任天堂とDeNAが2015年に業務提携した話。
注目すべきは「3.資本提携の合意内容」で、ポイントは、有利発行ではないので任天堂及びDeNAの取締役会で決議がされている点。
自己株式、既に発行した株式を、もう一度自分のところに買い戻している。一度自分のところに買い戻した株式を、更にもう一度誰かに売る、処分することもできる。ただ、それも第三者割当の一種として、自己株式を処分するかたちで株式を発行している。
実際の登記簿を確認してみると…
DeNAの「発行済株式の総数」は平成24年にやや増加しており、その分は任天堂に発行している。
また、任天堂において「発行済株式の総数」は変わっていない。なぜなら、自己株式を処分したから。
このように、株式を発行するかたちで企業提携~M&Aをおこなうことも可能。
既に株式を持っている人から株式を買うのではなく、新しく株式を発行してもらうこともできる、というのが任天堂とDeNAの例。
この2社は仲が良いので有効的なかたちで株式を発行してもらうことができたが、それが不可能な場合は、株式を買い占めにいく(敵対的買収)。
⇒株式を買う目的というのは様々。
「その会社の経営を本当に良くしたい」と思う人もいれば、ぱっと買ってぱっと財産処分して配当してもらってさっさと株式売る、みたいな人もいる。本当に様々。
みんながみんな、会社の為を思ってやろうとはしているが、なかなかそうもいかない。“それぞれの価値観が色々反する状況が訪れる”というのが敵対的買収。