企業法・授業まとめ-第10回-

再掲:ダスキン事件

再掲<大阪高等裁判所平成18年6月9日(最高裁で維持)
〔判示事項〕
「1 食品販売会社において、食品衛生法上使用が認められていない添加物使用した商品が販売されていたことを後から認識した取締役らに、その事実を公表すべき義務があると認められた事例(ダスキン)」
〔判決文〕
「以上のとおり、一審被告らは、本件混入や本件販売継続の事実がZ側からマスコミに流される危険を十分認識しながら、それには目をつぶって、あえて、「自ら積極的には公表しない」というあいまいな対応を決めたのである。そして、これを経営判断の問題であると主張する。
しかしながら、それは、本件混入や販売継続及び隠ぺいのような重大な問題を起こしてしまった食品販会社の消費者及びマスコミへの危機対応として、到底合理的なものとはいえない。すなわち、現代の風潮として、消費者は食品の安全性については極めて敏感であり、企業に対して厳しい安全性確保の措置を求めている。未認可添加物が混入した違法な食品を、それと知りながら継続して販売したなどということになると、その食品添加物が実際に健康被害をもたらすおそれがあるのかどうかにかかわらず、違法性を知りながら販売を継続したという事実だけで、当該食品販売会社の信頼性は大きく損なわれることになる。ましてや、その事実を隠ぺいしたなどということになると、その点について更に厳しい非難を受けることになるのは目に見えている。それに対応するには、過去になされた隠ぺいとはまさに正反対に、自ら進んで事実を公表して、既に安全対策が取られ問題が解消していることを明らかにすると共に、隠ぺいが既に過去の問題であり克服されていることを印象づけることによって、積極的に消費者の信頼を取り戻すために行動し、新たな信頼関係を構築していく途をとるしかないと考えられる。また、マスコミの姿勢や世論が、企業の不祥事や隠ぺい体質について敏感であり、少しでも不祥事を隠ぺいするとみられるようなことがあると、しばしばそのこと自体が大々的に取り上げられ、追及がエスカレートし、それにより企業の信頼が大きく傷つく結果になることが過去の事例に照らしても明らかである。ましてや、本件のように6300万円もの不明朗な資金の提供があり、それが積極的な隠ぺい工作であると疑われているのに、さらに消極的な隠ぺいとみられる方策を重ねることは、ことが食品の安全性にかかわるだけに、企業にとっては存亡の危機をもたらす結果につながる危険性があることが、十分に予測可能であったといわなければならない。したがって、そのような事態を回避するために、そして、現に行われてしまった重大な違法行為によってダスキンが受ける企業としての信頼喪失の損害を最小限度に止める方策を積極的に検討することこそが、このとき経営者に求められていたことは明らかである。ところが、前記のように、一審被告らはそのための方策を取締役会で明示的に議論することもなく、「自ら積極的には公表しない」などというあいまいで、成り行き任せの方針を、手続き的にもあいまいなままに黙示的に事実上承認したのである。それは、到底、「経営判断」というに値しないものというしかない。」
「このようにみると、一審被告Y2及び一審被告Y1の善管注意義務違反、さらには、その後の「自ら積極的には公表しない」というあいまいで消極的な方針が、保健所の立ち入り検査後にマスコミ各社の取材を受ける形で急遽公表を迫られ、それにより上記のような大々的な疑惑報道がなされるという最悪の事態を招く結果につながったことは否定できない。したがって、一審被告Y1及び一審被告Y2と、その他の一審被告らは、事実を知った時期及び地位などに照らしその割合を異にするとはいえ、いずれもその善管注意義務違反により損害が拡大したことに責任を負うべきである。」
食品衛生法10条(添加物の販売等の禁止)
「人の健康を損なうおそれのない場合として厚生労働大臣が薬事・食品衛生審議会の意見を聞いて定める場合を除いてはm添加物(天然香料及び一般に食品として飲食に供されている物であつて添加物として使用されるものを除く。)並びにこれを含む製剤及び食品は、これを販売し、又は販売の用に供するために、製造し、輸入し、加工し、使用し、貯蔵し、若しくは陳列してはならない。」

⇒まず大前提として法律は守らなくてはならない。
ゆえに、「添加物を使用するか否か」という点に裁量はない。
(法律でダメといっているので。)

しかし、それがバレてしまったとき、その事実をマスコミに公表するか否かは、別に法律で定められているわけではない。
法律に書いていないのなら、そこは一応経営判断の部類である。

⇒これは本当に事例によって、という点。
細かな不祥事を都度公表すればコストがかかる。(謝罪広告など)

では、どの段階を超えたところで、企業として積極的に公表・対応していかなければいけないのか?
これもある程度経営判断が関わってくるわけだが、
この判決が示すのは

「経営判断」という言葉で許されることにも限界がある、ということ。

食品偽装をしてしまったのなら
“もうしっかり対応しているから今後の商品に添加物は入っていない”
ということを積極的に消費者に公表しなければ、やはり経営者としてはNGなのでは、ということ。

⇒この判決は一般論として、「綺麗事」として、良くまとまっている。
その綺麗事を、実際そのような状況に置かれたときにどこまで守れるか、対応できるかというと、なかなか難しい。
それでも、誤った対応の先に起きることを考えながら判断していく必要がある。

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繰り返しになるが
「小さなことをどこまで公表するか」をダスキン事件の判決から考えてほしい。

以上が食品に関する事件。

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