企業法・授業まとめ-第13回-

会社が倒産したとき、労働者は …?

なお、倒産した会社で働いていた従業員の給与については
あらゆる権利のなかでもかなり優先的に保護されている。

Q3-1.勤め先が倒産してしまうと。賃金や退職金は支払ってもらえないの?

賃金の支払がなされていない場合には、たとえ倒産したからといって、そのことによって当然に、労働者が賃金を受け取る権利(賃金債権)や、使用者が賃金を支払う義務(賃金債務)がなくなるというわけではありません。

*倒産するまでの期間の賃金についての権利や義務
→原則としてそのまま残ります。
*倒産した後の期間の賃金についての権利や義務
→その後の労働契約関係が継続するか否かによることになります。

勤め先が法律上の倒産手続に入った場合
・ 賃金を含む勤め先が負うすべての債務の弁済は、それぞれの法律に定められたそれぞれの債権の優先順位や手続に従って行われます。
・ 法律上の倒産手続においては、賃金等の労働債権については、一定の範囲について優先権が与えられていますが、会社等に残された財産の状況によっては、賃金の支払が遅れたり、カットされたりする可能性もあります。
・ また、それぞれの法律に定められた倒産手続に拘束される債権の弁済を受けるためには、手続に従って裁判所に届け出ることが必要です。
・ 一方、倒産手続に拘束されない債権は、勤め先の会社等に請求すれば足りますが、それぞれの法律に基づいて財産を管理・処分する管財人等が選任されている場合には、管財人等に対して賃金債権の弁済を請求することになります。(法律上の倒産手続のうち、破産及び会社更生においては、必ず管財人が選出されることになっていますが、民事再生においては、必ずしも管財人が選出されるとは限りません。)

中小企業退職金共済制度のように、労働者が、退職金の積立先である社外の機関(独立行政法人勤労者退職金共済機構)に直接支払を請求すると、その請求に基づき退職金が社外の機関から労働者に直接支払われる仕組みになっている制度もあります。

Q3-4.未払賃金の立替払制度ってどんな制度?

本来、賃金の支払は個別の事業主の責任の範囲に属するものですが、会社等が倒産した場合には、残された財産が乏しい場合も多く、実際に労働債権を回収できるとは限りません。
そこで、労働者の救済を図るために、法律上の倒産又は中小企業の事実上の倒産の場合に、賃金を支払ってもらえないまま退職した方を対象に、国が「未払賃金の立替払制度」を実施しています。

立替払を受けられる条件
・ 勤め先が1年以上事業活動を行っていたこと。
・ 勤め先が倒産したこと(下記のいずれかに当てはまる場合)。
①法律上の倒産
(破産、特別清算、会社整理、民事再生又は会社更生の手続に入った場合)
この場合は、管財人等に倒産の事実等を証明してもらう必要があります。
②事実上の倒産
(中小企業について、労働基準監督署長が倒産していると認定した場合)
この場合は、労働基準監督署に認定の申請を行ってください。
・ 労働者がその勤め先を既に退職していること。
※退職日や申請日等について時期的な条件がありますので、ご注意ください。

・ 立替払の対象となる未払賃金は、定期的な賃金及び退職金に限ります。
※賃金の支払期日について条件がありますので、ご注意ください。
・ 立替払される額は、未払賃金の額の8割です。
ただし、退職時の年齢に応じて88~296万円の範囲で上限があります。
・ 手続は、おおよそ以下の流れで行います。
①倒産についての管財人等の証明又は労働基準監督署長の認定
②未払賃金額についての管財人等の証明又は労働基準監督署長の確認
③独立行政法人労働者健康福祉機構への立替払の請求

必要な書類や詳しい手順については、労働基準監督署又は独立行政法人労働者健康福祉機構で案内しておりますので、詳しくはお近くの労働基準監督署又は独立行政法人労働者健康福祉機構にご相談下さい。

 (労働局HPより)

先程、倒産した際に民事再生を選択する会社が多いと述べたが
会社更生を適用した会社で代表的な例は、JAL(日本航空)がある。

参考記事:
日航株が最終売買、1円で取引終える 20日上場廃止
(2010/2/19 日本経済新聞)

会社が倒産するとき、真っ先に損をするのは株主である。なぜか?
株主というのは有限責任ではあるが、基本的にリスクをとって出資しているため
銀行などの債権者に劣後する。
ゆえに、倒産時、“株主に対する支払い”は一番最後にとられる手続き。

JALもかつては時価総額何兆円…という会社であったが、この時の終値は「1円」に。
会社更生を申請し、上場廃止し、株はただの紙切れとなってしまった。
記念に電子化以前の紙の株券発行を求める株主もいたようである。

日航再生見直し案、問われる実効性
(2010/5/28 日本経済新聞)

管財人となった企業再生支援機構(現・地域経済活性化支援機構)らは、更生計画を進めるうえで、赤字路線廃止や空港からの撤退、リストラ等の策を講じ、その規模は2008年の3分の2程度まで縮小された。

再生計画づくり難航も リストラの方向性定まらず
(2010/2/26 日本経済新聞 電子版)

人件費というのは、収益を生み出す源泉でもあり、圧迫する経費でもある。
黒字体質にして借金を返すには、リストラは避けられなかった。
JALは2010年度末までに1万6000人程の人員削減を掲げたが、第1弾の早期退職募集に応募があったのは、わずか3600人程だった。

残り1万人以上を退職させないと、どうにもならない。その時会社はどうするか。
「整理解雇」する。

労働法の回でも触れたとおり、解雇というのはなかなか認められない。
会社の経営が少し傾いたくらいでの解雇は認められないが
「本当に潰れてしまう、どうしようもない」
という状態で整理解雇をした場合には、認められる。

しかし、元労働者との間で紛争になるケースもある。
JALのときも、実際に元労働者が解雇取消を求めて訴えを起こした。

日航、整理解雇無効で控訴 大阪地裁判決に不服
(2015/2/10 日本経済新聞)

元パイロットも敗訴確定 日航整理解雇訴訟
(2015/2/6 日本経済新聞)

 

⇩裁判所の決定も確認してみよう。

 

最高裁判所平成27年2月5日決定
〔判示事項〕
「航空運送会社が従業員らを整理解雇し、従業員らが、整理解雇を無効として、地位確認等を求めた控訴審で、地位確認請求を理由がないとして控訴を棄却した判決を不服として上告した事案。上告審は、本件上告の理由は、違憲及び理由の不備を言うが、その実質は事実誤認又は単なる法令違反を主張するもので、民訴法312条1項又は2項所定の事由に該当しないとし、上告を棄却、上告不受理の決定をした事例」

 

実際の決定も⇧のように非常にシンプル。
これまで紹介してきた判例等は、その理由まで非常に細かく丁寧に書かれていたものが多かったが、それが通常なのではない。

日本は三審制であり、地裁・高裁・最高裁の3つの段階があるが
細かなところまで立ち入り、証拠調べをしたうえで判断してくれるのは高裁まで。
そこから先は、下級審の出した判決が合っているかどうか、という視点でザックリ確認するのみ。

その作業を経て出されるのが、上記のような決定。
もちろんケースバイケースだが、殆どの場合はこの短い文章でさくっと終わる。
整理解雇にかかる訴訟は、特に珍しい事案ではないので、
「解雇は有効である」とされて終わってしまった。

日航、12年末までに再上場 更正計画案に明記へ
(2010/8/20 日本経済新聞 電子版)

以上のような従業員との紛争を経て、JALはまず「2012年末までに再上場する」という計画を立てた。(実際、2012年9月に再上場を果たしている。)
元労働者や株主を泣かせつつも、再上場し、現在も会社として頑張っているのである。

日航、納税530億円増 更生法特例見直しで国交省試算
(2015/2/10 日本経済新聞 電子版)

ANA『国内線の経験豊富』 スカイマーク債権者説明会
(2015/7/8 日本経済新聞 朝刊)

デルタ、アジア線強化狙う スカイマーク再生に名乗り
(2015/7/14 日本経済新聞 電子版)

スカイマーク、再生手続き3月内に終結へ 弁済にメド
(2016/3/24 日本経済新聞 電子版)

太平洋路線の強化課題 上海のハブ拠点化探る
(2016/5/10 日本経済新聞 朝刊)

 ⇒同じ航空業界で、民事再生法により再建したのがスカイマーク。
ANAがその株式を保有していたこともあってか、再生支援することに。
余談であるが、当初、アメリカのデルタ航空が日本国内線へ参入しようとスカイマークの再生支援を申し出ていた。

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