いきなり企業法! <4-1.株式会社の機関設計>

今回のテーマは「機関」ということで、今回もいきなり!はじめていきましょう。

「機関」といいつついきなりですが、まずコーポレート・ガバナンスについて説明したい。詳細はまた改めて解説するとして、コーポレート・ガバナンスの実現のためにはそれぞれの機関が協働することが重要ということで、まずぼんやりとざっくりと、コーポレート・ガバナンスの雰囲気をつかんでいただきたい。

そもそもコーポレート・ガバナンスとは何なのかというお話ですが、日本語にすると「企業統治」、それぞれの機関がお互いを監督・監視するシステムのこと。

株主は、株主総会で取締役を選任し、取締役あるいは取締役会にその経営を任せる。
つまり、「金は出す!あとは君に任せたから好きに事業をやってくれ!ただし、うまいことやって利益を出して私に配当金を出してくれ!」という意味で、株主としては会社が利益を出すことによって自分が持っている株の価値があがったり配当をもらえたりなど、なるべくたくさんお金がもらえればそれでオッケー。預けているだけでお金が勝手に増えるなんて全くありがたいことですね。このようにお金を出すことで会社を所有する株主と実際に会社を運営する人は別、というのが前回解説したとおり、「所有と経営の分離」という原則。
会社法の目的は株主利益を最大化すること、すべてはこれに尽きる。あらゆる機関は株主利益を最大化するために、とにかくがんばらないといけないわけである。
経営は取締役に任せているが、とはいえ好き勝手されたら困ることもある。ジュースを作って売る会社というお話でタイラカ商店に出資したはずなのに、目を離した隙に突然洋服を売り始めたりオリジナルマスキングテープを作ってみたりしていたら、えっジュース屋さんじゃないの!!?となることでしょう。
それを防ぐため、会社の重要なこと、根本的な部分の意思決定は株主ができるようになっている。たとえば定款には「会社の目的」、すなわち事業内容を記載しなくてはならない。タイラカ商店の定款に会社の目的として「飲料の製造、販売及び宅配」と書いてある。そうすると、タイラカ商店は洋服屋さんになったりマスキングテープ屋さんになってはいけないのである。で、この定款というのはいわば会社の設計図。大事な大事な定款を変更するには、株主総会を開いて決議をとらなくてはいけないことになっている。
株主が意思決定するというのは、株主総会の場で株主が「こうしてくれ!」と言い、それについて株主みんなで話し合って決める……ということではなく、株主総会にあがってきた議案に対して株主が「いいよー」と決議をするという、受動的なものである。株主総会は最高の意思決定機関ではあるが、株主というのはあくまで会社を所有しているのみで、経営には関与しない。日常的な経営には関与せず、会社にとって根本的な事項の決定にのみ株主総会を通じて関与するのみである。株主はお金を出すだけでそれ以上の責任を負わない、というのが「株主有限責任の原則」。この大原則があってこそ、株主は安心して経営を任せられる。

意思決定というのは往々にして難しいものである。1人が会社を所有していて1人が運営しているというのであれば、その人のご意見どおりにすればよいだけなので、そんなに難しいことはないかもしれない。たとえば友人と一緒にいるとき、「今日さー、お昼ごはん何食べる?」というテーマに対して意見が割れた経験がきっとあるだろう。自分と相手のたった2人しかいないのに、今日のお昼ごはんについて意見がまとまらないわけである。2人で何食べるかを決めることですら十分難しいのに、株主全員で会社の重要な事項について意思決定するというのは不可能と言えるだろう。
というわけで、株式会社というのは、超大事なことだけ株主が決めるけどあとは代表者を決めてその人にいろいろやってもらおう=経営を委任しよう、というルールになっている。しかしながらその代表者というのが利己的に振る舞いまくり、会社に損害を与える可能性がある。「最近お金ないな……あ!なんか会社がおれの車を欲しそうにしているから売ってあげよう!」と個人の所有物を超高値で会社に買わせたり、利益相反取引や競業取引をおこなったり、悪いことをする可能性はゼロではない。株主としては、悪いことをせずに利益を出し、「よい会社」としてがんばってほしい。そうすると、株主利益に連動するような報酬とかあればいいんじゃないのとか、悪いことをしないように経営者を監視するメカニズムを整備すればいいんじゃないのみたいな話が出てくるわけである。

お母さんから「お小遣いあげるからちょっとお手伝いして」と言われたきに「お小遣いいらないからやりたくない!」という気持ちになったりとか、「このページまで終わらせたらおやつ食べよう~」と思っていたのに結局終わる前におやつを食べてしまったりとか、動機付けというのは非常に難しく、それは会社の偉い人だってそれは同じである。そんなんでうまくいくのであれば、世の中の会社は全部うまくだろう。
インセンティブがうまくいかないとなると、監視役として第三者が常にチェックしていれば真面目に経営してくれるのではないだろうか。より厳しいチェックの実現のため、身内ではなく完全なる第三者である社外取締役に監視してもらう。とはいえ、たとえば勝手にゲームをしないようにお母さんに見張られていたとしても、あの手この手を使い、どうにか隠れてゲームをしようとする人もいるわけである。

このとおりあんまり勝手なことをされては困るので、会社法ではある程度のルールが決められており、規制が存在する。が、詳しくは改めてコーポレート・ガバナンスの回で解説するということで。
そんなコーポレートガバナンスのひとつの要素として、今回は機関のお話。会社にどんな機関があって、どういう仕組で意思決定がおこなわれて、どのように事業が進んでいくのか……みたいなところを理解していきましょう。


「会社」というモノは存在しない。入居している建物が会社かといえばそれは建物だし、働いている従業員はあくまで人である。会社というのは法律によって人格が付与され、法律上、人として振る舞えるようになっているだけであり、実在するモノではない。
なので、会社に代わって実際に動く人たちが必要となる。その人たちが会社の「機関」である。

株式会社が必ず設置しないといけない機関は会社法上二つあって、株主総会と取締役である。取締役会がない会社や監査役がいない会社はたくさんあるが、この二つはどんな株式会社であっても必ず設置されている。

何故この二つが必要なのかというと、「所有と経営の分離」という原則があるからである。会社を所有している人の集まりとしての株主総会、そしてその人たちから委任されて実際に経営をおこなうのが取締役という仕組み。株主総会と取締役がある会社を株式会社と呼んだのか、株式会社だから所有と経営が分離しているのか、ニワトリが先か、卵が先か、どっちが先かはわからない。

この二つを押さえた上で、他にどういう機関があるのでしょうか。

株主総会と取締役だけでは、取締役が勝手なことをしてしまうかもしれない。だから取締役の行動を株主総会で全部チェックする……というのはあまりに大変なので株主に代わって誰かに監視させたり、そもそも取締役にもっと慎重に行動させたりしたらいいんじゃない!!?という発想で生まれたのが取締役会という機関。取締役会が設置している会社を「取締役会設置会社」という。

取締役が自由に決められるとなると、1人しかいなかった場合、その人が暴走してしまうとどうにもならない。
それを防ぐためにまず取締役を3人以上設置し、そこに取締役会という合議体を置くことで「何をするにも取締役のみんなでよく話し合って決めてね!」と株主はお願いできるわけである。三人寄れば文殊の知恵、1人でやるより賢い判断ができる可能性が高い。
そして、取締役会を設置すれば一定程度の重要な意思決定を株主総会ではなく取締役会でおこなうことができる。つまり、取締役会を設置すると、株主総会の権限が縮小するということである。
また、取締役会設置会社には監査役の設置が義務付けられているため、ある程度の取締役の監視・監督を監査役に委ねることになる。これもまた、株主の権限が縮小するということになる。
本来、株主は会社のオーナーとして会社に関することを決めたり、取締役がちゃんと働いているかを監視・監督することができるが、それも大変だしある程度は委ねることもできるよ、ということ。

会社の機関設計、すなわちどのような機関を置くかどうかというのはある程度自由に決められるようになっている。

そもそも会社自体、実在しないものを“法律上”存在することにしているだけである。法律によって存在しているため、法律で「自由にやっていいよ」と定めれば、会社というのは自由にやっていいものになるのである。定款の絶対的記載事項など、決めなきゃいけないものは多少あるものの、ある程度は自由に形を決めて組み立てられる。
というのが会社法326条1項「株式会社には、1人又は2人以上の取締役を置かなければならない。」、2項「株式会社は、定款の定めによって、取締役会、会計参与、監査役、監査役会、会計監査人、監査等委員会又は指名委員会等を置くことができる。」に規定されている。この規定により、株式会社は株主総会と取締役は必ず置かなくてはならず、それ以外の機関の設置は自由に定めてよいということがわかる。

……という大原則があった上で、それぞれの機関の関係について、パズルのように規定されている。
ここで簡単に用語の解をしておくと、まず大会社とは、資本金が5億円以上または負債が200億円以上の会社のこと。公開会社とは、株式の譲渡制限がない会社のことで、すなわち上場会社はすべて公開会社ということになる。

会社法327条(取締役会等の設置義務等)
次に掲げる株式会社は、取締役会を置かなければならない。
①公開会社
②監査役会設置会社
③監査等委員会設置会社
④指名委員会等設置会社
2.取締役会設置会社(監査等委員会設置会社及び指名委員会等設置会社を除く。)は、監査役を置かなければならない。ただし、 公開会社でない会計参与設置会社については、この限りでない。
3.会計監査人設置会社(監査等委員会設置会社及び指名委員会等設置会社を除く。)は、監査役を置かなければならない。
4.監査等委員会設置会社及び指名委員会等設置会社は、監査役を置いてはならない。
5.監査等委員会設置会社及び指名委員会等設置会社は、会計監査人を置かなければならない。
6.指名委員会等設置会社は、監査等委員会を置いてはならない。
会社法328条1項(大会社における監査役会等の設置義務)
大会社(公開会社でないもの、監査等委員会設置会社及び指名委員会等設置会社を除く。)は、監査役会及び会計監査人を置かなければならない。

で、これをまとめると。

[パターン1]大会社で公開会社
株主総会+取締役会+監査役会+会計監査人
株主総会+取締役会+監査等委員会+会計監査人
株主総会+取締役会+指名委員会等+会計監査人

[パターン2]大会社で非公開会社
株主総会+取締役+監査役+会計監査人
株主総会+取締役会+監査役+会計監査人
株主総会+取締役会+監査役会+会計監査人
株主総会+取締役会+監査等委員会+会計監査人
株主総会+取締役会+指名委員会等+会計監査人

[パターン3]非大会社で公開会社
株主総会+取締役会+監査役
株主総会+取締役会+監査役+会計監査人
株主総会+取締役会+監査役会
株主総会+取締役会+監査役会+会計監査人
株主総会+取締役会+監査等委員会+会計監査人
株主総会+取締役会+指名委員会等+会計監査人

[パターン4]非大会社で非公開会社
株主総会+取締役
株主総会+取締役+監査役
株主総会+取締役+監査役+会計監査人
株主総会+取締役会+監査役
株主総会+取締役会+監査役+会計監査人
株主総会+取締役会+監査役会
株主総会+取締役会+監査役会+会計監査人
株主総会+取締役会+監査等委員会+会計監査人
株主総会+取締役会+指名委員会等+会計監査人
株主総会+取締役会+会計参与

これらすべてのパターンに任意で会計参与を設置することができる。なお、会計参与の設置が義務付けられているのは非大会社で非公開会社で取締役会のみを設置する場合の一通り。

それぞれの機関についてここで簡単に解説。株主総会と取締役、取締役会についてはまた後ほど。
まずは監査役。監査役の職務である監査とは、行為者とは別の者が一定の基準で行為の適否を判断することである。取締役がきちんとルールを守って職務を執行しているかをチェックする係が監査役。チェック係なので、当然ながら取締役等とは兼任することが禁止されており、また自己監査も避けなくてはならない。監査が厳しくてウザい!辞めさせたい!と思っても、そんなことでいちいち排除してはいけない……ということで解任については株主総会の特別決議でおこなわれ、また監査役は株主総会で意見を述べることができる。
そんな監査役の集まりが監査役会。3名以上の監査役で構成され、かつ、その半数以上は社外監査役でなくてはならない。社外監査役というのは過去に当該会社や子会社の役員・従業員でないことが要件で、上場企業においてはこの社外監査役を確保することがなかなか難しいと言われている。対する社内監査役というのはその会社出身の監査役のことで、やはり心情的に適切な監査ができないと思われる場合が多い。企業不祥事が起こるたびに監査役の選任ルールが厳しくなり、今では社外監査役の必要性が重視されている。取締役会の違いは、個々が独立している点である。みんなで話し合って監査しよう!ということはなく、その人がおかしいと思えばおかしいのであり、それぞれが独立して監査権限を有している。
最近できたのが監査等委員会設置会社という制度で、上場企業約4000社のうち、4分の1近い900社以上が導入している。反対に指名委員会等設置会社(旧委員会等設置会社)というのは人気がない。上場企業のうち導入している企業は70社ほど。このあたりは次回以降、コーポレートガバナンスの回でどうぞ。
会計監査人というのは公認会計士個人または監査法人による機関のこと。取締役や監査役というのはその会社の人であるところ、会計監査人というのは全く外部の人である(だから、役員と会計監査人をまとめて呼ぶときは「役員等」という。)。こちらも不祥事の影響から、継続的監査の制限など、会計監査人に関するルールも年々厳しくなっている。
会計参与というのは簡単に、会社の人として計算書類の作成を補助する人のこと。公認会計士や税理士がなれる。

で、会社の機関設計とは、あなたの会社の規模ややりたいこと、どのくらい経営者を監視したいかなどなどを考えた上で、これらの組み合わせから自由に選ぶことができる。
選択肢が多いほどむしろ不自由であり、困ってしまうのが世の常である。決められた制服を着て通学していた高校時代は毎日何も考えずに過ごしていたが、大学生になって私服通学になった途端「昨日着た服と今日着てる服似てるな……」「上下の組み合わせが思いつかないな……」「あわせる靴がないな……」と、自由がゆえの悩みも出てくるわけである。
そして、自由であるということは、何があってもそう決めたあなたの責任ですよ、ということ。

というわけで長くなってきたので一旦ここまで。後半は絶対に設置しなくてはならない取締役と株主総会に関する解説を中心に、それらを取り巻く機関についてのお話を。なお、弊所オリジナルグッズはAmazonにて好評発売中でございます。

  

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