いきなり企業法! <3.株式>

かなーり時間があきましたが!いきなり企業法第3回、テーマは株式。今回もいきなり!解説していきます。

株式とは一体何なのか。
というところからいきなり始めていくことにして。

会社の特徴の一つである社団性、すなわち二人以上のグループであることから導き出される概念である。
ひとりで事業をおこなっているのであれば、そのままその人に権利義務を取得させればよい。2人以上になったとき、誰か個人に権利義務を帰属させるのか、それともそのグループそのものに帰属させるのか、という論点が生まれるわけである。
会社に法人格を認める以上、社団性があることが会社の存在意義のひとつなのである。と、まあ何ともトートロジー感のあるお話ではありますが……

その存在意義を基礎付ける方法のひとつが株式である。社団性という観点から、自分ひとりで会社を設立したとしても、後々複数人のグループにならなくてはならない。
株主というのは会社の構成員であり、株式とは「株式会社の社員たる地位」のことをいう。株式を用意しておけば、株式を自分以外の誰かに渡すことで「株主」というポジションの人が出現し、会社を構成するメンバーとなるのである。

「株式」の関連ワードとして「株主」「株券」という言葉の意味について考えてみよう。
ざっくりしたイメージとしては、株式は株の権利、株券はその権利が表章されている有価証券、株主はその権利を持っている人という感じだろうか。会社法127条に「株主は、その有する株式を譲渡することができる。」とあるように、譲渡するのは株券ではなくその中身である株式であり、株券自体は有価証券なのであってもなくてもどちらでもよいわけである。

この株券というのは無記名証券である。どういうことかというと、その証券に所有者の名前が書いていないため、モノ(=証券)を持っている人がその所有者であるということ。記名式であれば、そこに所有者や宛名が書いてありその人しか使うことができないので、モノを持つこと自体にあまり意味はない。
たとえば、あなたがカエルさんからお金を借りたときに作成した借用書をウサギさんがたまたま拾ったとして、ウサギさんがあなたに対して「カエルさんではなくこの借用書を持っている私にお金を返してください」と言っても通用しないということである。
といいつつ、近年は株券不発行会社が多く、無記名証券である意味は薄れてきている。現在、上場企業の株券はすべて電子化されて紙の株券は存在しない。もともと株券は紙で存在し、それは無記名式。その紙を人に渡すことで株式の譲渡が成り立っていた。

ちなみに。
民法86条には次のような規定がある。

1. 土地及びその定着物は、不動産とする。
2. 不動産以外の物は、すべて動産とする。
3. 無記名債権は、動産とみなす。

不動産、たとえばその土地が自分のものであることを誰かに証明するためにはどうしたらいいかというと、登記をするのである(民法177条)。不動産以外のもの、すなわち動産はどうすればよいかといえば引渡し、それを所持していればよいことになっている(民法178条)。

ところでお金も無記名である。カエルさんの名前が書かれた一万円札があったとしても、それをウサギさんが持っていればウサギさんの一万円札である。ここでお金に関する判例をひとつ参照したい。

金銭は、特別の場合を除いては、物としての個性を有せず、単なる価値そのものと考えるべきであり、価値は金銭の所在に随伴するものであるから、金銭の所有権者は、特段の事情のないかぎり、その占有者と一致すると解すべきであり、また金銭を現実に支配して占有する者は、それをいかなる理由によつて取得したか、またその占有を正当づける権利を有するか否かに拘わりなく、価値の帰属者即ち金銭の所有者とみるべきものである。
最高裁判所第2小法廷判決昭和39年1月24日

難しいことが書いてあるが、ざっくり言えばお金の場合は持っている人がその所有者ですよ、というお話。ウサギさんが持っている一万円札が、たとえばカエルさんのお財布から盗まれたものであっても、ウサギさんが持っているのであればひとまず所有者はウサギさんになるということである。

ときにあなたがタイラカ商店の株主になりたいとしたら、株主になるためにはどうしたらよいだろうか。
株主になるためには株を手に入れる必要があるが、会社に発行してもらうか、他の人から買うか、の二つの方法がある。
会社に発行してもらう場合は設立時出資と増資引受などが考えられ、これはなかなか、特に上場会社となればハードルが高い。それに比べて他の人から買うのは簡単である。何故なら株式は無記名かつ無個性、誰でも使えるから、いつ誰から譲り受けても問題ないから。なお、株券不発行会社は株式の譲渡を当事者の合意のみでおこなうことができるが、株券発行会社の場合は株式を譲渡するには株券を交付しないと効力が生じない(会社法128条)。

株を無事ゲットしたら、次に株主名簿の書き換え請求をおこなう。
株主名簿とは、会社が株主を管理するために作成している名簿である。昔は紙の株券を持っている人を株主として扱っていたが、今は一定の日(基準日)に株主名簿に記載されている人を株主として扱うことになっている(会社法124条)。もちろん会社が勝手に好きな人の名前を書いていいわけではなく、株式を買った人は会社に対して「名簿に記載してくれ!」と請求し、会社はその請求に従って株主名簿に記載するのである(会社法133条)。なお、株主名簿の書き換え請求は共同請求が原則であるものの、株券発行会社の場合は株券を提示することで単独での請求が可能である(会社法施行規則22条2項1号)。
株主名簿には
①株主の氏名又は名称及び住所
②前号の株主の有する株式の数
③第1号の株主が株式を取得した日
④株式会社が株券発行会社である場合には、第2号の株式に係る株券の番号
を記載しなければならない(会社法121条)。
株主名簿には株主の名前が記載されるが、先ほどのとおり株券自体は無記名証券であり、それとこれとは別のお話であることに注意したい。名簿はこの“無記名証券”を“今”“誰が”持っているかについて、会社が管理するものなのである。

株主であることを証明するにはどうしたらよいだろうか。会社の名簿を以って証明すればいいんじゃない?というところで会社法130条を見てみましょう。

1. 株式の譲渡は、その株式を取得した者の氏名又は名称及び住所を株主名簿に記載し、又は記録しなければ、株式会社その他の第三者に対抗することができない。
2. 株券発行会社における前項の規定の適用については、同項中「株式会社その他の第三者」とあるのは、「株式会社」とする。

株主名簿に記載がないと株主であることを証明できないのに、記載することを請求するには株式を取得しなくてはいけないわけである。規制と規制が絡み合い、またしてもトートロジー。これは一体どうしたらよいの……と複雑に感じるが、まずは譲渡することからスタートし、買った人が株主名簿への記載を請求、そうして「おれ買ったよ!」「おれ譲渡したよ!」ということを第三者に対して証明できる、というお話。
なお、譲渡制限会社の場合、会社の承認手続等が必要なので注意。

ここでまた株式とは、というお話にいきなり戻りますが株式とは、株主としての細分化された割合的単位の形である。タイラカ商店の株式を100万分割したら、その株式1株の価値(=1株あたりに対するタイラカ商店の所有権)は100万分の1となる。

誰が持っている100円であっても100円には同じ100円の価値があるのと同じように、それぞれの1株は同じ1株であり、ウサギさんが持っている1株は価値が高くてカエルさんが持っている1株は価値がない……なんてことはなく、どれも同じ1株の価値がある。
その1株を持っている人はみんな平等に扱わなくてはならず(会社法109条)、これを株主平等原則といい、株主優待もこのルールに沿っておこなわれている。タイラカ商店は株主優待として、毎年3月31日時点の株主に対し、1株につきジュース1本をプレゼントすることにしている。たとえば、3株保有しているあなたには3本、100株保有しているウシさんには100本のジュースがプレゼントされるわけである。ウシさんの方がジュースをたくさんもらっているのはウシさんの方がたくさん株式を保有しているからであって、株主として平等に扱われている。100円持ってる人と1万円持ってる人の違いと何ら変わりはないということですね。

保有する株式数に応じて会社はあなたを株主として扱うわけだが、株主は会社から何をしてもらえるのか。会社はどういう内容で株主を株主として扱うのかというと、会社法105条に定められている。

1. 株主は、その有する株式につき次に掲げる権利その他この法律の規定により認められた権利を有する。
①剰余金の配当を受ける権利
②残余財産の分配を受ける権利
③株主総会における議決権
2. 株主に前項第一号及び第二号に掲げる権利の全部を与えない旨の定款の定めは、その効力を有しない。

<2-1.株式会社とは>で解説したとおり、株式会社の特徴の一つに営利性がある。株式会社とは、現代の経済システムの中で経済活動をおこない、そこで得た利益を株主に分配するものである。すなわち、この条文で示されている「株主に①剰余金の配当を受ける権利、②残余財産の分配を受ける権利のどちらかは必ず与えなくてはいけません」というのは、株主の権利を示すと同時に、株式会社の営利性を表しているのです。
なお、②は会社を清算するときに残った財産の配分を受けることであるが、ほとんど行使されることがない権利である。会社が解散=潰れるときは債務超過の場合が多いので、株主にお金が戻ってくるケースは非常に少ない……というのが現実的なところ。

株主の権利は大きく分けてふたつ、自益権と共益権がある。
自益権とは、自ら経済的利益を受ける権利のこと=お金を受け取れる権利のことで、配当と残余財産の分配がメインとなる。
共益権とは株主総会の議決権=会社の運営にかかわる権利のことである。みんなでみんなの利益になることを考えましょう、という権利。すでに述べたとおり、会社の経営は取締役に任せるが、とっても大事なことについては、会社のオーナーである株主がみんなで決めなくてはいけない。

自益権と共益権の一部には1株でも保有していれば使うことができる権利がある。これを単独株主権といい、先ほど述べた剰余金分配請求権(会社法105条1項1号)や、会社に株式を買い取ってもらう株式買取請求権がある。たとえば、ある日突然たいらかしょう株式は原則譲渡自由であり、基本的には会社に買い取ってもらうことができないが、会社が組織再編行為などをするにあたり、それに反対する場合は会社に株式を買い取ってもらうことができるのである。たとえば、ある日突然タイラカ商店から、全国にスーパーマーケットを展開するヒマラヤマーケットと合併する旨のお知らせが届いた。タイラカ商店の株主であるあなたが「地域密着という経営方針に賛成してタイラカ商店の株を買ったのに!合併なんて反対!」と思った場合、タイラカ商店に株式を買い取ってもらい、お金を返してもらうことができるのである。が、株式の算定方法は法律上明記されておらず、その価格設定(安く買いたいタイラカ商店vs高く買い取ってほしいあなた)で揉めることもしばしば。

1株から行使できる単独株主権に対し、ある程度の株数を保有していないと行使できない権利のことを少数株主権という。少数株主権とはわかりづらい言葉ではあるが、多数株主=議決権の過半数に対して、過半数に満たない議決権のことをいう(ちなみに、過半数を保有していると取締を選任できたりする。)。たとえば、総会議題・議案提案権(総議決権の1%以上or300個以上・会社法302条、305条)や、帳簿の閲覧(総議決権の3%以上or発行済株式数の3%以上・会社法433条)といった権利である。とはいえ株主であれば誰でもできてしまうと困るので、ある程度の持ち分が必要となっている、というわけです。

というところで株式について、今回はおしまい。次回は株式会社の機関です。

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