企業法・授業まとめ-第11回-

その他裁量的に労働するための制度

様々な制度により、
労働契約=労働時間の売買というところから
“その人がやってくれた仕事や業務内容を買う”方向に近づいている。

つまり、
“時間でその人の能力や役務提供を評価しない”という風潮にスライドしつつある。

◆フレックスタイム協定
1日・1週ごとに労働時間の規制をせず、1か月以内の清算期間の総労働時間の枠内で、労働者が毎日の始業時刻と終業時刻を自由に決めて勤務する制度

◆1年単位変形労働時間制
1年以内の特定の期間の総労働時間の枠内で、特定の日又は特定の週の所定労働時間を法定労働時間を超えて定めることを認める制度

◆専門業裁量労働みなし労働時間制
業務の性質上その遂行方法を大幅に労働者の裁量にゆだねる必要があるため遂行手段及び時間配分について具体的な指示をすることが困難な業務について、労使協定で定めた時間労働したものとみなす制度(デザイナー、SE、専門士業等)

◆企画業務裁量労働みなし労働時間制
事業の運営に関する事項についての企画、立案、調査及び分析の業務について、労働者の裁量にゆだねる必要がある場合(経営計画の立案等の職種)

⇒こうした動きはありつつも、
例外を追いすぎると原理原則が見えなくなるので、その点留意が必要。

 

有給休暇

有給に関しても、就業規則で定めなければならない。

Q.年次有給休暇とはどのような制度ですか。パートタイム労働者でも有給があると聞きましたが、本当ですか。
A.年次有給休暇とは、一定期間勤続した労働者に対して、心身の疲労を回復しゆとりある生活を保障するために付与される休暇のことで、「有給」で休むことができる、すなわち取得しても賃金が減額されない休暇のことです。


年次有給休暇が付与される要件は2つあります。(1)雇い入れの日から6か月経過していること、(2)その期間の全労働日の8割以上出勤したこと、の2つです。この要件を満たした労働者は、10労働日の年次有給休暇が付与されます。また、最初に年次有給休暇が付与された日から1年を経過した日に、(2)と同様要件(最初の年次有給休暇が付与されてから1年間の全労働日の8割以上出したこと)を満たせば、11労働日の年次有給休暇が付与されます。その後様に要件を満たすことにより、次の表1に示す日数が付与されます

年次有給休暇は、労働者が請求する時季に与えなければならないと労働基準で定められています。使用者は、労働者が請求した時季に年次有給休暇を与ることが事業の正常な運営を妨げる場合にのみ、他の時季に年次有給休暇をえることができますが、年次有給休暇を付与しないとすることはできません。

パートタイム労働者など、所定労働日数が少ない労働者についても年次有給暇は付与されます。
(厚生労働省「労働基準行政全般に関するQ&A」より)

賃金・賞与・退職金

労働基準法11条(定義「賃金」)
「この法律で賃金とは、賃金、給料、手当、賞与その他名称の如何を問わず、労働の対償として使用者が労働者に支払うすべてのものをいう。」
労働基準法115条(時効)
「この法律の規定による賃金(退職手当を除く。)、災害補償その他の請求権は2年間、この法律の規定による退職手当の請求権は5年間行わない場合においては、時効によつて消滅する。」

※時間外・休日割増賃金
・所定労働時間(休憩時間を除き原則1日8時間の範囲で定めることが可能)を超えた時間が時間外労働(残業)。

・週に1日の休日を与えなければならない(法定休日)、追加で与える休日は「法定外休日」、法定外休日は休日労働ではなく、単なる時間外労働。

・割増賃金の計算は複雑。一般の感覚とずれることも。

⇒115条にあるように、賃金には「時効」がある。
未払残業代は過去2年分しか支払われない(法律上請求できない)。

※賞与・退職金は任意の制度。定めなければ支給する義務はない。

<配転・出向・転籍について>

冒頭で触れたように、
会社で働く以上、その労働通知書に勤務場所が「全国」とあれば
全国どこにでも行かなければいけない。

配転<最高裁判所昭和61年7月14日判決
〔判決要旨〕
「全国的規模の会社の神戸営業所勤務の大学卒営業担当従業員が母親、妻および長女と共に堺市内の母親名義の家屋に居住しているなど、原判示の事実関係のみから、同従業員に対する名古屋営業所への転勤命令が権利の濫用に当たるということはできない。」
〔判決文〕
「上告会社の労働協約及び就業規則には、上告会社は業務上の都合により従業員に転勤を命ずることができる旨の定めがあり、現に上告会社では、全国に十数か所の営業所等を置き、その間において従業員、特に営業担当者の転勤を頻繁に行つており、被上告人は大学卒業資格の営業担当者として上告会社に入社したもので、両者の間で労働契約が成立した際にも勤務地を大阪に限定する旨の合意はなされなかつたという前記事情の下においては、上告会社は個別的同意なしに被上告人の勤務場所を決定し、これに転勤を命じて労務の提供を求める権限を有するものというべきである。
そして、使用者は業務上の必要に応じ、その裁量により労働者の勤務場所を決定することができるものというべきであるが、転勤、特に転居を伴う転勤は、一般に、労働者の生活関係に少なからぬ影響を与えずにはおかないから、使用者の転勤命令権は無制約に行使することができるものではなく、これを濫用することの許されないことはいうまでもないところ、当該転勤命令につき業務上の必要性が存しない場合又は業務上の必要性が存する場合であつても、当該転勤命令が他の不当な動機・目的をもつてなされたものであるとき若しくは労働者に対し通常甘受すべき程度を著しく超える不利益を負わせるものであるとき等、特段の事情の存する場合でない限りは、当該転勤命令は権利の濫用になるものではないというべきである。右の業務上の必要性についても、当該転勤先への異動が余人をもつては容易に替え難いといつた高度の必要性に限定することは相当でなく、労働力の適正配置、業務の能率増進、労働者の能力開発、勤務意欲の高揚、業務運営の円滑化など企業の合理的運営に寄与する点が認められる限りは、業務上の必要性の存在を肯定すべきである。
本件についてこれをみるに、名古屋営業所の金永主任の後任者として適当な者を名古屋営業所へ転勤させる必要があつたのであるから、主任待遇で営業に従事していた被上告人を選び名古屋営業所勤務を命じた本件転勤命令には業務上の必要性が優に存したものということができる。そして、前記の被上告人の家族状況に照らすと、名古屋営業所への転勤が被上告人に与える家庭生活上の不利益は、転勤に伴い通常甘受すべき程度のものというべきである。したがつて、原審の認定した前記事実関係の下においては、本件転勤命令は権利の濫用に当たらないと解するのが相当である。」

⇒家庭生活上の不利益くらいは甘受すべき、との判決。

このほかにも出向や転籍など様々あるが、知っておく程度でOK。
以下判例は参考まで。

最高裁判所平成8年1月26日判決
〔判示事項〕
「子会社への移籍拒否による解雇を不当労働行為として復職等を命じた労委の救済命令を適法とした原審の判断を正当と認め、上告が棄却された例」
〔判決要旨〕
「1、経営改善のために不採算部門の工場を子会社化し、当該工場の従業員を子会社に移籍させた会社が、移籍に同意しない従業員に対してした、「会社が経営規模の縮小を余儀なくされ、または子会社の合併等により他の職場への配置転換、その他の方法により雇用を続行できないとき」には従業員を解雇することができる旨を定めた就業規則及び労働協約に基づく解雇につき、同社において人員削減の必要性があったこと自体は認められるものの、十分な解雇回避努力が尽くされないまま解雇という手段が選択されたものであり、前記就業規則及び労働協約所定の「雇用を続行できないとき」に当たるものといえず、解雇権の濫用であるとして無効とした事例
2、経営改善のために不採算部門を子会社化し、当該工場の従業員を子会社へ移籍させた会社が、移籍に同意しない組合員に対してした解雇につき、労働組合法7条1号所定の「労働組合の正当な活動」といえるためには、ある組合に属する労働者が行う活動が、労働者の生活利益を守るための労働条件の維持改善その他経済的地位の向上を目指して行うものであり、かつ、それが所属組合の自主的、民主的運営を志向する意思表明行為であると評価することができることが必要であり、かつ、これをもつて足りるというべきであり、それが他面において政党員の活動としての性格を持つていたとしても、労働組合の正当な行為というを妨げないとした上、当該組合員は、特定の政党に所属し、その政党の構成員とともに組合の方針に反して移籍反対運動を展開していたものであるが、それによって、当該組合員の行為が純然たる政治活動に転化するものではなく、使用者は、当該組合員の組合員としての活動をも嫌悪して解雇に及んだものということができるから、前記解雇は、労働組合法7条1号所定の不当労働行為に当たるとした事例
3、事業部門の閉鎖に伴う解雇を不当労働行為と認め、解雇された組合員を解雇がなかったものとして取扱うこと等を命じた救済命令につき、当該救済命令は、当該組合員の職場が既に存在しなくなっていることを考慮し、復職すべき職場ないし職種の決定につき使用者の裁量の余地を残すとともに、職種転換も含めて当該組合員の理解を得ることで必要な救済を図ろうとしたものであって、労働委員会に与えられた裁量権の範囲を逸脱し、又はこれを濫用したものとは認められないとして、前記命令を適法とした事例上告会社の労働協約及び就業規則には、上告会社は業務上の都合により従業員に転勤を命ずることができる旨の定めがあり、現に上告会社では、全国に十数か所の営業所等を置き、その間において従業員、特に営業担当者の転勤を頻繁に行つており、被上告人は大学卒業資格の営業担当者として上告会社に入社したもので、両者の間で労働契約が成立した際にも勤務地を大阪に限定する旨の合意はなされなかつたという前記事情の下においては、上告会社は個別的同意なしに被上告人の勤務場所を決定し、これに転勤を命じて労務の提供を求める権限を有するものというべきである。」

以上が労働契約について。
ある程度の不利益は甘受しなければいけない、というところ。

 

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