会社法上の組織再編・事業譲渡(M&A)
これまで見てきたのは、株式の取得や移動の話。
それ以外にM&Aの手法として、以下のものがある。
※いずれも相手方の同意が必要なので、敵対的に行われることはない。
合併(吸収・新設)、会社分割(吸収・新設) 会社の入れ物自体の変動(組織法的行為)株式交換・株式移転 株式の変動だが、組織法的行為として登記も必要事業譲渡 会社の中身の移動(通常の取引行為、民法債権譲渡) |
これらを具体的かつザックリと、大枠について説明していきたい!
合併
会社Aが会社Bの有する事業Bが欲しいと考える -どのように買えば良い?
株式譲渡 下の「株式B」を買えば、会社Bの事業Bは全部ついてくる。 ![]() その買い方、自社への取り込み方として「合併」がある。 会社の合併とは、2つ以上の会社が合併契約によって1つの会社に合体すること。 |
吸収合併:当事会社の一つが存続会社となり、他方の消滅会社を吸収すること。
会社Bという法人格は会社Aに吸収され、解散消滅。 |
新設合併:全当事会社がすべて消滅し、新しい会社を設立すること。
先程は会社Bだけが消滅したが、今度は会社Aも消滅。 ⇒新設合併をとる会社はなかなかない。どこかに取り込めば済む話だから。 |
吸収合併・新設合併の違い:「法人格」を残す必要があるか?
「どちらを法人格として残すか」はよく問題になる。
検討材料となるのは、どちらが契約・許認可などを多くもっているかという点。
⇩
契約・許認可は「法人格」とのつながり。会社が消滅すると当然に消滅。
権利の再取得よりも、法人格を残すほうがスムーズ。
株主の収容との関係では、吸収合併では、消滅会社の株主は、合併対価等の柔軟化により、必ずしも存続会社の株式が交付されるというわけではない。
⇩実際の事例が、新光証券とみずほ証券の合併契約(合併のケース)。
みずほ証券株式会社(以下「みずほ証券」といいます。)及び新光証券株式会社(以下「新光証券」といいます。)は、両社の合併(以下「本合併」といいます。)に関して、平成 20 年 4 月 28 日にあらためて「合併基本合意書」を締結した上で、同合意書に基づき協議を行ってまいりました。 |
(平成21年3月4日付プレスリリース、会社HPより)
新光証券の登記簿を確認すると⇩こんな感じ。
みずほ証券株式会社
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新光証券の登記なのに「みずほ証券」になっている。
この経緯は、
①新光証券がみずほインベスターズ証券を合併して、一度新光証券に取り込む
②その後「みずほ証券株式会社」に商号変更
なぜこんなことをするかというと、
新光証券側のもつ許認可や権利関係から、その法人格を残したほうがいいという考えがあったから。だが、世間的には「みずほ証券」のほうが知名度があるので
<新光証券の法人格を残して合併→みずほ証券に名称変更>
という、なかなか複雑なことをおこなった。
ちなみに、みずほインベスターズ証券株式会社も幾度か合併している。
みずほインベスターズ証券株式会社
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こうやって今のみずほ証券ができあがっている。
参考記事:
「みずほ3社の概要」
(2011/2/26 日本経済新聞 電子版)
分割
これはどちらも法人格が残る。単に事業のみ取得したい場合に用いる。
吸収分割:一つの会社を二つに分けること。特定の事業部門を独立させて別の会社に承継させて会社経営の効率化を図るための分割。不採算部門と良好な事業部門とを分割して、それぞれ別個の会社に承継させて不採算事業部門を承継した会社は、解散精算する一方で、良好な事業部門を承継した会社は、さらにその発展を図る目的での分割。
会社Aは会社Bのもつ事業B・bのうち、事業Bのみ欲しい。 |
新設分割 どこかの会社が「この会社買いたい!」という場合ではなく、事業のみを切り離したいときに新設分割の方法をとることがある。 ![]() 会社Bが「事業Bは別会社でやったほうが良いのでは…」と切り離す場合など。 |
吸収分割・新設分割を使ったうえで、どのような会社が何をやっていたのか。
それが⇩KADOKAWA・DWANGOの会社分割の例。
連結子会社(株式会社 KADOKAWA)との会社分割(簡易吸収分割)に係る分割契約締結に関するお知らせ
当社は、本日開催の取締役会において、平成27年4月1日(予定)を効力発生日として、当社の連結子会社である株式会社 KADOKAWA(以下、「KADOKAWA」)の事業のうち、エンターブレインブランドカンパニー※の行うゲームメディア関連事業、マーケティングリサーチ事業及びこれらの事業に付随して広告本部が行う広告事業を吸収分割の方法により承継することを決議しましたので、下記のとおりお知らせいたします。なお、本会社分割は、当社100%子会社の事業を承継する簡易吸収分割であるため、開示事項・内容を一部省略しております。 |
(平成27年1月29日付プレスリリース、会社HPより)
ここでまた登記簿を確認してみると・・・
株式会社KADOKAWA
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⇒プレスリリースにも記載のとおり、
吸収合併で角川グループHDのなかに色々な会社を取り込んでいる。
(角川グループパブリッシングやアスキー・メディアワークスなど)
取り込んだのちに「KADOKAWA」へ社名変更し、
「KADOKAWA・DWANGO」というのを外へ出して切り離している。それにより「株式会社KADOKAWA・DWANGO」になる、これが新設分割の例。
⇒株式会社KADOKAWA・DWANGOの登記には、
「平成27年4月1日東京都千代田区富士見二丁目13番3号株式会社KADOKAWAから分割」と記載がされている。
なお、現在は社名を変更し「カドカワ株式会社」となっている。
参考記事:
「カドカワ、純粋持ち株会社へ移行 ゲーム子会社社長には浜村氏」
(2017/5/25 日本経済新聞 電子版)
企業の再編の一種として、こういったことをおこなうことがある。